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30話


この広い屋敷の中で迷ってしまったが、適当なメイドに合ったら、分かるだろうと歩いては見たものの…… 誰一人見つける事が出来ずに途方に暮れていた。

慣れない屋敷での移動に疲れが見え始めた頃、廊下の奥に立派な扉を見つける。

近づくと何やら鼻歌が聞こえ、部屋の主に場所を聞くことにした。

ノックすると「ハーイ」と返事が聞こえた扉が開けらた。



「誰かしら?」



そこにはアタシより少し年上だろうか、優しい顔つきに柔らかい笑顔の白い髪の女性が扉の前に立っていた。

何処となくミラに似ているけど…… 誰だろう?



「あ、あの……」


「あら? 新しいメイドさんね。 もしかして迷ったのかしら?」


「どうしたの? 緊張しちゃったかな」


「あ、あの、ミr―― じゃなくてお嬢様の部屋は――」


「せっかくだからこっちに来なさいな」



腕を掴まれ、薄暗い部屋の中に連れ込まれる。

部屋の中は魔石を光源としたライトに照らされ、装飾品は白を基調とした落ち着いた感じの部屋で、本棚に沢山の本が並べられていた。



「ごめんねぇ 仕事中だったかしら?」


「え、えぇまぁ……」


「今日は退屈だったのよ。 ここに来るのって身内以外は、アンチリアかカトゥラちゃんで、今日は来ないから…… ごめんなさいね」



シュンと落ち込んだ様子に少し、同情するが今はこの人の事より、手に入れた手帳の内容と遅れてきた時のメイド長の嫌味が怖いので早々に部屋の場所を聞いてずらかる事にする。



「あ、アタシは仕事があるので……」


「え、えぇそうよね…… メイドさんだもんね。 私ったら……」



涙目で見つめる目がアタシの心を揺さぶり、さっきまで天秤にかけていた事が同情に傾き、少しだけだが話し相手になる事にした。

少しだけここに居る事を伝えると雲の隙間から日が差すような笑顔が見られた。

(あぁ、ミラとメイド長から大目玉だなこりゃ)



「あなた。 お名前は?」


「チェスカ…… キャラハン」


「じゃあ、チェスカちゃんって呼んでいいかしら? ワタシはエイディ・ケルンよ」


「は、はぁ……」


「チェスカちゃん、紅茶でいいかしら?」


「は、はい何でも飲めます」



いったいこの人は誰なのかさっぱり分からないまま、紅茶を用意する彼女の後姿を見ながら考える。

よっぽど嬉しかったのか楽しそうに鼻歌交じりで紅茶を入れる彼女の姿に愛らしさを感じる。



「チェスカちゃん、ゆっくりしていってね」と紅茶を出され、一口飲む。

優しい紅茶の香りが口の中に広がり、心を落ち着かせる。

彼女も椅子に座り、お茶会が始まり、アタシはテーブルを挟んで女性とお茶をしていると言う奇妙なことになっていた。



「ワタシが淹れた紅茶はどうかしら?」


「お、おいしいです」



どうもこの甘えた感じとグイグイと押されるのに弱い。

気を紛らせる為に、タバコを吸いたいところだけど、見ず知らずの人だ。

メイド長の様に煙を不快に思うであろうと考え我慢することにした。



「メイドのお仕事は順調?」


「ま、まぁぼちぼちです」



実際、ぼちぼちとは言い難く、内容の濃い数日を過ごしているがここでそんなことを言おうものなら、どうなるかを考えるとこの答えでとどめる事にした。



「スンスン、チェスカちゃんっていい香りがするのね」


「え、えぇ!?」



席を立ち、後ろからまるでぬいぐるみを抱くように抱きしめられる。

背中から女性特有の柔らかい感触と髪の香りがアタシの鼻を擽り、状況と相まって気恥ずかしくなる。



「これなーんだ?」


「あ、あれ!? いつの間に――」


「箱からタバコみたいな匂いがするけど、吸ってるのかなぁ~?」


「か、返してください」


「はい。 でも女の子がタバコを吸っちゃだめですよ」



まるで子供に諭すかのように怒られてしまった。

継母なら間違いなく、殴られた後に没収されるとこだが助かったと思い、ポケットにタバコをしまう。



「それと花のにおいがするわね。 もしかしてあの傷薬使った?」


「え、えぇまぁ とってもいい薬ですね。 傷があっという間に治った――」


「そう……」



彼女は部屋の暗さなのか少し暗い顔をした様な気がした。

アタシはこんな暗い部屋で一人で居るからだと思い。

席を立ち薄暗い中、窓を開けようとした時、「あっ!?」と声と共に女性が窓を開けるのを阻止する。

訳が分からずに彼女を見るとか細い声で「ダメなの」と呟いた。

アタシは窓から手を離すと彼女もアタシの手を離した。



「ご、ごめんなさい急に…… 太陽はダメなのよ」


「こちらこそ、ごめんなさい! もしかしてアンデッドの眷属でしたか!?」


「ち、違うのよ。 昔から太陽の光って目が眩んじゃうのよね」



異種族と共存するようになって人間だけの世界とはまるで違う価値観、体質と向き合う事となり、アタシもその感覚を忘れていたことを改めて痛感する。

今でこそ、これで終わっているが昔は殺し合いに発展することもあったらしい。

その中で共存していく為、互いの価値観のすり合わせを行ってきたと妹の教科書にも書かれていた事を思い出す。



「この部屋にはずっといるんですか?」


「えぇ、話し相手は少ないけど本もあるし、なかなか快適よ。 前はもう少し自由に出来たんだけど……」


「前はって――」



バンッと扉が開かれるとミラがそこにいた。

アタシに見せる顔とはまた別のお嬢様風なにこやかな顔でアタシに迫ってきた。

いつもと違った得も言えぬ迫力に彼女を見ると涙目になっていた。



「エ、エイディさん!?」


「チェスカちゃ~ん」



ミラにビビるのは理解できるがこれほどまで一体何が彼女をそうさせるのかは分からないがさっきまでの威厳はなく、悪さをした子供の様にアタシの後ろに隠れている。



「ブロンディ何をしているのかしら?」


「い、いやぁ~ 迷っちゃって」


「ふ~ん…… で、こんなところで油を売っていたわけね」


「ミランダちゃん、ワタシがそのメイドさんを誘ったのよ」


「お母様は黙っていてください」


「ミランダちゃんのいじわる……」


「お、お母様!? この人が!」



確かに何処となくこの女性からミラの面影が見える様な気は間違いではなかったらしい。

この人からあのミラが生まれる事を考えると世の神秘に少し触れた気がした事はアタシだけの秘密にしておこう思う。



「何か失礼なことを考えましたわね」


「べ、別になんでもねぇよ」


「あら、チェスカちゃんってそっちが素なの? 乱暴な言葉遣いはダメよ」


「は、はい」


「よろしい」



調子が狂うけど何とかお目当ての人にで当てたことは幸運だった。

ミラが「ここで話しましょう」と席に座り、あの家で見つけた手帳を開く。

アタシとエイディさんも席に座る。



「さて、読むわよ」


「なになに。 楽しいお話しかしら?」


「お母様……」


「は~い」


「メイド長はどうしたんだ?」


「お父様がカトゥラにお土産があるからって、アンチリアが連れて行っていたわ」


「まぁ居ないもんはしょうがないし、さっさと読もうぜ」


「そうね」


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