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18話


「で、お嬢様は何にが疑問なんだよ?」


「先ほど話した通り、人間が生贄になった理由とこの家の収入源」


「収入源!?」


「禁忌の森を管理するって事は何か旨味が無いと考えられませんわ」


「まぁ、普通はギルドに頼んで討伐してもらうよな」



昔とは違い魔法が使える事が一般的にはなったとはいえ、全員が戦闘できるかと言えばそうではない、殆どが日常を便利にする程度にしか使わないからだ。

それに戦闘系スキル魔法の習得はほとんどがギルドでの訓練所や都市部の魔法学校で習う必要があった。

稀に熟練の魔法使いに習う人もいるがほとんどが高額の授業料を請求されるし、箔が付かないので聞いた事は無かった。



「とにかく、その謎を解いたらいいんだな」


「ええそうよ」


「じゃあ、決まりだな。 でもなんで、アタシなんかに協力を?」


「ケイトさんは大事な友人よ。 それに……」


「それに?」


「本当はあなたに復讐されても仕方ないと思っていた。 だけど、チャンスをくれたわ。 情報を得る為に、わたくしを脅す事も出来たのにそれをしなかった。 信頼するに値すると思っていますわ」


「だから、協力を提案したってこと?」


「そうですわ」


「お嬢様に感謝します」



とにかく、協力関係を結べたのは喜ばしいことだった。

アタシはタバコを吸い終えると小瓶に吸い殻を入れ、立ち上がり、ドアに手をかける。

そろそろ仕事に戻らないとお堅いメイド長からのお小言を心配したからだ。



「二人でいるときはミラって呼んでもいいわよ。 あなたは何て呼べばいいのかしら?」


「何でもいい」


「何でも良いって言うのは嫌いよ。 チェスカ・キャラハンさん?」


「そうだな。 親しい奴はアタシの事をブロンディって呼んでる」


「金髪だからかしら? 確かに素敵な髪ね」



実際は魔法が使えなくて、容姿だけしか、褒められることが無かったからだと思っていた。

でも、そんなあだ名に、本名よりも愛着を感じていたことは間違いなかった。



「決まりね。 これからよろしく。 ブロンディ」


「あぁ、よろしくなミラ」



アタシはドアを開け、仕事場へ戻ることにした。

途中、メイド長と出会い、顔を見ると何か言いたげな顔をしていたが、追及を受ける事は無かった。

ミラと話していたんだ。文句はあるまいが、早く仕事に戻れと言わんばかりに尻を叩かれた。

(クソくらえ)




その日、初日の仕事が終わるころには辺りは暗くなっていた。

アタシが帰ろうとした時、ギャロンさんと鉢合わせになった。

どうやら、あの後、出かけていたらしい。

馬車から降り、父親にここで働くことになった事を伝え、快く了承されたことが伝えられた。

(そりゃあ、仕事を貰っている依頼主からそんなこと言われたら、嫌でも了承するよな)なんて考えていると「今日はもう遅いから泊っていきなさい」と言われた。

恐らく、アタシの行方不明事件があったからだろう。

泊まるのも悪くない、あの居心地の悪い家よりましだと思い。了承した。



「よ、よろしくお願いします」


「君のお父さんにも色々と世話になってるからねぇ 良いってことさ」



アタシは屋敷の部屋を案内された。

客室らしく、質素ながら、綺麗な家具とベッドのある部屋だった。

窓を開けると相変わらず月が優しく光を照らしていた。

良く見ると薪割小屋があり、明日の朝、お礼に薪割でもしようかと考えていた時、ドアのノックが聞こえた。

食事時間を伝えに着たらしく、その声に聞き覚えがあり、ドアを開けると小柄な癖毛のカトゥラが立っていた。



「チェ、チェスカさん!?」



彼女は驚いた様子だったが事情を話すと納得したらしく、談笑しながら廊下を歩いた。

楽しそうに話す彼女に、いつの間にかつられて笑っていた。



「どうしてメイドなんかになったんだ?」


「わたしは捨て子だったのです。 この家の前に捨てられていたのをメイド長さんが拾ってくれてそれ以来、ここで働いています」


「そっか、じゃあメイド長は恩人なんだな」


「厳しい人ですが優しい人だと思っています」



メイドの給仕室に着くとまかない料理がずらりと並べられていた。

他のメイド達のほかにも数名のメイド達が席に座っており、アタシ達が席に座ると間もなくメイド長が来たところで、村の守り神への感謝と世界を救った勇者への祈りが行われた後、食事が始まった。

流石、村長の家だけはある。まかないとはいえ、普段では見られない量の食事がテーブルに並んでいた。



「チェスカさん、食べてますか?」


「あ、あぁ食べてるよ」


「早く食べないと無くなっちゃいますよ」



カトゥラが子犬の様に夢中で食事を食べる様子を見て久しぶりに食事が楽しいと思えた。

ここ数日は継母と親父の3人の食事ではロクな思い出が無かったからか、久しぶりの労働からか食事が進んだ。

食事が終り、席を立つとメイド長がカトゥラを呼び止めた。



「メイド長さん、どうされましたか?」



「口の周りが汚れています」とポケットからハンカチを取り出し、カトゥラの口の周りを拭き始めた。カトゥラは「もう子供じゃありません」と嫌がるが、「ダメです」とメイド長に口の周りに着いたソースを拭かれる様子に、どこか微笑ましさを感じていた。



「さぁ、これで綺麗になりました」


「むぅ~、アンチリアのいじわる」


「カトゥラ、ここではメイド長と呼びなさいって言わなかったかしら?」


「ご、ごめんなさい ……メイド長」



カトゥラは少し、しょんぼりしていたがどこか微笑ましく思えた。

周りのメイド達も、そのやり取りに食事の手を止め、見入っていたようでメイド長が眼力で「何か?」と言うと慌てて食事を再開していた。




上司と部下と言うよりは姉妹のようなやり取りの後、ほっぺを振らましながら歩くカトゥラはアタシには何処か嬉しそうに見えた。


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