70話
翌朝、痛みや傷がほとんどなく、演習場で走り込みの後は重い模造の剣があったので素振りをする。
額から玉のような汗が流れ始めたころには日が昇り、木にロープで吊るした的に向かって銃を撃つ。
撃った直後に僅かな痛みがあるが気にせずに的に打ち込んでいく。
弾を込めては的を撃つのを中心に命中するまで何度も繰り返す。
何度か繰り返し、ようやく的に当ったところでいったん休憩し、水分を補給する。
残り少ないバッグの中を見ていると弾の中に前回のクエストの時に作り出した新しい弾丸を見つける。
色や形の違う弾丸はよく見ると銅のような色に頭頂部の平たい不思議な形で大きさも倍近くあった。
魔導書を開くとそこには【弾丸LV4】と書かれており、作り出せる弾丸の種類が増えてはいたが今の魔法では銃の形状の維持が難しく気軽に使う事が不可。
それに弾丸のレベルは上がったがスキル魔法の名前すらまだ分からなかった。
タバコを吸い終え、集会場に向かう途中にゲインが誰かと話しているのが聞こえ、アタシの名前が出たことで盗み聞きは良くないが気になってしまってはどうも止めることが出来ず、壁を背にしてそっと聞き耳を立てる。
(あの声はマリカとアルか?)
「ブロンディに関してですがやはり、冒険者としては経験値が低いだけならまだしも、自身の魔法すら扱う事が全くできていません」
「あの魔法に関しては?」
「何を対価にしたかは知りませんが……それこそ悪魔と契約したにもかかわらず、あの程度しかできないとなるともはや絶望的だと思います」
「あの大きさのゴブリンを倒すのでさえ苦労してたし、笑えるよね。 せっかく契約してこの程度だったなんて知ったら、あいつどう思うかなマリカ? 自我が崩壊しちゃうかもね。 でもそうなったら身体で稼げばいいだけ。 彼女、褐色の綺麗な肌してるからそこでトップになれるかもね」
「確かに違いない。 荒っぽい口調が変態な客には受けるかもな」
一瞬、ゲインや彼女達が何を言っているのか分からず、ただ夢であってほしいとただ願うだけだった。
「そこまで言う必要はないわ、彼女も必死だったみたいだしね。 これで報告は以上です。 約束は守って下さい」
「あぁわかってる。 俺たちの「荒野の風」 に所属するって話だろ。 しかし、どういう風の吹き回しか、マリカが入ってくれるとはな」
「私にはお金が必要。 ただそれだけよ」
涙が頬をつたい、声を出したい感情を押し殺し、やり過ごそうとそっと歩を進める。
早くこの場から立ち去りたい一心で歩こうとするがなかなか歩を進めることが出来なかった。
「あら、ブロンディさん、探してたのよ」
ミレルさんに声を掛けられた瞬間、一斉にこちらに視線が刺さる感覚を感じ、もはや逃げる事すら出来ない状況に絶望する。
「あれ? ブロンディじゃないどうしたの?」
白々しく彼女達はアタシが何も知らないと思って、ニコニコとマリカがこちらに歩いて近づき、耳元で囁く言葉にアタシの腸が煮えくり返る。
彼女が言った言葉は「私、あなたが聞いていた事は最初から気付いていたよ。 私だけじゃない。 ゲインさんもアルもみんなあなたがそこに居た事はとっくに気付いてる。 それでも話したのはなんでだと思う?」
「やめなよマリカ、かわいそうだって~」
「騙されて、その呆けた顔が見たかったから、信頼した人に裏切られる顔が見たかった。 どれだけ我慢したか…… 学びもない、あるのは見た事の無い魔法だけのあなたに冒険者が勤まると本気で考えていることが腹立たしい」
恐る恐るマリカの顔を見るとニコリとする表情は嫌悪感に満ちた人を蔑み、叩き落すのには十分だった。
右の拳でストレートを放つがあっさりと受け止められ、その反動を利用され、膝が鳩尾に深く刺さり、肺の空気が絞り出され、痛みが走り、膝をつき咳き込むが蹴られ、仰向けになった所で「いい加減、諦めるって知らないのかしら?」 と剣を突きつけられる。
「なんで…… アタシ…… を売った?」




