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42話

 さて、肝心のアタシはと言うと……

 今日がここで働く最後の日という事でのんびりとコーヒーとタバコを嗜んでいた。



「で? これからどうするのかしら?」


「どうするって?」


「決まってますわ。 あなた、妹が帰ってきたらここに居る理由はないんでしょ」


「まぁな…… アタシはケイトとゆっくり考えたい」


「わたくしは進学する事に決めましたわ」


「ほぉ、何処にするんだ?」


「ちょっとした名門の所でも行こうかしら?」


「ミラならどこだって行けそうな気がする。 まぁ出発の日には声ぐらいかけろよな」


「お嬢様に対しての口の利き方を知らないんですか?」と眼つきがアタシの方に向き、タバコを吹かし誤魔化すがギラリとした何かを取り出そうとしたのが見えた。



「まあまあ、アンチリアは落ち着いて」


「奥方様は甘すぎます」


「でもねアンチリア、あなたはチェスカさんに、何か言う事があるんじゃないかしら?」



 一瞬、「え!?」と驚く顔が少し、可愛かった事は内緒にしておこうと思う。

 言ったら、どうなるかの想像は難しくない。

 近づいてくる彼女に殺気を感じ、身構えていると右手を差し出される。

 とっさに、握手をすると近づき耳元で「あのメモ帳を処分してくれたんだろ? 感謝している。 私はとてもいい部下を持ったようだ」その小さな囁きにニヤニヤすると調子に乗るなと言う視線が刺さるが対して気にはならなかった。



「じゃあまたな」


「いつでもいらっしゃい歓迎するわよ」



 別れを惜しみつつ、アタシは屋敷を後にした。

 歩きたばこで野道を歩きながら、帰宅へと胸を躍らせる。

 先に帰った妹に合うのが楽しみで仕方がなかった。

 アタシは無我夢中で走って家へとたどり着くと家の周りはいつもと変わらない。

 家では父親、継母がアタシの帰りを待ちわびていて妹が出迎えてくれて、夕食を一緒に食べ。

 そこで魔法が使えるようになった事を伝え、二人で学校に通う。

 その後は進学かギルドで華々しくデビューなんかもいいなと、アタシの明るい未来の想像が膨らみ、希望のドアに手をかけ開ける。

(お客さん!?)

 目の前に白い鎧を着た人物ほか2人の背中が目についた。

 その内の二人が男性だと分かった瞬間、妙な感覚に襲われる。

 冷や汗と共に呼吸が荒くなり、鼓動が落ち着かなくなる。



「あれ? この家には娘は――」


「いえ、違うんです。 あの娘は居候で……」


「居候? さっきまでいなかったじゃないか。 それに何か変だけど大丈夫かい君?」


 差し伸べられた手を後ろに避け下がる。

 理由は分からないけどさっきから呼吸が落ち着かず、心臓の鼓動が早くなり、パラパラと本をめくるように数日前の襲われた時の事を思い出す。

(な、なんで今更……!?)



「えぇ、村長さんの所で出稼ぎをしていて彼女はよく働いてくれますわ」



 その言葉にアタシの中でギュッと何かが締め付けられるような痛みが走る。

 一瞬、何を言っているのかわからなくなった。

 それにこの家はアタシの家で居候なんかじゃない。

『アタシはウォルト・キャラハンの娘のチェスカ・キャラハンだ』と言いたいが声が全くでなかった。



「大変! この子、帰りにモンスターの幻影でパニックを起こしているのかしら? 今、助けるわ。 チェスカちゃん!」


「あぁ、それなら私たちが――」


「大丈夫ですわ。 ちゃんといい薬があるのよね。あなた」


「あ、あぁ妻が調合した薬はよく効きますから、わざわざお手を煩わせることもありません」


「ちょっと持ってきますね」


 継母が奥に引っ込み袋を持って戻ってきたら、アタシの前で袋を開き、頭からパラパラと粉が振りかけられる。

 袋から訳のわからない粉を浴びせられ、絶望と言う名の暗闇に押しつぶされそうになる。

 ニコニコと粉を掛ける継母とそれを見守る父親にアタシはどうする事も出来なかった。

 どうしてこんな事をするの? アタシの事忘れたの?

「騒がしいけど何かあったの?」と妹が出てきた。

 アタシは何とか声を絞り出し「ケイト」と名前を呼ぶ。妹なら全て知っている。

 母親は違うけど今まで姉妹として過ごして来た。

 おかしいのは両親だ。

 ケイトがそのことを証明してくれると思っていた。



「あぁお帰りチェスカさん。 何かあったの?」


「へ!?」


「どうしたの? 体調がすぐれないみたいだけど……」


「そうなのよ。 お仕事で疲れたのかしら?」



 継母に遮られ、袋から直接粉を振りかけられ、父親からも「チェスカちゃん大丈夫か?」と言われ、どうしていいのかも分からずもう、黙るしかなかった。


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