90話
「なにって、焼け跡に行ってただけだ。 あんたこそ、朝からめかし込んで何処に行くんだよ」
「ちょっと用事でな…… 野暮用で今戻ってきたところだよって てめぇそんなところに行って何を――」 アタシは焼け跡から見つけたダガーを見せると「それは何だ」 と言われ、焼け跡から見つけた事を伝え、見覚えがないか聞こうとした時、一瞬ではあるが表情が変わったのが見えた気がした。
「何か知ってるのかよ?」
「さぁな、それよりもそれをどうするつもりなんだ?」
「犯人探しならやめておけ」 と言われ、理由を問うと「甘ちゃんの癖に余計なことに首を突っ込むな」 と返されたことに「いつまでもガキ扱いすんじゃねぇよ。 さっきだって襲ってきた奴を倒す事だって――」
「殺したのか?」
グラウはさも当然の様に言った言葉に戸惑っていると「だから甘ちゃんなんだ。 そいつはお前を殺そうとしたんだぞ。 それを生きて返そうなんて、お人好しもいいところだ」 人間に魔法を使うのは初めてでは無かったけど、獣人であろうと初めて殺した時を思い出すとその選択は出来なかった。
だからアタシは、その罪悪感から未だに、ゴブリンや人型の魔物を銃で撃つ事を躊躇する。
グラウに連れられ、店の中に入り、カウンターの席に座らされる。
棚からグラスとビンを取り出し、中身を注ぐ。
2つのグラスに注がれた琥珀色の液体からは強いアルコールが香り、2つのうち1つをアタシの前に出される。
軽くグラスを打ち、グラウが一気に飲み干すと、アタシもグラスに入った酒を飲む。
喉から強いアルコールの臭いに咽かえり、咳き込むが少しずつ飲むと1杯目が無くなる頃には慣れたのか咽る事は無かった。
「おめぇはいい腕をしている。 だが足りねぇもんがある」
「殺さなかった事?」
「それだけじゃねぇよ。 もし、あの家族の敵を討ちたかったら、俺の話を思い出せ」 グラウが手を出し、指で挟む仕草をしたのでアタシはタバコを差し出すと受け取り、吸い始め、アタシは初めて特訓を終えた日の夜の事を思い出していた。
その日は初めての特訓が終り、疲れ切った身体を休める為にベッドで寝ていた時の事だった。
「何だよ。 今日はもうクタクタで寝てたのに――」 眠い目を擦りつつ、タバコを吸い覚醒を促しながら話を聞く事となり、アタシは不満を募らせていた。
「今からいう事をよく覚えとけよ」 グラウが話したのは冒険者としての心得だった。
1ねだるな勝ち取れ
2他人にものを頼むな、そして他人を信用するなら自己責任
3最初の魔法は絶対に外すな
4標的と武器や攻撃魔法の間に立つな
5傷を負わせたら殺せ 見逃せば自分が殺される
6危険な時ほどよく狙え
7縄を解く前には武器を取り上げろ
8挑戦を受けなければ全てを失う時がある
9自己の研磨を怠るな
そして最後は……
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アタシが何処まで出来るかは分からない。
でもここで行動しなきゃ……「誰が殺したのかは知らないけど何かある気がする」 グラスにアルコールを注ぎ飲み干し、ダガーを布に包み、アタシは店を出ようとした時――
「だがよ、正義の味方気取りで一度、厄介ごとに首突っ込んだらどうなるか知ってんだろうな?」
「そんな事メルさん達が殺された事に比べれば――」 厄介ごとに首を突っ込んでどうなったかなんて、痛いほど理解しているけどそれでもやらなければならない。
「死者が語る事は何も無ぇんだよ」
「じゃあ、凌辱され、殺された彼女の訴えは誰が聞くって言うんだよ。 あの家族の幸せを奪う権利なんて誰にもない!」
「馬鹿らしい、こいつを持って行け、あの時の報酬だ」 投げ渡され受け取る。
太いベルトの着いたバッグを渡され「これは?」 と聞くと「あの時の歌の約束だ。 そいつはマジックアイテムでおめぇ専用に作ってある」 アタシ専用との事に戸惑っていると「必要なんだろ、いい加減、弾をポケットに入れとくもの不便だろうしな」
作り置きしていた何十発もの弾丸がすべて収納された事に驚いた。
試しにバッグに手を入れ、魔法を発動すると必要な数だけの弾丸が装填されていた。
この簡易の収納魔法が施されたマジックアイテムで本来は魔石の収集に使われていることが多いと父親から聞いた事があった。
「貰っちまっていいのかよ」
「あぁ、俺は独り立ちできる位の事は教えた。 あとはおめぇ次第だ」
「いいのか、あんたへの支払いもしないまま死ぬことだって――」
「そりゃ無いな」
「根拠はあるのかよ」 根拠もなしにこんな分の悪い賭けをする人物には思えず。
なんだか気味が悪かった。
「根拠? そうだな…… 女の堪ってやつだ」 派手なドレスを着た男のオークが言う女の堪と言う言葉には不確かではあったけど今のアタシにはちょうど良かった。




