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2話



「はぁ・・・」



家に着くころには、おこずかいの嬉しさは薄れ、気の重さだけを感じる。

労働の疲れではない、家の居心地が悪いのだ。家族は4人。あたしと妹のケイト、父親のウォルト、ここが問題、継母のケリーだ。あたしは父親の連れ子で、ケイトは腹違いの妹。

そうなると自然にあたしは場違いの人間となるのだ。当然、継母のあたしへの対応も冷たい。

だって、あたしを生んだのは彼女じゃないから……

家に着き、ドアノブに手を掛けるも、それが重く感じる。

でも帰らなければいけない。だってあたしの家だから……



「お母さん、ただいま」


「あら今日は早かったじゃない」


「うん、今日は薪も早く売れたからね」


「へぇ…… そうなの良かったじゃない」



腹違いとはいえ、あたしが帰って来てもこの程度だ。義理とはいえ重労働から帰ってきた娘に対して淡白な反応だ。洋裁の夫婦の温かみを思い出し、気を紛らわせる。



「今日の売り上げは? 全部売って来たんでしょ?」



あたしはバッグから売上金をテーブルに並べた。

それを数え満足したのか、パンとスープを出してくれる。

パンは固かったが、スープに浸して食べると幾らかはマシだった。



「ごちそうさま」



食器を濯ぐ為立ち上がると、チャリンと音と共にお金が落ちた。しまった。

スカートのポケットが破れていたのか。

慌てて拾おうとした瞬間、強烈な破裂音と共にあたしの身体は床に崩れた。



「てめぇ……金をちょろまかしてたのかよ」


「ご、ごめんなさい」



足で体を蹴りながら、罵声罵倒を浴びせる。

身体を鍛えているとはいえ、あたしにはあまりにもキツイ。



「コブ付きで情けをかけてやってるのに泥棒かよ! あんたは娘と違って出来損ないなんだよ! それでも置いてやってるのに金を誤魔化すとか普通なの?」


「これは…… あたしにっておかみさんが」


「あぁん? いい訳なんかしてこの子は……」



胸倉を掴み腹部を殴られ、激痛と共に、未消化の朝食が吐き出される。

痛みと胃液の不快感から涙が滲む。



「あ…… うぅぅぅぅ……」


「いい、よくおぼえてね。あなたはあの娘と違って、魔法もろくに使えないタダ飯食らいのクズなのよ」


「それでもあなたを置いているのは、金を運んでくるからと夫の結婚の条件だったから」



あたしが我慢すればすべてが丸く収まる。

そう考え罵倒に耐え続けてきた。

殴り返しては決していけない、すれば父親が悲しむから……



「まぁ、適当に時が来ればアンタを売ることだって出来るのよ。魔法は使えないけど見てくれは良いし、きっと高値で買ってくれるわ。 早く、その汚物を掃除しなさい」


継母がそう言い、あたしのブロンドの髪をそっと触る。


逃げたい……この事を誰かに伝えたい……

でもあたしは言う事は出来ない、自分のせいで父や妹の幸せを壊すことが怖かった。


「それと…… ちょろまかしたお金を出して」



あたしは言われるがままにお金を全て差し出した。

この家の平和の為、家族として居続ける為に……

腫れた顔は、彼女が面倒臭さそうに回復魔法を掛ける。

腫れが引いた事を確認するとそそくさと買い物に出かけた。

表面上はあくまでも仲のいい家族を演じる為。傷が残っていては、面倒なことになる。

決してあたしの為などではなかった。





掃除が終わり、継母が買い物から帰ってきた。

あたしは痛みに堪えながら夕飯の手伝いをする。ちょうどその頃には妹も学校から帰宅した。あたしとは違う、母親らしい暖かい笑顔で継母は彼女を出迎える。

頭をなで照れつつも嬉しそうな妹を見ながら、あたしは少しホッとする。

だって妹がいると本性を見なくても済むし、暴力も無いから。


「ママ、わたしもお手伝いしようか?」


「ケイトはいいの。 学校から帰ってきて疲れたでしょ」


「でも……」


「学校で疲れてんだろ、あたしと継母さんが作っとくから休んどきな」


「う、うん」




夕飯が出来る頃には父親も帰って来た。

食卓を囲みながら神に祈りを捧げ、夕食を食べるのが日課だ。

あたしは神なんか信じてはいないが一応は祈るふりをする。

妹が学校での話をしながら両親はニコニコとしながら聴いている。

妹からあたしの話を振られるも当たり障りのない話をして終わり、パンを取る為、腕を伸ばす。



「お姉ちゃん・・・その痣、どうしたの?」


「確かにどうしたんだ、その痣は?」



一瞬ではあるが継母もギクリとしたはずだ。とっさに転んだ事を伝えると義母が、もうドジなんだからお姉ちゃんは、と笑った。




その夜ベッドで、妹が痛むだろうからと、学校で習ったばかりの回復の魔法を掛けようとしたが、あたしはそれを断った。確かに魔法は使えるが、そのためには石の魔力を消費する必要があるのだ。上達すればある程度は自力でも魔力は使えるが、今の彼女は石を使った魔術が精一杯。これも練習だからと、その純粋な笑顔に押され、了承する事にした。



「じゃあ行くよ」


「お手柔らかに」



ケイトの手が光り、腕の痣に光が当たり、痣が消えていく。暗い部屋に微かに光る暖かな灯りに妹の顔が照らされるそれは、美しかった。

邪心にも、あの義母からは考えられないほど素直で優しい女の子だ。

ことが終わると妹をギュッと抱きしめる。



「ありがとう、ケイト」


「お、お姉ちゃん!?」



月明かりに照らされた妹の顔を見ると、照れているのかアワアワとし、おやすみと言いながら慌ててベッドに戻って行った。あたしもベッドに入り、目を閉じ、改めて決意する。

妹は絶対に幸せにしなければと・・・





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