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1話

 数百年前、勇者が魔王を退治し、世界には平和が訪れた。

 しかし、強大な力を持った魔王が倒れたその数年後、すべての人が魔石によって魔法が使えるようになったことから、世界は混乱に包まれたのだ。

 当時の国王たちは各地域に魔術師を送り、指導を行うもまるで人手が足りなかった。

 そしてついに、魔王のいない魔族と和平を結び、各地に魔法の管理、指導の手筈を整えたのだ。

 勿論いざこざは絶えなかったが、時が経つにつれて少しづつ解消され、世界は落ち着きを取り戻していった……




「ふぅ、今日はこんな所かぁ」 薪割りを終え、あたしは一息つくことにした。

 木陰に座り、空を眺める。

 太陽はサンサンと輝き、空が青い。まるで高く飛べそうな勢いだ。

 そよ風が体を撫で、爽快感が仕事の満足感をさらに演出し、このまま寝るもよしと言いたいけど、やらなければならないことがまだ残っていた。

 ゆっくりと立ち上がり、正面の木にゆっくりと構える。左手足を前に半身。呼吸を整え、右の拳を握りこむ。



「はぁ!」 右拳を幹に突き当て、僅かな拳の痛みと共に、木がドスンッと揺れ、ヒラヒラと落ちる葉を両拳の突きで掴む。



(早く、もっと早く!) 両拳は、落ちる葉を瞬く間に掴み、目の前の葉が落ち切ったところで、終了する。

(さてさて、どれだけ掴めたかな?) 両手を開き、(1、2、3・・・)掴んだ葉を数え、「両手で20枚・・・やったぁぁぁぁぁぁ!」 喜びを全身使って表す。舞い散る葉っぱがまるで祝福するかのようにヒラヒラと舞う。

 毎日の鍛錬の賜物だった。

 馬鹿にされたあの日から鍛錬を始めて、やっとここまで来た。

「次はどうしよう。思い切ってもう少し筋力を上げようかなぁ」 目指すはモンスターを、素手で倒せるようになる事だが、目標にはまだ遠いのは分かっている。

 それでも少しずつ進歩している自分が嬉しかった。


「少しは強くなったかなぁ」 拳をぐっと握りしめる。この数年間の苦労が、少しだけ報われたような気がした。

 この世界は、魔法が使える事がすべてだ。

 世のあらゆる職業は魔法によって成り立っていると言っても過言ではない。

 もはや何百年前みたいに特定の人のみ使えるのではなく、全ての人種が、魔法を使えるようになっている。



「お姉ちゃーん」 パタパタと栗色の髪の少女が走ってきた。

 妹のケイト、あたしとは腹違いだがお姉ちゃん思いの、とてもいい子であたしと違って、魔法も上手で性格もおしとやかな子だ。



「学校に行くのか?」


「うん!」


「いじめられたら、あたしに言うんだぞ。とっちめてやるからな」


「大丈夫、みんなとは仲良しだよ」 子犬の様なキラキラした目は、ニコッと笑うとあたしの口元もわずかに緩む。

 妹には幸せになって欲しい。

 こんな不幸を背負い込むのはあたしだけでいいのだから・・・。



「あら、ケイトさん、おはようございます」


「ミランダちゃん、みんなおはよう」



 綺麗な新緑の色をした髪の子は、村の領主の娘のミランダだ。ケイトの先輩であり、あこがれの人らしい。

 成績優秀でお金持ちで人格者。もはや、非の打ち所のないお嬢様。



「お、おはよう」 取り巻達があたしを見るなり、ばつの悪そうな顔をする。どうやらあの時の仕返しが、いまだに効いているようだ。



「がんばって来いよ~」


「お姉ちゃんもね」 妹達を見送り、あたしは仕事に戻る事にした。

 薪の束を背負子に括りつけ、各家に配り歩く。

 一束500J(ジュエル)だが、これが良く売れる。


 村では相変わらずの日常が始まる。

 少し違うのは人の営みが、魔法によって成り立っているという事。

 昔の様な攻撃的な魔法ではなく、火をおこす、傷をいやす等など、生活に根付いた魔法が盛んだ。

 もちろん、訓練次第では攻撃魔法も使えるがギルドに登録する必要があったりと色々とめんどくさいらしいが知ったことではない。

 そんなことよりも薪を売ることが重要だ。



「薪~、薪はいかが~」




「いつも、ごくろうさまだねぇ」


「おはよう、おかみさん。 今日も綺麗だね」


「あら、嬉しい事言ってくれるじゃないの」


「おっ! チェスカじゃないかご苦労さん」 目の前にいるのは洋裁の夫婦だ。

 おかみさんはエルフと人間のハーフで、旦那がホブゴブリンと人間のハーフと言う珍しいと言うか、昔は珍しかったが今はそうでもない、ごく当たり前の夫婦だ。

 いつもあたしの薪を買ってくれるお得意様。



「朝から騒がしいと思ったらやっぱりお前かブロンディ」


「いやだねこの子は。今起きたばっかり見たいだけど、本当は・・・」


「だぁぁぁぁ! 違う違う、オヤジが仕事手伝えって言うから」



 この悪態ついてきたのがグェル。大柄であたしにいつも喧嘩を売って、その度に親父さんやおかみさんにいつもどやされている、子供の時からの喧嘩友達。顔はどちらかと言うとゴブリン寄り。

 ブロンディって言うのはあたしのあだ名で、同じ年のみんなそう呼んでいる。

 褐色の肌にブロンドの髪は珍しいらしいが正直、このあだ名は少し気にいっている。

 だって何とかの流星や何々の悪魔など有名な人はみんな二つ名がついてるからだ。



「てめぇ、何てこと言うんだ。」 オヤジさんにどやされ、フンッと不貞腐れる。

 いつもこんな感じだ。すまないねぇとおかみさんがいつもより多く4束の薪を買ってくれたが、少しだけお金が多かった。


「1束500Jなんだけど」


「いいの、いいの。アンタのおこずかいにでもしなさい」


「でも・・・」


「かぁちゃんの言うとおりだ。いつもがんばってるからな!」 あたしはありがたく1000Jをポケットに入れ、売上金をバッグに閉まった。グェンは相変わらず不貞腐れながらおこずかいに不満を漏らし、お前もあれくらい働けとお尻を叩かれる結果となった。

 あたしはお礼を言い、家路に着く事にした。


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