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84話

「ビエントを傷つけた…… 許さない……」 ローブの少女が怒りに満ちた表情で杖をこちらに向ける。

「いい加減にしとけよ。 これ以上俺の店で暴れるならただじゃ済まさねぇぞ……」 アタシの前に立ち、後ろ姿しか見えないが覇気が凄まじく、引退したとはいえ、元ダイヤモンドクラスの冒険者としての姿が垣間見えた。



「そうだね。 あなたが本気になれば、僕らもただじゃすまないね…… 警告を聞いておくよ」


「でも……」


「もういいんだよ。 ミエルはいい娘だね」 ミエルと呼ばれたローブ娘の頭を撫でられると本人は顔を隠し、身体を少しくねらせる。

 興ざめと言わんばかりにドアから出ていく4人の中でアンデと呼ばれた女がアタシとすれ違う直前に「胸が見えてるわよ売女」 と言われ、慌てて胸を隠すと、くすっと笑う。


「アンデなんか、あったのか?」


「うぅん? 何でもないわ」



 4人が帰り、店内に平穏が戻るとアタシはグラウに着替えにいく事を伝え、更衣室に向かう。

 最後のあの言葉が引っ掛かり、頭の中で(売女)と言う言葉を必死に否定する。


「大丈夫か?」


「な、何ともない……」


「どうしたの顔色が――」アタシに触ろうとした時、咄嗟に嫌悪感から手を払いのけ、大声で「やめろ!」 と怒鳴りつける。

 忌々しい記憶が頭の中にはっきりと思い出され、呼吸が荒くなり、身体から力が抜け崩れ落ちる。

 どうにも身体に力が入らず、あふれ出す涙を止める事が出来ずにその場に蹲り、呼吸だけでも落ち着こうと胸を隠すように締め付ける。


「ど、どうしたのブロンディ! ねぇ、ねぇってばぁ」 と揺さぶる彼女に説明しようにも声を出す事も出来ず、まるで魔法にかかったかのように蹲った状態で硬直して動くことが出来なかった。



「どうした!? おいブロンディ――」 アタシの肩に手のようなものが触れた時だった。


「あ、あたしに触れるなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 感情の爆発と共に目の前が暗くなり、気が付いた時には手には発動した魔法。

 目の前にはグラウから流れる血を押さえるアリエットの姿が見え、怖くなったアタシはその場から急いで逃げた。



 走り疲れ、壁にもたれ掛かる。

 頭の中では言い訳の様に(あれは事故だ) と言い聞かせ、自分が悪くないと必死に自己弁護する。

 ポケットのタバコを震える手で取り出し、火を点けると空に向かって細い煙が揺らめく。

 気分が晴れる事は無く、自己弁護の言葉が浮かんでは消えを繰り返す。

 空を見上げると雲に隠れた月がぼんやりと光り、鳥の様な影が――


「あ!?」 気付いた時には蹴飛ばされ、倒れたところをその猛禽類の爪で両腕を押さえつけられる。

「痛い、痛い、イタイ!」 ギリギリと痛む両腕に叫び声を上げるがやめてくれる様子もなかった。


「当たり前、だって痛くしてるから…… 家族を傷つけられて只で逃げられると思わないで!」 アタシは彼女の眼を見る事は出来ず大人しくする事した。

「今からグラウの所に連れて行くから」 彼女はそのままアタシごと空高く舞い上がり、初めての空を飛ぶ恐怖よりもこれから会うグラウに対しての言い訳を考える事に必死だった。



「着いたわ」 グラウの机の前に放り投げられ、結局、何を言っていいのかも判らず、目を逸らし黙るしかなかった。



「アルエットご苦労だったな。 戻って休みな」


「いい、この子が何を言うのか見ておきたい」


「……好きにしろ」


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