66話
それからしばらくは三人で依頼をこなしながら力をつけて行った。
戦士のマリカは気づかいの出来るやさしい奴、アルはビビりでも慣れてくると、揶揄うアタシにも言い返せるほどになっていた。
「ほら、後、ガラ空きだったよ」
「あぁ、助かった」
「グギャ」
アタシは銃弾をマリカの後ろの小型トロール達に向け発砲し、見事に頭蓋骨や胸に穴を空ける。
「おっと、そっちも人に事、言えた義理じゃないな」 とアタシはケラケラ笑い「もう、ちゃんとやってくれないといつまでたっても終わらない」 とアルが膨れた面で火球を飛ばし、ほかのゴブリンを薙ぎ払う。
「ほら、お喋りは後にして目の前に敵に集中して」
「へいへい」 と弾を再装填し、走るマリカの後を追う。
小型のトロールは1匹ではそれほど脅威とは言えないが集まると厄介だ。
それに成長して大型化してしまえばそれこそ1人では到底対処しきれない。
「いい加減、終わりにしたいんだけど!」
「あなたが1匹、逃がさなければこんな事にはならなかったんだけどね」
「マリカの言う通り」
森で近頃、一般人だけではなく、冒険者の鎧がゴブリンによって盗まれたりすると言う奇妙な噂がありそれが暫くすると明確に被害が見られ、その被害も多くなっており、今回は原因の究明とゴブリンの討伐の依頼だった。
そして、アタシが1匹を逃してそれを追って森に入り、今の状況と言う訳だ。
どうも魔物であっても人型を撃とうとすると躊躇してしまう。
ミスを取り戻す為にもアタシは打ち続けるしかなかった。
幸いにも弾数にはまだあるが流石のゴブリンとなると1発では致命傷とはならない事がわかり、気持ちには余裕がなかった。
「止まって、何かが来るわ」 マリカの警告にアタシ達が止まると大きな足音と共に木々がなぎ倒される音に嫌な予感がし、それは仲間も感じているみたいでアルは涙目でアタシのポンチョを掴む。
「グゥゥゥルァァァァァ」 と唸りと共に此方に飛ばされた木をマリカが風の魔法で切れ味の上げた剣技で見事に両断する。
「来るわ、大物よ」 と前には大きな両四肢が丸太の様に太く、醜い魔物がそこにいた。
大型のトロールの出現にアタシ以外の二人はすぐさま攻撃の体制に移り、魔法や剣技を駆使し立ち向かう。
アタシも連続して発砲するが肉が厚い大型のトロールにとっては蚊が差した程度なのか全く怯む様子が無い。
文字通り化け物を相手にしているがマリカやアルたちの魔法や斬撃の方が効果は目に見えていた。
マリカ達に気をとられている隙に頭部に狙いを定めると魔力が目の辺りに集中しスキル「鷹の眼」の発動を感じ、撃鉄叩きながらトリガーを引く。
6発の破裂音が森に響き、弾がトロールの頭部に吸い込まれるように着弾する。
(やった) 流石に弾を6発も受けるとよろけ、すかさず、マリカ達が攻撃を加えようとした時、トロールの大きな拳がマリカを打ち、吹き飛ばされ、地面を転げ、アタシは弾を込めつつ何度も撃ち、気を逸らしながら、アタシとアルはマリカが飛ばされた方向に向かう。
「おい、マリカ、大丈夫か!」 と抱え、声を掛けると「だ、大丈夫、盾で何とか防げた」 とは言っているが鉄の盾は拳の後がくっきりと残っており、威力が想像できた。
とっさに土属性の魔法で強化したのか盾の裏の魔石は砕けていた。
動かす身体に痛みに表情がゆがむマリカを見てアルが逃げる事を提案する。
「だめよ。 手負いの私と一緒じゃ逃げられないわ」
「でもこのままじゃ――」
「危ない!」 と気配のする方に2発、発砲すると弓を持った小型のトロールが木の上から落ちるのが見えた。
アタシはマリカに肩を貸し、何とか逃げ、目に付いた洞穴に隠れる。
不安そうなアルの眼がアタシを見つめ、頭をなで、落ち着かせるとマリカの様子を見て回復の魔法を掛けるが応急処置にしかならず、魔法薬であるポーションもランクが低いため即効性が期待できなかった。
「私を置いて逃げて、今なら…… 助かる」
「マリカを置いて行くなんて僕には出来ない!」
「お願い…… ブロンディ」
トロールの残虐性は本の中でしか知らないがアタシはマリカを置いて行くつもりはさらさらなかった。
それをしてしまえばどうなるかは明白だった。
「世の中には2種類の人間がいる。 賢い奴と馬鹿な奴」
「あなたはどっちなの? 賢いなら逃げるのが得策――」
マリカの口をそっと手で塞ぐ。
驚いた表情でアタシを見てそのまま言葉が出ずに見つめる。
「でもアタシはアンタを見捨てるほど馬鹿じゃない。 それを馬鹿と言うならアタシは馬鹿でいい」
「ホントにバカなんだから……」




