表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/123

45話

「チェスカ、大丈夫か!?」とグエルが茂みから現れた。

 思いもよらなかった友人の来訪にほっと胸をなでおろし、「これが大丈夫に見えるかよ」と悪態を付く。



「一体何があったんだよ。 そのひどい傷は――」とアタシに駆け寄り手を掛けられた時、背筋がぞわっとするような。

 家に入ったあの時と同じ感覚が身体を駆け巡る。



「ご、ごめん一人でどうにかなる」


「一人でってお前――」


「ど、どうにかなるって言ってんだろ!」



 立ち上がった瞬間、目の前が揺れ、立位が保てなくなる。

 グエルに支えられた瞬間、あの時の事が……

 服を破かれ、欲望を満たさんとするその目や相手の手の平から伝わる体温。

 思い出したくもない事が次々に思い出され、鼓動が早くなる。



「汗がひどいぞ、お前」


「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ち、近寄るなぁ あたしに近寄るな!! 誰も近づくなぁぁぁぁぁぁぁ」



 必死に振り払おうと暴れ、何度も殴るがその手を離すことなく握りしめられ、それが恐怖で暴力で返す。

 泣き叫び、暴れ、決して癒されることの無い傷に継母の言葉が止めとなり、怒りとなって溢れ出る。

「すまん」と聞こえ、腹部に強い痛みを感じ、アタシの意識がゆっくりと遠のいて目の前が暗くなった。






「世の中には2種類の奴がいる」


「2種類?」


「そう、強い奴と弱い奴。 チェスカちゃんはどちらなのかしら?」


「先生、あたし、強くなりたい! 強くなって妹を守るんだからね」


「いいわ。 じゃあ、始めるとしようかしら?」

 ・

 ・

 ・

 ・



 目が覚めると布団の上で寝かされていた。

 最近、よく気絶することが多くなった気がする。

 よっぽど疲れが…… そうじゃない、目が覚め、身体を起こすと全身が痛み、腕にも幾つもの青い痣が出来ていた。

 それを見て、自分にされた事がぽつぽつと思い出され、布団を強く握る。

 カチャンとドアが開き、音の方を向く。



「最近、よく気絶するわね」


「そぉだな……」



 少しの沈黙の後、ミラが何も言わずに枕灯台に小瓶とタバコを置いてくれた。

 アタシはタバコに火を点けゆっくりと吸い込み煙を吐き出す。

 揺らめく煙を眺め、黄昏る。



「いいお友達ね」


「あぁ、腐れ縁ってやつだよ」


「それって幼馴染とも言うわよね」



「これを飲みなさい。 傷に効くわ」と渡された飲み物は少しドロッとした緑色で恐る恐る匂いを嗅ぐと青臭い草の香りがする。

 一口飲んでみると、この世のものとは思えないほどの苦さだった。

 アタシが顔をしかめるのを見て「コーヒー何て苦いものをそのまま飲むくせに」何て言っているが(それとこれはまた別だっての)と言いたかった。

 なんとか苦みを誤魔化そうと、タバコを吸うがあまり効果はない様だった。

 タバコを吸い終わるころには、薬のおかげか身体の痛みが少しとれたように感じる。



「後で食事を持ってこさせますわ」


「……ごめん」


「あなたは何について謝っているの?」


「あの時、アタシが襲われた時、あんたを疑ってた」


「そう……」



 手が震え、憎しみで張り裂けそうな胸を必死で握る。

 涙で視界が滲み、嗚咽で言葉がうまく出せない。

 父親の裏切り、継母がアタシにした仕打ち。

 アタシの全てを否定し侮辱し、異性だけではなく、自分の性まで嫌悪感を植え付けられた屈辱。

 その事が頭の中を駆け巡り、声をあげ泣くことしか出来なくなっていた。

 泣いているアタシをミラがそっと手を差し伸べてきた。



「さぁ、食事に行くわよ」


「食べたくない」


「食べなさい。 食べて元気になって自分の足で歩きなさい」


「だから食べたくないって――」


「わたくしが出来る事はこのくらいなのよ。 あなたの為ならいつまででも話を聞くことが出来るわ。 あなたは傷を負ったわ。 身体も…… そして心も」



 ミラは椅子に座り、枕灯台のタバコを取り出し、火をつけた。

 煙を吸い、涙目になりながら、ゲホッゲホと咳き込み煙を吐き出す。



「アタシのタバコ――」


「ゲホッ いつもこんなものを吸ってらしたのね。 苦いですわ」


「さっきの飲み物よりマシだ」



 タバコがよほど合わなかったのか無理して喫煙するミラを見てなんだか少し笑っている自分がいた。

 あんなことがあったのにミラはいつも通りに接してくれている事にアタシは嬉しかった。

 ミラのタバコを吸う姿と言う普段は絶対にしない行為にアタシはクスッと笑ってしまう。

「なにかしら?」と見られ、「別に~」とだけ答えておいた。



「気は晴れたかしら?」


「あぁ、少しは食べる気にはなった」


「ならいいですわ」


「食事が出来たよぉ 遅いから食堂から持って来ましたぁ」


「カトゥラ!」



 扉を開け、元気な笑顔がアタシを出迎えてくれ、これ以上に嬉しいことない。

 美味しそうなパンやスープがアタシ達の前に並べられ、一口食べれば温かな食事が心を少しづつ満たしていく。



「どうしたのぶろんでぃ? 泣いてるの、どこか痛む?」


「いや、何でもない」


 パンに肉や野菜を挟み頬張ると旨味が一体となりお腹を満たしていく。

 今は食べれるだけ食べて元気になろう。

 そうすれば明日に向かってまた歩く事が出来る。

 アタシはまだ歩き出してもいないんだから……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ