26話
快晴の天気の中、心は曇りなんて事はよくある事だけどこの状況は何とも形容しがたい状況だった。
ミラに記事を書いた人物の住所を渡され、一人で出発しようとしたら、何を思ったのか『お忘れかしら? アンチリアも同行しますわ』なんて……
襲われた事が心配だからって何もメイド長が付いて来る事なんて無いのに余計なことしやがって!
「私と一緒なのが不服かしら?」
「べ、別にそんな事は無ぇよ」
「なら、もう少し笑ったらどうなのですか?」
(泣けるぜ)
タバコでも吸いながら、のんびり行こうと思っていたのに当てが外れたことがアタシには地味に応えた。
アタシの思いとは真逆に今日も空は青く、清々しい日だった。
「ここでしょうか?」
「地図にはここって書いてあるからそうなんじゃねぇのかなぁ」
ミラから貰った地図には確かにこの場所を示していた。
村外れの一軒家にこの記事を書いた人物ジャモルト・ギジャが住んでいる。
家自体はどこにでもある普通の家で特に変わった様子もない、呼び出そうと扉を叩くも何も反応が無かった。
「居ねぇのかな」
「さぁどうなのかしら?」
「おめぇさん達、何してるんだ?」
後ろを振り返ると声を掛けてきた大柄で無精ひげの男がそこにいた。
見た感じでは粗暴の悪そうな男で何をしにここに来たのか答えるべきか躊躇しているとメイド長が男に話しかけに行った。
「私たちはこの家の住人に用があるだけです。 以前お世話になったので……」
「あぁジャモルトさんの知り合いかぁ 残念だけどここにはもういないよ」
「居ないとはどういう事でしょう?」
「実はな、ここ数ヶ月、帰って来ないみたいで村長に家の解体を依頼されたんだよ」
「帰って来ないってどういう事だよ」
「理由は知らねえが…… 夜逃げか何かだろうなぁ」
本人がいないのは好都合だけど怪しまれることなく、家に入るにはどうすればいいのか考えるがいい方法が思いつかなかった。
いっそ素直に入る事を言うべきか……
「中に入る事は出来るでしょうか?」
「入るのは止めねぇがあんたら、メイドの服装で泥棒かい? 泥棒は感心しねぇな」
「いいえ、泥棒ではありません。 先ほども申しましたが生前お世話になったので形見の品を頂こうと」
「そうだなぁ まぁ黙っといてやるからメイドのお嬢さん方、金目のものはあるかい? それをくれるなら黙っといてやるよ。 何なら身体でも――」
男と言うのは何かあると、すぐにこれかと呆れる。メイド長の肩に手を置き、ニヤニヤと下種な目つきでアタシとメイド長を見るその目に先日の事を思い出し、虫唾が走る。
いっその事魔法で脅してやろうかと思っていると、メイド長が肩に置かれた男の手を取り、胸倉をつかんで一気に投げ飛ばした。
ドスンッと音と共に、男は大の字に地面に寝かされる形となり、呆気に取られていた。
「そのような要求には答えられませんがこれは慰謝料です」と銅貨を男の脇に落とした。
「てめぇ、舐めたマネしやがってこのアマ!」
起き上がろうとした所でアタシがスキル魔法を使用し、男の眉間に銃口を突きつける。
「なんだこれ、こんな魔法で脅しのつもりか?」と言われた。
これが何なのかはアタシだけが知っているスキル魔法だから、当然と言えばその通りだったので当然の反応だった。
「そうだ。 ドタマに風穴を開けたくなかったら、その金で満足するんだな、おっさん」
「そんなでたらめ――」
「世の中には2種類の奴がいる。 従う奴と打たれる奴」
「素直に従った方がよろしいかと……」
「わ、わかったよ。 ったくこの前の奴らはもう少し金払いが良かったのによ」
「アタシらのほかにも誰か来たのか?」
「しらねぇよ」
「話した方がよろしいかと存じますが――」
メイド長が男の首にナイフをスッと触れさせると薄っすらと血が滲み出す。
当てが外れ、脅され、もはや話すしか選択肢がなくなった男の顔からは恐怖が滲んできていた。
「わ、わかった。 わかったからその変なものとナイフをしまえよ。 まったく……」
男は観念したのか手を挙げ、抵抗しないことを確認し、メイド長がナイフをケースに戻し、アタシは魔法を解除した。
男は安堵からため息を吐き、話し始めた。
「数日前に…… お前らと同じようにここに来たんだよ」
「それって誰だよ」
「しらねぇよ。 金はもらったし、それ以上は聞く理由は無いからな」
知りたい情報があまりないことに舌打ちをする。
メイド長はこれ以上の情報がないことを確認するとさっさと家の中に入っていった。
「変なことするんじゃねーぞ!」
「も、もうしねぇよ」
男に警告し、アタシもメイド長に続いて家に入る。




