56話
メルさんの部屋で替わりの服に着替え、血の付いた服は洗ってくれるとの事だった。
旦那さんの服らしく、ダボつくが無いよりマシだと思いカバンの中から軟膏を取り出し、頬の傷に少し塗ると傷の赤みが少し消えた。
「食事が出来ましたよー」
「ブロンディ食事出来たよ~」 とレミルが呼びに来たので一緒について行く。
屋敷を出て3日ぶりだろうか? 祈りを済ませた後、食事が始まる。
何気ない豆のスープと硬いパンだったが美味しそうに頬張る子供を見ているとご馳走を食べている気分だったと思い出す。
「ブロンディって冒険者なの?」
「そぉ言えば、ヴァンファタリテに向かう途中って言ってましたね」
「実はこれからギルドに登録しに行くんだ。 だから今のアタシはただの根無し草」
「そぉなんだぁ ママ、根無し草ってなぁに?」 と無邪気に笑う少女を見てあの時、助けることが出来て良かったと自然と笑みがこぼれる。
夜になり、メルさんはレミルを寝かせる為に寝室に向かい、その間、アタシは窓辺でタバコを吸い、寝床につく。
目蓋を閉じ、寝ようとするも今日の事が鮮明に思い出される。
押し倒された時の恐怖、初めて襲われた時の事そして…… アタシの魔法で初めて命を刈り取った事だ。
(やっちまった! アタシが人を殺した! あいつ、さっきまで息をしていたのに!) 何発も放たれる銃弾が相手の身体にめり込む音や絶命した瞬間の顔。
何度も何度もアタシの頭を巡り、自身の魔法に初めて恐怖し、呼吸が荒くなり、両腕をギュッと掴み、必死に言い訳を考え震える。
メルさんを襲って乱暴をしようとした。(あいつらはアタシ達を人間とすら思ってなかった。 暴力まで振るって、ただの欲望のはけ口にしようとしたんだ。 だから、殺されて当然のクズ野郎だったんだ……) いまだに、アタシが殺したと言う事実を受け入れることが出来ず、行ったことに恐怖し、必死に言い訳を思い込むしかなかった。
「あの…… だいじょうぶですか?」
「ぎゃあ!」 と飛び起きて見るとミレルさんが心配するような顔つきでアタシを見ていた。
「酷い汗だけど、もしかして今日の事……」
「べ、別に何でもない」
気が付くと優しく抱き寄せられ、優しい香りがアタシを包む。
(メルさんだって、怖い思いをしたはずなのに……)
「冒険者でもないのに助けて頂いてありがとうございます。 うちにはお金もあまりないから、私が出来る事なんてこれくらいで……」
アタシの手を取り、その手をメルさんの胸に引き寄せられる。
流石にびっくりしてメルさんを見るとろうそくの淡い明かりに照らされ、戸惑いながら「大丈夫、経験は…… あるから」 とだけ言われた。
「じゃあ、少しだけ」とメルさんを抱きしめる。
ふわりとした包まれるような感覚が心地よく、少し心を落ち着かせる。
「何もしないの?」と言われ、軽くうなずく。
「そのまま、話だけ聞いてほしい」
アタシが今日の出来事を話すと涙と共に、後悔が溢れ、メルさんは何も言わずにただ優しく頭をなでてくれた。
馬乗りにされた時の恐怖、悪人とはいえ、初めて亜人を殺した事。
話し終わると、どれくらいの時間が経ったか、目蓋に重みを感じ、身体で感じる体温が心地よく,アタシは睡魔に委ね、眠りにつく。




