25話
「そうね、話す必要があったわね」
「お嬢様、その事は!?」
「ブロンディ、あなたの言う通りよ。 アンチリアとあの場に居ましたわ」
「じゃあ、植物を操っていたのは――」
「そう…… わたくしですわ」
魔法を発動し、銃をミラに向けるとアンチリアもナイフを構え直し、戦闘態勢に入る。
ミラは真っ直ぐ、アタシを見つめ、その雰囲気からは強い何かを感じずにはいられなかった。
「メイド長、動くとお嬢様のドタマに風穴が開くことになるぜ」
「この野良犬が……」
「アンチリア…… わたくしは大丈夫ですわ」
不服そうにメイド長がナイフをしまう。
睨み合いが続き、二人の間のタバコの煙が、天井にユラユラとまるで互いの境界線の様に見える。
タバコの火が吸い口まで近づき小瓶に入れる。
弾丸は1発、これを外せば次弾の装填までに、メイド長が直ぐに襲い掛かってくることは明白。
それにミラの魔法の事も気になった。
このまま戦闘になれば2体1で不利なのは明らかだ。
アタシは観念して魔法を解除し、弾丸をポケットにしまう。
「怖くなかったのかよ」
「怖いですわよ。 でも、あなたはわたくしを撃つことはありませんわ」
「そんな自信…… どっからくるんだよ。 で? ミラ、その魔法は何なんだよ」
「そうね。 話すわ…… この魔法は数か月前に急に発動したわ。 最初は草を少し生やす程度だったんだけど練習して植物自体を操る事が出来るわね」
「操るって?」
「そうね。 魔力を注いで成長を促し、巨大化なんて事も将来的には出来そうよ」
「おいおい、じゃあ、アタシが攻撃してたら――」
「木製のテーブルがあなたの魔法を防御してすぐさま反撃ってところね」
「おぉ怖い、怖い」
撃っていたら、間違いなくアタシは彼女に串刺しにされていたって事だろうか?
だとしたら、あの時の目はいつでも攻撃を防いで反撃できるという自信の表れだったのか……
やめていて正解だったことにホッと胸をなでおろした。
少しほっとしたアタシはコーヒーを一口飲むと、冷めたコーヒーからは苦みと酸味が感じられた。
「あなたの魔法…… スキル魔法かしら? 見た事も無い物ね」
「アタシも何なのかよくわからないんだ」
「自分のスキルなのに不思議な事を言うのね」
嘘は言ってない、自分が使う魔法…… スキル魔法は謎が多すぎる。
妹を助けたら、じっくり考える事にして今はミラの事を聞くことにした。
「ミラこそ、その魔法は!」
「恐らく、血筋かしら」
「血筋って! じゃあ、アタシが探していた人って――」
「結論を急がないで…… あなたが探している人物は恐らく、お母様の事だと思うわ」
「お母様?」
「そう、わたくしの三分の一はあのモンスターの血が入ってるのよ」
「マジかよ!」
「嘘じゃないわ」
ミラが話すには昔、一人の青年と植物の女王が恋をし、生まれたのが自分の母で
女王と娘は引き離されここで暮らす事となった。
後に父親のギャロンと結婚し、自分が生まれたと……
得る事が出来た情報が多すぎて、混乱しそうになるが何とか整理する。
思わぬところで、とんでもない話を聞いてしまった事は間違いなかった。
アタシが探していたのは、ミラの母親で、あのモンスターの孫がミラだったという事だ。
タバコが吸い終わり、小瓶に入れ、ジュッと火が消える。
「で、この記事と何の関係があるんだよ」
「それも兼ねて、この記事を書いた人の調査を依頼しますわね。 ブロンディ」
「わかったよ」
「決まりね。 それじゃあ明日の朝、アンチリアと共に記事を書いた人に会いに行ってもらいます」
「ちょっと待て、なんでメイド長が一緒なんだよ」
「だって面白そうじゃない」
「私も考え物です。 こんな野良犬となんて――」
「誰が野良犬だ!」
「そうやって、何にでも噛み付こうとするところですが? それに私は貴女の上司です。 考えて喋りなさい」
(クソくらえ)
「決まりね」
有無を言う暇もなく明日の予定が決定し、この日は解散となり、部屋に一人残された。
去り際にメイド長が嫌々アタシに夕食を置いていった。
かなり遅い夕食だが有り難く頂く。
パンの間に肉や野菜を挟んだサンドイッチを噛みしめる。
塩気が口腔の傷に沁み、痛みとメイド長の悪意を感じるが我慢して全部平らげた。
空腹が満たされ、明日に備えてアタシはベッドで休むことにした。
フカフカのベッドに横たわると満腹感からかすぐに眠気が姿を現す。




