表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/123

19話


「じゃあ、また明日ね。 カトゥラ」


「うん、また明日」



扉を閉め、着替えてベッドに潜り込む。

枕が変わると眠れないだとかそんな軟な感覚を持ち合わせているわけでは無いがどうも寝つきが悪く、窓を開け、タバコに火をつける。

ふと、マティカの依頼の事を考える。誰が娘なのか…… 何一つ手掛かりが見つからない。

知っているのはミラだけで、月の満ち欠けからあと3、4日。

アタシは妹を助ける事が出来るのだろうか…… 月を眺めているとガサッと誰かが駆けて行くのが見えた。

不審者の可能性を考えるが、メイド長に報告するよりも事後報告を選択し、外に出る。

『確かこっちに走って行ったよな』と追いかける。

屋敷の庭を抜け、広い野原に出ると不審者を見つけ、見つからない様に木に隠れ様子を伺う。

雲が晴れ、月明かりに照らされていたがフードが邪魔で顔までは判別できなかった。

相手は誰もいない事を確認すると足早に森に入り、アタシも慎重に後をつける。

少し、開けた場所に着くと小声でボソボソと呟くのが聞こえる。


(何をしてるんだ?)


すると、フードの奴の周りの木や蔦がウネウネと動き出した。

アタシはあれが目標の人物である。

捕まえようと動いた瞬間。後ろから気配を感じた時には遅く、羽交い絞めにされ、ナイフを突きつけられる。


「!?」


フードの奴はアタシに気が付き急いでその場を立ち去った。

残されたのはアタシと今ナイフを突きつけている奴だけとなった。


「アンタに用はないんだけどなぁ もし良かったら――」


「メイドが何の用だ」


「世の中には2種類のメイドがいる。 かわいいメイドと強いメイド」


「貴女はどっち?」


「さぁね!」



今できる精一杯の虚勢だ。怖いけどやるしかなかった。

アタシは相手の右足を踏み、怯んだ瞬間に左手で右拳を抑えて、肘鉄を腹部に叩き込むと腕が離れ、互いに距離を取る形となった。



「仮面なんかつけやがって!」


「……」



顔を見ようにも仮面をつけており、見えない。

魔法の効果が付いた仮面なのか、声からは誰かも分からない。

一つだけ確かなことは、羽交い絞めにされたとき背中に柔らかい感触を感じた。

(あんたが誰だか知らないけど同性ってことは確かだな)

相手の構えたナイフが月明かりに照らされ、怪しくギラリと光り、アタシはとっさに左前で拳を中段に構える。

こうなっては仮面の女がアタシを殺すことは間違いない。

スキル魔法を使用して、この場をどうにかしようと右手に魔力流した瞬間。

アタシが魔法を使うのを相手が気づいたのか右手のナイフをアタシに振りかざす。

(死ぬなんてごめんだ!)と意を決して一歩踏み込み、左手刀で相手の右手を打ち、すかさず右手で掌底を相手の仮面の着いた顔に叩き込む。

仮面の女がよろけて膝をつく、アタシはその隙にその場を立ち去る為に全力で走った。

後ろを振り向くことなく、全力で逃げ、気が付いた時には屋敷に着いていた。

メイド長に報告何てどうでもよくなっており、そんなことより、刃物を持った相手に生きて(帰って来れた……)



部屋に着くと急いでタバコを取り出すが震えてしまってなかなか取り出せないでいた。

アタシは何度かタバコを拾っては落とし、やっとの思いで火をつける。

数回、吹かすうちに少しづつ、気持ちが落ち着いたが、タバコを小瓶に入れ、ベッドで横になるもナイフを突きつけられた恐怖が今になって痛感する。

布団をかぶり、身体を丸めるが震えが止まらなかった。





結局、朝まで浅い眠りの中、朝日が窓を通じて部屋を明るく照らす。

欠伸をしながら、昨日の夜の事を後悔する事となった。



「ふぁぁ~ 眠たい……」


「あれ? 昨日は眠れなかったのですか」


「まぁ、色々あってね」



色々と言うには言葉は足りないが、何にせよ。今日も仕事と情報収集の為にとパンを頬張りながら、スープで流し込む。トウモロコシの甘く香ばしい風味が口いっぱいに広がり、身体に少し、活力が湧く。

アタシは食後のコーヒーを飲み、身体に喝を入れる。

カトゥラを見るとハツラツとした顔と癖毛の中でピコピコと動く耳がまるで今日は何を使用かとわくわくする子犬の様に見えた…… 『と言うか子犬だよなぁ』



「口の周り、汚してるぞ」



ナプキンでカトゥラの口の周りを拭くと「むぅ~」と膨れる様子に思わず笑ってしまう。



「チェスカさんはわたしの後輩さんなんですから、子ども扱いはやめてください」


「ごめん、ごめん」


「もぉ! ほんとうに分かってるのですか?」


「先輩、ごめんなさい」


「わかればいいのです」



エッヘンと威張る様子に笑いそうになるも、グッと堪える。

しっぽがピコピコと振っている様子を見ていると、さっきまでの憂鬱な気持ちも、少しは晴れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ