17話
迂闊だった。
魔法が使えるようになって、自分が元々魔法が使えなかったことをすっかり忘れていたのだ。
「な、なんでだろうなぁ~」
「誤魔化さないでくれる。 もう一度聞くわよ。 いつから魔法が使えるようになったのかしら?」
アタシの詰めの甘さが原因とは言え、答えることが出来なかった。
悪魔と契約して魔法が使えるようになりましたなんて、口が裂けても言えるはずがなかった。
いくら、亜人達がいるこの世界といえ、バレたら魔法が使えなかった時以上に爪弾きにされることは明らかだ。どうにかして納得のいくような理由を考えていると一つだけ思い浮かぶ。
「森で迷った時、魔石を拾ってから、少しだけ使えるようになったんだ」
「ご両親には言われたのかしら?」
「本格的に使えるようになったら言う予定」
別に嘘ではない。妹を助けた後、自分も魔法が使えるようになった事は伝えるつもりだった。
それよりもミランダの目が気になる。それは何かを思いつめたような、そんな目だ。
何不自由なく生活できる彼女に、何の不満があるのかはアタシには分からない。
タバコの灰を小瓶に入れながらそんなことを考えていた。
「わたくしは謝らなければなりません」
「何が?」
とは答えたものの、何のことかは見当が付いている。
生贄になったアタシの妹の事だ。
謝ったところで、どうにもならないのは彼女だって分かっているはずだ。
アタシはそれをどうにかする為にここに居るし、時間もない。
彼女の謝罪に付き合うつもりもないし、もしかしたら、禁忌の森に連れていく事も考えていた。
「妹さんの事は――」
「残念だったとか言うのか? 正直、悔しいよ。 なんでアタシじゃないんだって…… 妹には未来があったんだ」
小さくなったタバコを小瓶に入れ、コーヒーを飲み干し、席を立ち、扉に向かう。
メイドの仕事をしながら情報の収集をする為にも、こんなところでアタシは油を売っている場合ではない。
「謝罪したところで意味なんか無い。 それでは仕事がございますので――」
「まちなさい!」
「まだ何か? お嬢様」
「今回の件、 おかしいとは思わないかしら?」
ドアノブに掛けた手を止め、彼女の話を聞く。もしかしたら何かの情報が得られるかもしれない。
アタシは椅子に座り直し、タバコに火をつけ、彼女の話を聞くことにした。
「おかしいって何が?」
「昔から禁忌の森の管理はわたくしの家の仕事だった。 生贄と言っても動物の肉がほとんどで、人間なんてありえない事だったのよ」
「気まぐれか何かだろ。 相手はモンスターなんだ」
「あなた! やはり、禁忌の森に行ったのですね」
「あちゃ~」
彼女の誘導尋問かアタシの迂闊さなのか、ここまで来たら喋るしかないと思い。悪魔と契約したことは伏せて、禁忌の森での事、洞窟でのマティカから提示された依頼と、解決した暁には妹が返ってくる事を、すべて話すことにした。
「そんな装備で良く生きて帰って来れたわね」
「アタシもそう思う。 でも、お互いに今回の件に疑問があることが分かった」
「そうね。 良ければ一緒に調べてくれないかしら?」
「もしかしたら、あんたも――」
「そうね。 でも、生贄なんて許される事じゃないわ。 それに例え誰であろうと私の家族を殺させはしないわ。 会わせるだけよ」
「じゃあ、娘が誰か知ってるんだな」
「えぇ、その代わり私に協力して頂ければ……」
協力できれば、妹の奪還が早くなる。
ミランダの疑問も解決できるし、一石二鳥で断る理由はなかった。
不安はあるが承諾することにした。