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85話

捕食者対しての獲物の様な気持ちでグラウをそっと見ると、肩には包帯が巻かれ、血が滲んでおり、着ているドレスも血に塗れ、その姿を見て、自分のした事に対しての後悔に胸が締め付けられる。


 これは自身がやった事で、気が動転していたとはいえ、バカなことをしてしまったと思う。

 じゃあ、どうすればいいのか答えは1つだけだった。



「ごめんなさい。 アタシはバカなことをしたと思っている。 撃ったことだけじゃない逃げた事も――」


「タバコ」


「え!?」


「いいから、おめぇのタバコを1本寄こせって言ってんだよ」 アタシは箱から1本のタバコを恐る恐る差し出すとランプでタバコに火を点けると、あっという間に吸い終え、大量の煙が吐き出され、近くにいたアタシは軽く咳き込む。


「普段こんなのを吸ってたのか…… 贅沢だな。 まぁ済んだ事はもういいから早く寝ろ」 事を起こした幕切れとしてはあまりにも呆気なく立ち尽くしていると「どうした。 まだ何にかあんのか?」 と面倒くさそうに言われた。



「だって、アタシが原因で――」


「面倒くせぇな…… 1度しか言わねぇからよく聞けよ。 言い訳の一つでもしてきたら八つ裂きにするか売り飛ばす事も考えていたが、お前は言い訳をする事なく素直に謝った。 それに俺が納得した。 ただそれだけだ」 アタシを見つめるその瞳に困惑する。

 アルエットはやれやれと言わんばかりに溜息をつき部屋を出る。



「でも――」


「ブロンディ、お前が過去に何があったか何て興味はねぇよ。 肝心なのはそれを言い訳にしなかった」 アタシの以前…… それは思い出したくもない事だった継母の裏切り。

 あの時の事をアタシは克服したと思っていたが現実はそうじゃなかった事を思い知らされた。


「過去の事はお前自身が決着をつける事で、俺がどうこう言えるもんじゃねぇよ。 ただ目の前の現実は俺が被害者でお前が加害者。 それはどんな理由でも覆る事はねぇんだ」 話を聞いているとアルエットがグラウとアタシにコーヒーを入れてくれ、それをゆっくりと飲むと、そのスモーキーな強いアルコールの風味とは裏腹に喉を通る度に優しく身体を温める。



「話はこれで終わりだ。 さっさと寝ろ、夜更かしは肌に悪いぞ。 それから明日は休みだ。 好きに過ごせ」


「やったー、なにしよっかな~」 喜ぶアルエットとは対照的に素直に喜べないアタシにさっさと行けと言わんばかりにグラウが左手で掃うような仕草をする。

 アタシはグラウに近づき、「アタシのもう一つのケジメ」 と優しく包帯を外す。

「な、何する気だ」 微かな痛みを感じてか顔を歪めるグラウにアタシはポケットから軟膏を取り出し傷に塗布する。



「この薬、傷に効くから……」 包帯をまき直し、アタシはその場を離れ、扉に手を掛けると「チッ余計な事しやがって」 照れ隠しかはわからないが後ろを向き、小さな声だが「ありがとな」 と聞こえた気がした。



「グラウは素直じゃないねぇ」


「うるせぇ!」 照れるグラウの姿にアルエットが笑うとアタシもつられて笑う。

 その後、着替えて家に帰るとベッドに倒れ込むとすぐに目蓋が重くなり、アタシは眠る――


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