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53話

「何を笑ってるのかしら?」


「いや、ちょっと思い出し笑い」


「グエルの事?」


「べ、別にそんなんじゃ」


 誤魔化す為にタバコを吸おうと取り出すが、床に何度も落としてしまい、結果として笑われてしまった。

 タバコを箱にしまってポケットに入れるとミラがまだクスクス笑っていた。



「早速だけど着て見せてくれるかしら」


「へいへい」


 テーブルの上で布を広げると真新しい服が畳んで積まれていた。

 新しい服の匂いにうっとりしつつ、服に袖を通していく。

 ズボンとブーツを履き、ベルトやベストとマントを身に着け、最後に帽子を被る。

 新品の皮の匂いが鼻腔に力強く感じる。

 一通り身に着け、鏡を見るとそこには今まで見たことの無いアタシの姿がそこにあり、思わず見とれてしまう。

 派手ではないが異国を思わせる衣装。

 武骨な服でもブーツには炎、マントには幾何学的な模様があしらわれていた。

 ミラ達にもだがグエルにも、アタシの為にこんないい服を仕立ててくれた事が嬉しくて鏡の前でポーズをとる。



「良いデザインに出来上がってるじゃない。 彼、良い腕してるわね」


「そりゃ、そうだろ。 なんたって世界一の仕立て屋になるんだからな」


「わたくし達のデザインがいいのよ」


「それにこのマントに描いてある模様…… アタシ好みだ」


「グエルによるとマントじゃなくてポンチョって言うらしいわ」



「ありがとな」と感謝の言葉を言ったのもつかの間で、ミラから何やら紙を渡され、受け取ると金額が50万Jと書かれており目を疑った。

 一体どんな素材を使ったのかを聞いてみると革やポンチョの布、刺繍の糸に至るまで拘って作ったのとグエルの報酬だった。

 報酬は納得いくが、こんな恐ろしい程の金額とは聞いていなかった。

 アラクネの糸だけでも高価な物で他にもブラッドタウラスの革、魔法薬を染み込ませたウールで作られたポンチョとまぁ、一体どこからそんなものを調達したのか……



「これは私からあなたにプレゼントです」とメイド長からポーチを受け取る。

 細部にブーツとお揃いの刺繍、ポーチを開けると細かい仕切りが付いており、デザインしたメイド長の几帳面さが感じられた。

 ポーチには上下長さの違うベルトが2本ついており、2本共腰に巻こうとすると

「短い方のベルトは足に巻きなさい」とメイド長が直してくれた。

 弾丸を入れるのに丁度よく早速、残りの弾をメイド服のポケットからポーチに入れる。


「これはレッグバッグと言うものです。 これから旅をするのなら、それくらいは持っておきなさい」


 中には応急処置用の薬も入っており、もう一つ、お金が入っていたので尋ねたら、働いた分のお給料でもちろん無駄遣いはしないように釘を刺された。



「これはグエルからよ」


「何だよこれ?」



 ミラから受け取るとそれは指を入れる4つのリングに長方形の鉄板、その上に鉄のコブが付いた武器。

 シンプルなデザインで殴ってダメージを与えるにはもってこいだった。

 実際にはめてみるとアタシの指のサイズがきつ過ぎずかつ緩すぎず、適度なサイズで不快感なく装備することが出来た。



「良い物を貰ったわね」


「これ、前から欲しかったんだ。 グエルの奴覚えてたんだ……」


「ナックルダスターねぇ……」



 ミラが何か意味があるような笑い方に、気になったアタシは真意を聞こうとしたが「わたくしの思い過ごしですわ」とはぐらかされ、分からずじまいだった。

 ナックルダスターをポーチに入れ、タバコを吸いながらお酒を呑む。

 心地良く酔いが回り、アタシにとってこの村での最後の夜が更けていった。



 いつの間にか眠っていたらしく、アタシは床から体を起こし、軽い頭痛とふらつきの中、窓辺でタバコを吸うとミントの様な爽快感と外の寒気と相まって意識の覚醒が促される。

 窓を開けていたからかミラもベッドから起きてきたようでアタシと違ってふらつきもなくケロッとした様子だ。



「よく眠れたかしら?」


「二日酔いって初めてだ」


「行ってしまうのね」


「あぁ、これ以上は迷惑かけるわけにはいかないしな」


「ちょっと、おい!」



 ミラに抱きしめられ、その身体の柔らかさと新緑の髪の香りがアタシを包む。

 微かな震えをミラから感じ、そっと身体に腕を回し、「また会えるさ。 ……だって借りがあるからな」と言うと相手の抱きしめる腕の力が少しだけ強くなる。

「ばか……」と耳元でそっと呟かれる。

 少しの間、互いを抱きしめ、アタシは妹にしていたように優しくミラの髪をなでた。



「また会えるかしら?」


「必ず会いに行く」




 ミラと別れ、そっと屋敷を出て道を歩く。

 アタシは最初の一歩踏み締める。歩を進めるごとにカーラ村での思い出がよみがえり、胸がうるむ。

 辛い事の方が多く思い出され、潰されそうになっても、アタシの事を思ってくれている仲間がいる。

 静寂の中、星の光だけがアタシを優しく包む。

 一緒にいる事は出来ない。

 でも必ずまた会えると信じている。

 一人歩いて、夢で聞いた歌を口ずさむ。

 目指すは風の国の中心ヴァンファタリテに決め、アタシの旅は始まった。


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