44話
アタシは再び突き飛ばされ、地面に倒れると継母は魔法でアタシに止めを刺すつもりらしく、手の平を向け、赤く燃えるような色が収束し始める。
タダでやられるつもりはなかった。
木にもたれ掛かりながら立ち上がり、なんとかポケットから弾丸を取り出し右手で握る。
痛みと痺れに耐えながら、持ち上げ、左手で右手を支え、継母に向けて構え、魔法を発動するが左目がうまく開かず、狙いが定まらない。
「おい、ケリー! 一体何を――」
「助けて! あの子が私に何かする気なのよ」
「何だって!? チェスカ、どういう事なんだ!」
息を切らしながら現れた父親はアタシからの攻撃を守る様に継母の前に立ちふさがり、どこか悲しそうな目でアタシを見ていた。
(何でそんな目でアタシを見るんだよ…… 継母が悪いのに……)
父親は継母からアタシを守ろうともせず、実の娘より、継母をとった瞬間だった。
「魔法…… 使えるようになったんだな」
「使えるようになった!? 違う! アタシは妹を助ける為に…… 悪魔と取引した!」
「な、何だって!?」
(こんな事を言うべきじゃなかった)と思ったが感情は抑えられなくなり、口にしてしまった真実。
二人の顔が青ざめているのに気付くのが遅れ、いよいよアタシは後には引けなくなった。
「なのに…… アタシに対して何だよ。 わけわっかんねぇよ! アタシはあんたの娘なのにいきなり居候だって言いやがって――」
「そ、それは――」
長年ため込んでいた事を言葉にするたびに、頬が濡れ傷口がヒリヒリと痛む、拭う事もなく流れるそれはやがてズキズキと胸が締め付けられる。
父親も困惑した表情に変わる。
これが初めてのアタシのわがままだった。
「だからどうしたの? 悪魔と取引した? それで、私に立てつく気なの?」
「おい、挑発するんじゃない! どんな強力な魔法を撃つか分からないんだぞ!」
「関係ないわ、それなら尚更、ここで始末するべきよ。 貴方だって言ってたじゃない、チェスカは邪魔だって――」
「い、今は関係ないじゃないか」
「今、何て…… 言ったんだよ」
何かが音を立てて砕け、魔法は消え、力をなくした右手はだらりと項垂れる。
今聞いた事を忘れようと頭を掻き毟るが消えずにグルグルとめぐり、叫び声と共に地面が拳の形と共にその周りを赤く染めていく。
(お父さんがアタシの事が邪魔だった。 ずっと…… ずっと……)
「うるさいわねぇ いい加減、黙らせなさいよ」
「わかってる……」
泣きじゃくるアタシに父親からそっと手をかけられた瞬間、嫌悪感からか、反射的にその手を払いのけた。
「このぉ優しくしてれば付け上がりやがって!」と頬を叩かれ地面を転がる。
「お前のせいなんだ。 俺は何も悪くないし、ケイトこそが俺の娘だ。 悪魔と契約したお前なんか、どこえなりと出て行け、命は助けてやるから2度とキャラハンを名乗るなよ。 この恥さらしが!!」
「彼方、ようやく決心してくれたのね」
「あぁ、君の言う通り、早くにここを去るべきだった。 そしたら、こんなことにならなかったのに苦労掛けてすまない」
「いいのよ。 私はその言葉で十分苦労してきたかいがあったわ」
継母がニタニタとアタシを見つめるその目はいやらしく、嬉しそうにアタシの髪を掴み耳元に顔を近づけてきた。
これ以上、何をするつもりなんだろうか?
「そんな汚れた魔法より身体で稼いだらどうかしら?」
この女、一体何を言っているのか分からなかった。
何を知っているのか? けど怒りが沸々と湧き身体に力が入る。
「チェスカちゃん、数日前に襲われて大人になったもんね。 あれ、私がお願いしたんだよ。 あなたへの門出のお・い・わ・い。 喜んでくれたかしら? でもダメだったみたいね。 だって男の人が怖くなっちゃったみたいだしねぇ~ キャハッ」
笑い声と共に髪を離され、魔力が右腕を巡り、継母に向け、叫び声と共に引き金を引こうとした時、風が吹き抜け、右肩と頬に鋭い痛みと共に生暖かい液体が流れる。
「ケリー、大丈夫だったかい? おい、名無し! 情けを掛けてやったのに何て奴だ!」とアタシを踏みつける。
信じていた父親にも裏切られ、もうどうする事も出来ず、これ以上、何も言えなかった。
しばらく、寝ていたのだろうか、痛みで目を覚ますと人の気配は無く、月明かりが照らしている。
誰もいないのを確認した後、アタシはタバコを咥え、煙を吐き出すと右頬の傷がヒリヒリと痛む。
未だに残る口の不快感と傷の痛みを紛らわせようと、煙と共に吐き出すが何も変わらず、煙がゆらゆらと夕闇に揺れ、やがて消えゆく様をただ見つめる。
一本吸い終えた後、月をボーっと眺める。
後ろの草むらから、ガサッと音がし、とっさに身構えた。




