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67話

 アタシが囮になって、マリカ達を逃がすのが得策とはいえ、死ぬ気なんて無い。

 どうすればいいのか魔導書を開くも項目は増えているわけでもレベルが上がっているわけもなく、いまだ「鷹の眼」と「弾丸」 とだけしか書かれていなかった。


 今できる事を最大限に考え、アタシはある無謀な方法を思いつき、(アタシに出来る最大限の事だ) と腹をくくる。

 地響きと大きな声が聞こえ、外に出るとさっきの巨大なゴブリンが唸りを上げ待ち構えていた。


(魔物の癖に知恵はあるようだな……)


 件の冒険者から殺して巻き上げた頭部と胸部、急所に鎧の様な物を装備していた。

 どうやら弾丸に対しての奴なりの対策ともとれる。

 巨大なこん棒を振り回し、アタシに振り下ろし、それを避け、弾丸を頭部に打ち込むが流石、胸部の鎧を被っているだけあって、弾丸は鎧を貫通することなく弾かれる。



「泣けるぜ……」 と悪態をつきながら弾丸を装填し、身体に打ち込むが分厚い肉に阻まれ、決定打とはならず、無駄弾にしかならなかった。


(やってみるか!)

 右腕の銃に魔力を集中する。

 イメージするのは弾丸を飛ばす為の威力を上げる事。

 なら爆発力を上げれば(自然と弾丸のスピードは上がり、あの肉壁を貫くはず!)



「アル、そっからでいいから何でもいいから魔法を使って一瞬でもいいからあのデカ物を怯ませろ!」 と叫ぶと後ろから詠唱と共に火球がゴブリンの頭部とこん棒も持った右手に直撃する。

(今のうちに!) 両足を肩幅に開き安定した姿勢で右手の銃を下から左手で添えて支える。


(イメージするのは爆発力の強化) 撃鉄を下ろし引き金を引くと耳を劈く爆発音と手の平から全身に衝撃が伝わり、弾丸は左肩の鎧を吹き飛ばすが、撃ったと同時に来る反動の強さから肩に痛みが走る。


 その効果を確認し、痛みに堪え、銃を構えるがその痛みに一瞬の判断が遅くなり、大きな手がアタシの身体を後方に飛ばした。


「痛ってぇ」 飛ばされた衝撃でふらつく身体を起こそして再び銃を構える。

 爆発力に一定の効果が見られても、決定打に掛ける事の対処法を考えるが、相手はそう待ってくれるわけもない。


 アタシは向かってくるゴブリンに対してもう一度、弾丸を打ち込むが、全く怯むことなく腕が振り下ろされ、咄嗟に右に避け、通常の爆発力の弾丸を続けて3発わき腹に打ち込むがあまり効果は無く、痣が出来る程度。

 一方で相手は、地面を軽くひび割る程の力の持ち主でアタシが当たれば死ぬことは間違いなかった。



 弾数も残り少なく、(万事休すか) と覚悟をゴブリンの腕が切られ、血を流し、後ろから「ブロンディ逃げて」 とマリカの声がする。

 アタシが向かおうとした時、ブーツに何かが触れ、見るとマリカの盾がそこにあった。



(一か八かこいつを使って弾丸を――) 


「早く逃げて!」



 魔力を込め、弾丸を生成すると頭の中の魔導書のページに書き込みが加えられるのを感じる。

 出来上がったのは先が平たく大きさも倍の銅の色をした弾丸が出来上がり、アタシはそれを銃に込めて狙いを頭部に集中し鷹の眼が発動し、狙いを定める。

(この弾丸なら!)


 引き金を引くと大きな音が耳に響き弾丸はそのままゴブリンの頭部を鎧ごと貫き、力尽きたのか膝を崩し、地面に倒れ込んだ。

 辺りに血が広がり、動かなくなった巨体を見ていたのかガサガサとゴブリン達が退散してこの戦いが終わった。



「マリカ、大丈夫か?」


「さっきよりはマシよ。 あなたこそ、手がすごい事になってるわよ」



 マリカに言われ手を見ると、手が腫れあがり、所々火傷で爛れていた。

 腕を掴まれ、急いでアルに回復してもらうが中々治ることはなく時間が経つにつれ強い痛みでその場にしゃがみ込む。



「これ、貸しだからね」 とポーションを手に掛けると痛みと爛れは消えたが熱感と腫れにより右手を動くすことが出来なかった。



「あなたどんな魔法使ったのよ」


「魔法の威力を上げたらこうなった」



 弾丸の威力を上げる為に新たな弾丸とそれを発射させる為に行った事だが単純には成功とは到底言えず、結果として右手の負傷と反動による痛みが代償となり、実戦向きとは言えない事は明らかで、安定させることが今後の課題と理解する。



「まったく。 呆れて物が言えないわ。 ……でも、ありがとう」


「ところでさ、もう一つ頼み事していいか?」


「なによ。 もう回復薬なんてないわよ」


「いや違う。 タバコを吸わせてくれ」


「はぁ!? ったく、アル、火をつけてあげて」


「しょうがないなぁ」



 左手でタバコをバックから1本取り出し、口に咥え、アルに火をつけてもらう。

 その場に座り、吐き出すタバコの煙が、風を舞いユラユラと夕闇に流れる。



「ブロンディ、早く来なさいよ」


「おぉ待てよ。 アタシはケガ人なんだぞ」



(こんな生活も悪くない……) と思う。

 アタシは仲間の元に痛みを堪えて走って行く。


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