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4話




窓からの朝日があたしの眠気を覚まし、覚醒に導く。

ベッドから起きるのも辛いが、現実の出来事の方がはるかに辛かった。

ケイトの寝顔を見ながらあたしは考える。

このまま二人でこの村から逃げる事を提案するも、ケイトはそれを拒否した。

『わたしが生贄にならないとこの村が終わってしまう。わたしの命1つで救えるのなら』と……。

仮に逃げたとしても他の誰かが犠牲になる。

あたしはあんたが犠牲になっても、いずれまた誰かが生贄になると言ったところで、

ケイトは沈黙してしまった。

そう、答えなんか出るはずがない。

どちらに転んでも誰かが犠牲になるのは変わりないのだから……。





当日は朝から、村の大人が大勢、あたしの家に来た。

守り神の生贄の為に綺麗に着飾るらしい、領主のせめてもの気持ちだそうだ。

クソ喰らえ……。



「チェスカちゃん……」



洋裁屋のおかみさんが声を掛けてくれたけど、答える事なく、黙るしかなかった。

どんな慰めの言葉を掛けられても、今のあたしには穴の開いた桶の様に意味をなさない。

ギャロンさん達が禁忌の森に、ケイトを連れて行くのをあたしは涙を堪えて、見送ることしかできず……。

最後にケイトを見た時、ごめんねと口が動いたのを見た。



「なんで、なんであの子なのよぉぉぉぉ」



継母は激しく泣き崩れ、父親がそれを支える。

妹の最後は数日たった今でも、鮮明に思い出された……。





ケイトが生贄に出されてから数日、この家に笑い声はもう、聞こえない。

継母の仕打ちもだんだん容赦がなく、掃除、薪の売り上げに、生活に至るまできつく当たる様になっていった。



「いい加減にしなさい!」


「ごめんなさい」



それは些細なミスだった。

うっかり、薪の値段を20J少なくもらってしまったから、数字が合わないことに継母が腹を立てたのだった。

いつまでこんな事を続ければいいのだろう?

妹がいない今、もう我慢することなんてないはずなのに……。

あたしは叩かれたほほをさすりながら、継母を見つめる。

怒りに満ちた瞳、あたしに対して、駄犬を躾けるかのように睨んでいた。



「何よその目……。 気に入らないっていうの?」



右手を振り上げ、あたしを叩こうとした瞬間、とっさに左腕で防ぐ形をとる。



「くぅっ」



継母は左手で右手を抑え、あたしを睨みつける。

毎日見ているんだ。防ぐことなんて造作もなかった。

ざまぁみろ、あたしの事を甘く見ていたからだ。

思わぬ行動に驚いたのか、継母はそれ以上は何もしてこなかった。

ちょっとした優越感が心を満たし、抵抗の意思を見せた以上、彼女も少しはわかるだろう。



そう思っていた。



夕食もいつも通り、何の会話もなく進んでいる。

しかし、今日は違う、小さいけど継母に反抗したこと。あたしはこれで何かが変われると、淡い期待を持っていた。



「あなた……。 実は話があるの」


「なんだい、急に……」



あたしは継母の話を気にすることなく、食事を進めていた。

話しを聞かないふりをして、パンをお替りしようと手を伸ばした時。



「今日、チェスカちゃんを叱ったらね。 これ……」



彼女は青く滲んだ腕の内出血を父親に見せた。「どうしたんだそれは」と驚くと同時に

あたしを見た。



「今日、薪を売ったお金が200J少なかった事を聞いたらいきなり……」


「どう言うことだ! 母さんに暴力をふるったのか!!」


「あたしはそんなことはしていない!」



あたしは力いっぱいに否定した。

確かにお釣りを間違えたことは事実だ。

でも金額も違うし、あの痣は彼女からの反撃を防いだ時に出来たもの。

悔しくて涙があふれてきた。

継母を見ると少し微笑んでいた。

『こいつのせいで……!』

その微笑みに怒りが沸々と湧いてくる。



「実は殴られたのは今日だけじゃないの……」


「なんだって?」


「毎回、何か注意するとひどく殴られていたことがあったのでもせっかくできた家族を壊したくなくて、回復魔法でごまかしてきたんだけど……」


「それは!」



反論しようとした時、パンッと音と共に左頬に鋭い痛みを感じた。

殴られた頬を手で押さえ、殴った相手を睨むと、父親が怒りと悲しみが混じったような顔であたしを見ていた。


「あなた、チェスカちゃんは……」


「この人はなぁ…… お前の事も大事な娘と言っていた人なんだぞ!」


「俺は一人でもお前を育てていくつもりだった。 でもケリーはお前の事を実の娘と思っているとまで言ってくれた。 そんな人を!」



鋭い痛みが右頬を打った。

口腔に血の味が広がり、この状況と合わさって不快感が倍増される。

もう、あたしが何を言っても無駄だと感じた。

めそめそ泣く継母に父親が寄り添い背中をさすり抱きしめていた。

父親はもう、完全に継母の味方だ。

唯一の肉親に裏切られた瞬間だった。


「待ちなさい、話はまだ終わっていない!」


「チェスカちゃん!」



あたしは家の扉を開け、暗闇の中を無我夢中で走る。

涙が頬を流れる。でも立ち止まることない。

止まってしまえばどうかなってしまいそうになる。

『どうしてこうなった』『あたしは何も悪くない!』感情がぐちゃぐちゃになりそうだ。

走って、走って、いっその事、風になりたい。


「ハァ…… ハァ……」


息が切れそうになり、疲れ立ち止まったころには……

町に着いていた。


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