69話
湯浴みを終え、夜風がアタシの身体を優しくなでる。
風の国からかタバコが風に乗り揺らめく様子を見ていると心が落ち着く。
あの時と同じように、人型の魔物を撃つのを怯んでしまった。
これではいずれアタシだけではなく、仲間の命も危険に晒す事になると考えるが、どうも対策を見いだせないでいた。
「あなたが考え事なんて珍しいわね」
「別にそうでもないさ。 今日は悪かったな」
「何が?」
アタシは事の顛末を軽く説明するとマリカは少し考え、「でも、私達仲間でしょ」 と軽く言われた。
納得できずに「でもそれじゃあ、アンタらの命だって――」
「そう言うもんよ。 それよりも悩んでる事を話してくれてありがとう」 と言われてしまった。
「私もさ、昔に色々あってね」
それはアタシなんかが聞いてよかったのかは分からないが、アタシと組む前は風の国で有名なパーティーに参加していた時の話だった。
マリカはうれしくて浮かれているのもつかの間、実は仲間としてではなく、ただのパーティーのお飾りであり、自分の所有物としての扱いが待っていた。
もっぱら、戦闘は筋力のある男性か戦士タイプの女性で、多くの女性は戦闘に使える魔法を持っていても補助に回されることが多い現状。
それでも、有名パーティーの一員で我慢すればアルがより高度な学園への可能となる。
ただそれだけの為に頑張ってきた。
例え、自身がどうなろうと……
ある日、リーダー格に呼ばれ、行くとアルを差し出すように言われたとの事。
自分だけではなくアルにまで手を出そうとしたのでパーティーを離脱し、2人で頑張っていた所に断られるアタシを見つけて誘ったと話してくれた。
「アタシを誘ったのって同情か?」
「半分はそう。 でも断られても落胆するどころか噛み付きそうな自分を必死に抑えるその姿に心が動かされたからかな」
「アタシは野良犬か」 と笑いながらアタシは煙を吐き出し、吸殻を小瓶に入れる。
「あなたの故郷は?」
「カーラ村だった」
「だった?」 と疑問を投げかけられ、アタシは村での真実は話さなかったがアタシの村での生い立ちを話した。
継母の事、家族の事そして悪魔との契約、そして最後に家族に裏切られた事……
「苦労したのね」
「マリカほどじゃないさ、アルとは長い付き合いなのか?」
「えぇ、妹みたいなものよ。 本当はあの子を引き込みたくはなかった。 こんな役は私だけでよかったんだけどね」
夜風が吹き、タバコの煙が空に消え、三日月の明かりが彼女を照らすその姿は寂しそうな表情で遠いどこかを見ていた。




