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91話

アタシは手掛かりを探しに行く前にメルさん達の墓に来ていた。

 墓標には花が置かれている。


 タバコを吸いながら思い出すのは3人仲睦まじく暮らしていたこの家族の事。

 それが何の前触れもなく殺され、汚された事実にアタシは墓標の前で決意する。



 これからする事には一切の甘えは許されない。

 それはメルさん達の命が奪われたように、アタシも容赦なく他者の命を奪う事も辞さない覚悟をもって挑む必要があり、命を奪うという点では何も変わらないという事。


 ふと煙を追って空を言上げると、血に染まったような空が恐ろしく綺麗に思った。


 急に頭の中の魔導書のページが開かれ短い文章が刻まれていく。


 それはアタシの為の魔法の詠唱である事がすぐに理解できた。




 魔導書に書き込まれた詠唱を、アタシは墓標の前でそれをゆっくりと唱える。



 目の前の墓標に眠る者への鎮魂に……



 以前の自分への決別



 それにアタシのこれからの生き方が記されているかのようだった。



 詠み終わると右手に光の粒が集まり形作られ、出来上がった拳銃はまるで、身体の一部の様に初めからあったかの様に感じるほどだ。

 日は沈み辺りが暗くなりタバコの火だけが小さく光る。

 アタシは墓標に「行ってきます」 と静かに声を掛け目的の場所に向かう。



「本当に行くの~」


「あぁ、場所は路地裏の酒場だっけ?」


「荒くれ者がいっぱい居るから気を付けて」 不安そうに見つめるアルエットに見送られ、ガラが悪い事で有名な酒場へと向かう。


「ここか……」 薄暗く、狭い路地裏はどこか怪しい雰囲気に、少し怖気づくが意を決し踏み込む。

 奥に進むにつれ、店前から勧誘や客引きが多くなって来た。

「あたしと遊ばニャ~イ」 胸元の見える薄いドレスを着たネコ耳の獣人はアタシに近づき鼻をヒクヒクさせている。

「アタシ、行くところがあるから」 と断ると「え!? おんニャの子だったんだ」



 辿り着いた酒場に入ると酒を飲む人、金を数え、カードゲームをする人や首輪に繋がれた男性に女性に無理やりキスしている様子と多種多様で秩序など存在しない光景がそこにあった。

 カウンターに向かうと店員が寄ってきて注文を聞いてきたのでエールを注文する。


 すぐに薄い布を着た女性が注文したエールを持って来たので、アタシは一気に飲みほすとカウンターからさっきの男が「こんなお嬢ちゃんが来るなんて珍しいね。 もしかして冒険者?」 とアタシに話しかけてきた。


「ちょっと調べ物をしていてね。 このダガーについて何か知ってる?」 カバンから取り出し、カウンターに置いた瞬間、男の表情が変わり何かを知っているようだったので、ポケットから銀貨を5枚ほどカウンターに乗せる。



「何か知ってるなら、話してほしいんだけどなぁ」


「お、オレはし、知らない」


「本当か?」 アタシはさらに3枚の銀貨を乗せていると「知らねぇって言ってんだろぉ」と否定される。

 後ろからの気配に振り向くとヘラヘラとナイフをチラつかせた男がそこに居た。

「邪魔だったか? 収穫もなかったことだし帰ることにするかぁ」 ダガーをしまおうと手を掛けたアタシの腕が男に掴まれ、「そのダガーは置いて行けよ。 お嬢ちゃん」 どうやらこいつの方が何かを知っていると確信し、「このダガーってそんなに珍しいもんなの?」 ととぼける。


「早く寄こせって――」 アタシはエールの入っていたジョッキを相手の側頭部に叩きつけ、すかさず踏み込み、男の左の腹部にフックを入れる。

 悶絶した隙に後ろに回り込み、右腕を後ろにして膝裏を蹴り、床に押し倒す。


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