87話
注文を受け、料理やお酒を運んでいるとグラウがカウンターでレミルに何かを話しているのが見えた。
嫌な予感がして仕事が忙しいふりをしていると「ブロンディってお歌が上手なの?」 レミルに話しかけられ、グラウに「何でレミルに話してんだよ」 と抗議すると「痛たたたた」 芝居がかった様子に肩を押さえる姿に呆れていると「おじちゃん大丈夫?」 と心配するレミルにグラウが「ブロンディがお歌を唄ってくれれば良くなるかなぁ」 なんてくだらない事を言うもんだから結局、アタシは歌う事となった。
「ここで歌え」 とグラウにカウンター横にアタシが立たされると「ブロンディが歌うってよ」 との声に他の客からヤジが飛ぶがこうなったからには意地でも黙らせてやると意気込んだ。
周りは物珍しさにアタシを見る視線が恥ずかしいが覚悟を決め、深呼吸し、アタシは歌い始めた瞬間、頭の中に聞いたことの無いようなメロディーと共に歌詞が浮かぶ。
その歌は夜空を眺める主人公、悲哀と幸福は空に見える月の様に二面性を持ち合わせ、同時に存在する事、幸不幸に関わらず、人は諦めず人生を歩いて行くしかないと理解する。
そんな内容の歌だった。
歌い終わる頃には気が付くとさっきまで騒がしかった酒場がシーンと静まり返る。
酒場に居た何人かは涙ぐむ屈強な冒険者たちが見られる。
ダナンさんが拍手をすると、酒場にいた人達も自然と拍手が広がり、アタシがその光景に唖然としていると「歌えるじゃねぇかいい歌だったぜ」 と言われた。
「いい歌だった。 今日は俺がここに居る奴らに1杯奢るぜ」 1人の客の提案に夜は盛り上がり、「嬢ちゃんも飲め」 と客からエールをご馳走してもらった。
夜も更け、レミル抱えるダナンさんとメルさんを見送る直前、「いい歌だったわ。 明日も頑張れそうよ。 ブロンディちゃんも無理しちゃだめよ」 とそっと抱きしめてくれた。
子供ではない事を伝えようとしたけれど、アタシを包み込むメルさんの優しいぬくもりに今は甘える事にする。
スイングドアからニヤニヤしながらグラウとアルエットが見ていたので慌てて抜け出し、「メルさん達も気を付けてな」 と言うが今更、格好もつかなかったがメルさんの後姿を見ながら見送る。
翌日、昨夜のお酒で二日酔いで軽い頭痛の中、この魔法を理解しようと頭を捻っていた。
そこでアタシは以前からこの魔法に関して2つの意見があったそれを組み合わせる。
それは本体は水の属性で形成し、土で固定これにより銃を撃つ際の内部での爆発の衝撃を制御、弾丸は発射されると風の属性で飛ばしている事と解釈する。
魔力の内蔵量が少ないアタシにとって4つの属性を使っていたんだ。
魔石を介していたとは言え、魔力切れが早いのは当然のことでそこにさらにスキルを使うとなると……「泣けるぜ」 仮説ではあるけど、この魔法の構成がやっと理解できた。
しかし、詠唱を考えるとなるとまた別問題で名は体を表すように、グラウによると詠唱はその魔法の具現化の促進、あるいは契約とも言われていたりするらしい。
「詠唱が出来ないってのはさ、その魔法の構造じゃなくてその在り方を受け入れてないって事じゃないかな~?」 アルエットが自分の羽を的に当てながら言う。
「前にも言われたけど、 抽象的過ぎてよく分かんねぇんだよ。 この形には見覚えがあるんだけどなぁ……」 吐き出す煙が空に消え、吸い殻を小瓶に入れ、立ち上がる。
「人間と違って、私達魔族は身体的特徴そのものが、魔法に直結するからねぇ 良くも悪くも個性がないよね」
「個性がない?」 いまいちよく分からない事を言われ、混乱するアタシに笑いながら「だって、種族が人間のみで構成されてるし、魔族はそれこそ人の形でもトカゲや狼、ゴブリン族と色々いるからね。 それに比べたら個性がないって意味」 言われてみると確かに魔族はそれぞれの種族にあった魔法を使っているイメージがあり、それに比べると人間は種族としてみると個性的ではないなと変に納得する。
「少女よ。 努力する限り悩むもんだから気楽に行こう~」 軽やかに飛ぶ彼女の姿は美しく、羨ましく思えた。
「ブロンディも飛んでみる? 気持ちいいよぉ~」 鋭い爪が付いた足はアタシが拒否する間もなく捕まえられ、そのまま大空高く飛び上がる。
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ~!」 叫ぶ声は空に消え、下を見ると地面が遠くなり気を失いそうになる。
「この前も飛んだじゃ~ん」 軽く言うがあの時はそんな事を考える暇がなかったからで決して怖くなかったわけでは無いと言おうとした時、遠くの方で黒い煙が見えた。




