28話
「うわぁ あの人生きてるのかな……」
「そんなことより目の前の敵に集中しなさい」
「はいはい」
先にゴーレムが動き、右拳を打ち込もうとアタシ達に襲い掛かるとメイド長が魔法をナイフに纏わせすれ違いざまに切り落とす。
バサンッと腕が落ち、収束の魔法が解け、紙の束が広がった。
(メイド長がいれば楽勝だな)と思っていると「早く、追撃しなさい! その魔法は飾りなの?」と言われたので頭部に向けて銃弾を撃ち込む。
命中するが狙っていた頭部とは違う腹部に貫通せずにめり込むだけだった。
「何やってるの!?」
「アタシだって精一杯やってる!」
「威力がまるで無いじゃない」
「アタシだって知らねぇよ」
「役に立たな――」
「メイド長、危ない!」
気が付いた時にはゴーレムが腕を再生させ、メイド長を吹き飛ばしたところだった。
家の壁に打ち付けられたメイド長が苦痛に顔を歪ませるが何とか立ち上がり、ナイフを構え直す姿を見て少し安心する。
「大丈夫かメイド長!」
「ま、全く、貴女には呆れ返ります。 何の戦力にもならない、ただのお荷物だなんて!」
「こんな大きな奴が相手なんて聞いてない!」
「じゃあ、役に立たないなら、せめていい案を出してください!」
相手は紙、単純に弱点は火か水、又は中心のコアとなっている箱を破壊するのほかなかった。
でも、そう簡単にはいかない事は明白だ。
切っても再生する。弾丸は思い通りには飛んでいかないし、残りは火か水の魔法しかなかった。
「相手は紙だろ火か水の魔法を使えば――」
「おバカさんですか?」
「なんでだよ!?」
メイド長がモンスターの攻撃を避け反撃しながら悪態をついてきた。
今更言うんじゃなかったと後悔しても遅く、どうする事も出来なかった。
「よく聞きなさい、火や水は完全にダメ。 加工魔法を施してある可能性があるのと、もしどちらかで倒せてもメモを読むことなんて永遠に出来なくなります」
「じゃあ、どーすんだよ!」
「コアを直接、破壊する必要があります。 幸い、安物の魔道具で作られたゴーレム、コアが外に露出しています。 貴女が陽動し、私が魔法で両腕を切り落とした後、破壊しなさい!」
「そこまでやったら、メイド長が破壊すればいいじゃん?」
「先ほどのダメージと貴女の肘打ちのせいで思うように身体が動きません」
「全く、泣けるぜ」
メイド長が両手にナイフを構え、魔法をナイフに集中する。
アタシはその間、ゴーレムの陽動を行う。
図体はでかいが攻撃は単調で避けることが出来る。
グエルの方が遥かに歯ごたえを感じるが左右に避けるたびに服が切られ、腕や足に細かい切り傷で血が流れる。
「まだかよ。 メイド長!」
「準備、完了です!」
身体強化されたメイド長がゴーレムに向かって走り出す。
ナイフの刃は魔力を帯び光り出し、風の様に早く走るメイド長を捕まえようと両手を伸ばしたゴーレムを避けて後ろに到達した時には両腕が切り落とされていた。
「ウインド・ブレード…… チェスカ、今よ!」
「あいよ!」
軽く言ってみたものの、両腕を失ったゴーレムは頭を巨大な口に変化する。
アタシに向かって走ってくる姿に、足が軽く震えながら、ポケットから1発目の弾丸を取り出し、銃に入れ、発射するもコアを大きく外し、頭部に命中した。
ゴーレムは一旦は怯むが、唸り声をあげアタシに対して怒りを露わにする。
(しまった!)
コアを外したとはいえ、向かってくるゴーレムに恐怖で震える。
あの口に噛まれたらどうなるかなんて考えたくもない。
手掛かりを手に入れる為には、倒すしかなかった。
(やるしか…… ない!)
軽く呼吸をすると、頭の中の本が現れ、アタシは自然に身体が動き銃を構える。
誰に教えられた訳でもないのに、それは当たり前の様にグリップを握り、左足を少し前、左手を右手の下に添え、右腕を伸ばして左肘を少し曲げ。
アタシは落ち着いて黒いコアに狙いを定める。
何処を狙うべきなのかがはっきりと見えた。
トリガーを引き、バンッと弾丸が発射される。
意志を持ったかのように弾丸が突き進み、コアを砕き、穴をあけるとゴーレムは膝を崩し倒れる。
コアが砕け、魔力を失い、収束が解かれた紙のゴーレムは元の紙束に戻っていった。
「や、やったのか?」
「えぇ、私達の勝ちです」
「ふぅぅぅぅ」
大きく息を吐き、タバコに火を点け、一服する。
何かをやり遂げた後のタバコは格別で空にプカプカと昇る煙は自身の今の気持ちと繋がっている様に感じた。
「すぐにタバコを吸うのは癖なのでしょうか?」
「勝利の一服ってやつ」
メイド長が不快な顔をして後ろに振り返り、わざとらしく咳をする。
アタシは気にすることなくタバコを吸っていると紙の束がザワザワと動き一つの場所に集まっていく。
「ちょっと待て! 倒したはずじゃ――」
「そのはずです」
慌てて石を弾丸に錬金し、銃を構える。
しかし、紙の束はゴーレムになる事は無く、一冊のメモ帳が紙の束から現れた。
紙束も動かなくなり、アタシが銃を構えつつ、メイド長がメモ帳を回収する。
「これ、さっきの机とかに張り付いてたやつだよな」
「読んでみないと分かりかねます」
「中身は読まなくていいのかよ」
「これは依頼の品です」
「気にならないのか?」
「そんな事より、早く、屋敷に帰りましょう。 服が汚れていてはそんな気分にもなりません。 貴女は平気なんですか?」
アタシはそう言われ、服を見ると出かける前は白くキレイなエプロンだった物は家の中の汚れや切り傷からの血の染みでドロドロになっていた。
戦闘中は気が付かなかったけど、身体を動かすたびにあの家の中の臭いが鼻腔を通っていく。
いくらガサツなアタシでも、あの家の中の汚れを服に浴びている事を思い出すこの臭いに顔をしかめる。
メイド長の言う通り、さっさと着替えに帰りたい気分だった。




