37話
「あれぇ? 外しちゃったかなぁ」
「てめぇ!」
上を見ると黒いフードをかぶった奴がそこにいた。
性別は分からないが声からして幼子の声だ。
容姿と裏腹に不気味さが感じられる。
あんな小さな体で寿命が近いとはいえ、上級モンスターのマティカを貫くほどの氷塊の槍を出せるという事は相当、レベルが高いのは間違いなかった。
「やっぱり、隠してたのかぁ で、どこまで知ってるのかな?」
「この子たちは何も知らないわ!」
「まぁ、知らない方がいいと思うんだけどなぁ」
相手は上級の魔法使いで到底、敵う相手ではないが戦うしかなかった。
弾を装填し、構えて相手を睨みつける。
「ぷっ、ははははは 君、面白いね。 僕と殺ろうってのかな? でも今日は特別に許してあげるね。 だって目的は達成されたから!」
「目的? ギャロンを殺すことかよ!」
「そう、彼はもう用済みだよ。 あと目的の物も回収したし後はここを破棄するだけ」
「破棄!? てめぇ、まだ中にケイトがいるんだぞ!」
「そんなこと知った事じゃないよ。 生きていたらまた会えるかもね」
「ウィンドファイヤ!」背後から熱気を感じた途端、炎の渦がフードの奴に襲い掛かる。
振り返るとギャロンが炎の明かりに照らされ、血に濡れた地面が赤く煌めいていた。
「そんな魔法はぐらいで」とフードの奴が氷の壁で応戦する。
魔力が切れたのか、炎は氷の壁を溶かすことなく、徐々に火の勢いを弱め終息する。
それはまるでギャロンの命が尽きていく様にアタシは感じた。
「娘達と…… 妻には…… 手を出すなぁ!」
「お父様!」とミラとエイディさんが駆け寄り、ふらついたギャロンを支える。
背中には1本の氷塊が刺さって背中を血に染めていた。
娘たちに抱かれ、弱弱しい声で一言「すまなかった」と呟き、ギャロンはそのまま倒れ、動く事は無かった。
「人間ごときが!!」とマティカが怒り、蔓を槍の様に突貫させるも一瞬で蔓が凍り、砕け散る。「無駄なことはしないんだけどなぁ」とケラケラ笑う様にアタシ達は苦悶の表情を浮かべるしかなかった。
「死にぞこないの化け物にしてはよくやったと思うよ」 奴の周りに小さな氷柱が周りに現れ、放たれる。
「エイディ、ミラ!」 「お嬢様! 奥方様!」氷柱をマティカがその技で防ぎ、アンチリアがナイフで切り刻む。
「へぇ、やるじゃないか…… じゃあこれなら!」
「ブロンディ、逃げなさい!」と聞こえるが、逃げる間もなく、氷柱は無残にもアタシにも向かって放たれていた。
トリガーを引き弾丸が2発撃つが、氷を砕くことは無く、軌道が僅かに逸れ、左肩をかすめただけだった。
痛みがじわじわと伝わり、手で押さえると冷えた傷口から温かな血が流れてきた。
「アイスアロー!」
無数の氷の矢に全身を貫かれ、死ぬのかと思うとせめて痛みは一瞬がいいなと諦めが心をよぎる……




