38話
(違う!こんなところで死ぬわけにはいかない。 だってアタシには…… まだやるべき事があるんだ!)
右手があの時の様にジリジリと痛みが走り、それが頭にも響く感覚が襲うと、右手の銃が変化する。
あの時の形とは違い、細くなったバレル、中央に6つの筒の束、中には弾丸が6発とその後ろに引き金の様な物が加わる。
最初の銃よりもより洗練された形に感じられた。
相変わらず、見慣れない物だけど、何となくだけど使い方は理解できる。
「これなら!」
アタシは撃鉄を左手の平で叩くようにして、同時にトリガーを引いていくと破裂音と共に発射された弾丸は氷の矢を砕いていく。
6発全弾打ち尽くすと矢はアタシに届くことはなく、小さく砕けた氷が漂う。
「な、何だよそれ!」
「それより、そんなとこに突っ立ってたら、風邪引くか撃たれるぞ」
「ば、バカにしてるなぁ ま、まぁいいさ、目的は達成したし、僕がこれ以上君達の相手をすることなんて無いからね!」
わずかな冷気と共に奴が消え、これ以上戦闘の無い事が確認できると疲労感から地面に座り込む。
タバコを吸いたい気分だったが、アタシにはまだ使命が残されている。
終わってからゆっくりと吸うとして、ミラ達を見るとギャロンさんの亡骸を見つめ、静かに涙を流し、エイディさんは大粒の涙を流し泣いていた。
「奴の業とは言え、ギャロンの事は愛していた。 ……最後は立派だったわ」
優しく、微笑み、撫でるようにしてギャロンの瞳を閉じる。
マティカの膝で安らかに眠っているように見えた。
やってきたことは許される事じゃないけど、家長として親として、最後は愛する人を助けることが出来たのだ。
満足しているのかは分からないけど……
答えはその寝顔が物語っているのだと思う。
「娘、依頼は果たされた。 妹はこの先で眠っているわ」
「ありがとう!」
「ブロンディ!」
「何だよ」
「後で絶対に戻ってきなさい…… じゃないと許しませんわよ!」
アタシには友人と呼べる人物が出来た。
ケイトを助け出して改めて紹介したいと思う。
初めて出来た同性の大切な友人……
「わかったよ。 ミラお嬢様」
「お嬢様…… 行きましょう」
「待って! お母様も……」
ミラの差し伸べた手を自身の手を添えゆっくりと下に下ろす。
驚いたような顔で一緒に逃げるように促すも彼女の首は縦に振られることはなく、その目には茨の様な強い眼つきはでは無く、優しい眼つきで彼女を見つめていた。
「私はここまでのようだ……」
「そんな、やっと…… お母様と会えたのに。 これからは3人で過ごす事だって――」
「もう、いいのよ。 あなた達に再び会えたし、ちゃんと成長した事を確認できた。 もう、思い残すことはない」
「そんな!――」
「エイディ、ミランダ。 私の愛した人の子…… あなた達は呪縛に囚われる事無く、自由に行きなさい…… それが私の最後のお願いよ」
マティカは最後の言葉と共に瞳を閉じ、目を開けることはなかった。
愛する娘達に看取られ、生涯を終え、その姿は木陰で眠る男を陽射しから優しく見守る古木の様にアタシは見えた。
「アタシはそろそろ行くことにする」
「えぇ、いってらっしゃい」
地響きと共に洞窟の崩壊が始まり、急がなければならない状況になってきた。
ミラ達と別れたアタシはケイトの名前を必死に叫び、洞窟の中を走る。
妹の為にここまで頑張ってきたんだ。
戦闘での疲労も相まって途中、息切れするも何とか身体は持ちこたえている。
早く会いたい一心で走って行くと大きな広間で一人寝かされているケイトを見つけた。
「ケイト!!」
アタシは駆け寄り、声を掛けるもなかなか目を覚まさない、呼吸を確認するとスヤスヤと寝息が聞こえ、安堵する。
起こすのを諦め、背中で抱えると右腕に鎮痛が切れたのか、鈍く痛みが走る。
疲労と傷の痛みで流れる汗が、傷をチクチクと刺す様に痛む。
ここで諦める事なんて出来ない、やっと妹を助けることが出来たのだから……
やがて、洞窟内が外の光に照らされ、明るくなっているのを感じ、もう少し、もう少しと言い聞かせ歩を進め、見えてきた出口の光がアタシにとって、これから訪れる大きな希望の光に見えた。
洞窟を出るとミラ達がアタシを抱きかかえるように支える。
「い、妹…… ケイトを……」
安心と疲れからかアタシの意識は暗転した。




