64話
ギルドの集会所では慌ただしく、いろんな冒険者が行き来するのを暇つぶしに眺める。
セシールさんが来るまでの間、アタシは闘技場での疲れをタバコとコーヒーで癒していたが、ここのコーヒーは酸味は強く、苦みが少なく、好みではなかった。
飲み終わる前にセシールさんがアタシの登録の案内に来たのでアタシは席を立つ。
「準備が出来たから。 登録を行うわ」
ギルドの奥に連れていかれ、中に入ると大小さまざまなクリスタルが鎮座されており、部屋の中央にはクリスタルの台座、セシールさんの説明によるとここで冒険者の登録を行うらしい。
「そこの台座に手を置いて中央の窪みにこの石をはめ込んでくれる?」
ギルドの証、それは何の変哲もないただの石で、大きさは親指くらいだろうか?
言われるがまま指示に従い、中央の窪みに石を入れると周りのクリスタルが白く光り、部屋が明るくなる。
「新たなる冒険者よ。 その名を答えよ」
「アタシに名前はない。 でも名乗るならブロンディ…… そう呼ばれている」
周りの光が窪み入れた石に収束され、石が変化していき、やがて透明度のある石に変化し、それと同時に周りのクリスタルの光も消える。
窪みから石を取り出してみると周りと同じようなクリスタルだ。
「これで登録は完了ね」
「綺麗な石だな」
「クオーツ、それがあなたの冒険者としての証であり、ランクを表しているの」
セシールさんによると冒険者のランクが全部で4つあり、下から「クオーツ」「トパーズ」「コランダム」「ダイヤ」があり、依頼もそれに準じたものとなっている。
アタシは初心者だからクオーツと言ったところだ。
高ランクの依頼の成功、国に対しての貢献、高ランクの魔物の討伐でランクが上がる。
一般的には良くてコランダムまで、ダイヤモンドランクの冒険者を見たことは殆んど無いとの事だ。
「せいぜい頑張ってね。 後の事はゲインに聞きなさい」 とセシールさんは受付の奥に戻り、入れ替わるようにゲインがアタシの前に来る。
「おう、新人の嬢ちゃん。 上手く登録出来たんだな」
「ところであんたは一体何者なんだ?」
「あぁ俺か? この風の国ヴァンファタリテのギルドマスターだ」
ゲインとセシールさんにギルドの応接室に通され、訳のわからないまま席に着かされる。
応接室には大きな斧や鎧が飾ってあり、ゲインの部屋である事が分かる。
こんな新人冒険者に一体何の用があるのだろうか?
「まぁ楽にしろよ。 何を呑むんだ? 酒をお勧めするが昼間だしなぁ」 と机の引き出しの中から瓶のカチャカチャと鳴る様子を見て相当ため込んでいる事と普段の勤務態度がなんとなく見える気がした。
無理やり連れてこられたセシールさんはあきれている様子にどことなく確信する。
「酒はいらない。 うまいコーヒーが欲しい」
「コーヒー? 嬢ちゃんはミルクの方が良くないか?」
揶揄われ、少しムッとする。
第一、嬢ちゃん呼ばわりされることに、アタシは気にくわなかった。
「スマンスマン、そうムッとするな。 揶揄いがいのある奴だなぁ セシール、コーヒーを頼む」
「私は給仕係じゃないんだけど」
「まぁ頼むよ。 セシールちゃん」
ため息にそそくさと部屋を出るセシールさんをよそに、ニコニコと笑いながらグラスに琥珀色をしたお酒を注ぎ、一気に飲み、椅子に座りながら、もう一杯注いでいく。
「アタシに何の用かは知らねぁけどさ、ギルドマスターだって暇じゃねぇんだろ?」
タバコに火をつけ、席に座り、テーブルに瓶を置き、軽くタバコの灰を入れる。
煙が部屋を漂うその様子をゲインが見て「おぉ、あの時もそれを吸ってたな、俺にも一つくれ!」 と言われたので渡し、吸い方と火をつける場所を説明する。
「見た事の無いタバコだな。 なかなかいい味だが、ミントか何かが入ってるのか? しかし、これじゃあ嬢ちゃんと言うより不良娘だな」
アタシが一本目を吸い終えるころにはセシールさんがコーヒーを持って来てくれたが部屋に入るなり、「タバコを吸うんだ」 と嫌悪された。
何が悪いのか分からないがコーヒーは美味しく頂く。
苦みは強いがくすぐるようなやさしい香りが駆け巡り、顔が少し綻ぶ。
「さて、本題なのだが、改めて聞くが…… 嬢ちゃんの本当の名前は何だ?」
「本当も何もブロンディがアタシの名前だ」
本来、偽名と言うのは登録はされないらしい、通称を使う事は出来るが登録する時、何をどうしても本命を名乗る必要があるのにアタシの場合はそれが上手くいった。
ギルドの運営上、怪しい人物を登録して事が起こってからではと言う意味で話を聞いたという事だ。
「で、どうなんだ?」 と聞かれ、チェスカと言う名前はあの村で捨てた名、ブロンディと言う名前が本当の名前で、他人がどう言おうと少なくともアタシの中ではそれが事実だ。
いくらギルドマスターとはいえ、易々と答える気はなかった。
「ほぉ、答えねぇつもりか?」
一瞬にして大きな化け物に睨まれたような視線を全身に感じ、銃を構えようとした時には、何かがアタシの首をとらえ、ヒヤリとした感触と共に動きが止まる。
「反応速度は上々、度胸もある。 どうだ、フリーじゃなくて俺のパーティーに来ないか?」
「そ、それはアタシに対しての脅しか?」
「ちょっとゲイン!? 相手は新人よ」
大きな斧がアタシの首を捉え、その恐怖を必死に押し殺し、何とか言葉に出来た。
いつ首が宙を舞ってもおかしくは無いが、それなら言いたいことを言ってやろうとヤケクソに出た言葉だった。
「さっきの訓練所でもそうだったが、見た事の無い魔法だな…… 何処で覚えたのか知らねぇがそれもついでに教えてくれたっていいだろ?」
「世の中には2種類の人間がいる。 デリカシーのある奴と無い奴。 初めて会った女性にあれこれ一方的に聞く奴にアタシは答える気はない。 それに冒険者にとって手の内を教えないのは基本だろ?」
「ここで死んだとしてもか?」
「その子の言う通りよゲイン。 あなた、デリカシーが無さすぎるのよ」
ゲインはため息をつき、斧を置くと酒を飲み「ひどいなぁセシールちゃん」と笑う彼の姿にとりあえず、首と胴体がさよならする事もなく。
落ち着こうとタバコを吸い、コーヒーを飲むが緊張してもう味わうどころではなかった。
「じゃあ、ギルドマスターとしての命令だ。 どこかのパーティーに入れてもらえ」
「拒否する事は?」
「出来るとでも?」
「……泣けるぜ。 それとこの前、アタシが狩った獲物を奪われた件なんだけど――」
「証拠がなけりゃ言いがかりと言われるのが落ちだぞ」
「チッ…… そうかい」 とドアを閉め、アタシは応接室を出て集会所に向かう。




