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16話

「大丈夫、ケガはないか?」


「え、えぇ…… ありがとうございます」


「洗濯物、ごめんな」


「そ、そんな、助けていただいて」



茶色い毛にフワフワとした癖毛のメイドが落ちた洗濯物を拾う始めた。

よく見ると年下なのか身長がアタシより低い。

小犬のような印象だった。



「アタシも拾うの手伝う」


「そ、そんな、あなたにも仕事が」


「いいって、このくらいどうってことない」


「でも……」


「いいんだよ。 アタシだって悪かったんだ」



床に散らばった洗濯物を二人で拾い、籠に入れていく。

あっという間に山のような洗濯物でいっぱいになった。



「あ、あの、ありがとうございます」


「いいって。 アタシ、今日ここに来たばかりでさ。 よろしくな」


「そうだったんですか、わたしはカトゥラ・プエルっていいます」


「アタシはチェスカって言うんだ。 よろしくなカトゥラ」


「はい、チェスカさん」



彼女は純粋な子犬のように屈託のない笑顔でアタシの名前を呼んだ。

もう少し話したいが、互いに仕事がある為、別れる事にする。

休憩時間に合えたら一緒に食事をしようと約束した。



「遅かったわね」


「ごめんなさい、ちょっと人とぶつかって」


「愚図の言い訳はいいので次の仕事をしてください」



初日からなんとも痛いが、遅れたことは事実として受け止めよう。

だが問題は、他のメイド達がアタシを見て、ヒソヒソと笑っているのが気に食わなかった。

メイド長に箒を渡され、アタシはさっさと庭に出て掃除をすることに。

庭の石畳の落ち葉を掃除するが、掃いても掃いてもきりが無く、気が付くと夕方に差し掛かっていた。



「一人でやるのも飽きてきたな……」



少しさぼってもバレないだろうと周りを確認して、メイド長がいない事を確認。

木陰でタバコでもと、箱から1本取り出し、口にくわえる。



「あら、貴女は……」


「う、うわ!? こ、これは」


「何をしておられるの?」



慌てて振り向くとそこには、ギャロンさんの娘のミランダがそこにいた。

タバコをポケットに隠すが、見られてたらまずい。

初日にサボりがばれるなんて失態はごめん被るので、何とかごまかすことにした。



「あ、あぁ久しぶりと言うかなんと言うか」


「ここで何をされているのかしら?」


「そ、掃除を……」


「そうじゃなくて、なんで貴女がここで働いているのか聞いているのです」


「お金が必要だからに決まってるじゃん。 だから、募集の掲示板を見てきたんだ」


「そう……」



とりあえずはタバコとサボりの未遂はバレていないようだと一安心し、ほっと胸をなでおろす。

後は適当に理由を付けてこの場を立ち去るに限る。



「じゃ、じゃあ、アタシは仕事があるから」


「まって! 少し、お話しでもしませんこと」


「いやぁ、メイド長が怖いし、初日でサボりなんて洒落にならないから」


「さっき、サボろうとしているところ見ていましたけど」



どうやらバレてるみたいなのは確かなようだ。

こうなっては、メイド長にチクられる前に言う事を聞いた方が得策だと考え、従うことにした。



「あぁーもう! わかった。 降参、話でも何でも聞いてやるから」


「メイドが立場を弁えなさい」


「はいはい、わかりました。 お嬢様」


「はいが多いけど、いい心掛けね」



しかし、これはチャンスだ。

ここの内部事情を知る為にも、この家の中心人物に接触する必要があったが、思わぬところで収穫を得た。

これを逃す手はない。

アタシは彼女に付いて行き、部屋に向かう。





「お嬢様、お帰りなさいませ」


「えぇ、ただいま。 少しこのメイドを借りるわよ」


「それは良いのですが一体なぜですか?」


「庭でサボろうとしていたから言って聞かせるだけよ」


(あのクソお嬢様がぁぁぁぁぁ)


「しかし、メイドの指導はわたしが――」


「サボってたのは冗談よ。 真面目に仕事をしていたわ、そうでしょ」


「は、はい。 まじめにしていました。 これほんと……」


「それと、部屋に飲み物とお菓子をくれるかしら?」


「貴女は何を飲むのかしら?」


「こ、コーヒーをブラックで……」


メイド長の目がギラリと光るのが見えた気がする。

アタシは極力見ないようにしてミランダに付いて行く。

ジョークにしてはあまりにも辛かった。

今更、サボるんじゃなかったと後悔する。



「さぁ、入りなさい」


「は、はい」



部屋は広く、隅々まで掃除が行き届いている。

部屋の家具には彫刻、大きなベッド、ふかふかの布団。

アタシが使っていた物とは比べ物にならないくらい、いいものが揃っていた。



「お嬢様、お持ちしました」



さっき、アタシの事をヒソヒソ話していたメイドがテーブルに菓子と飲み物を置いて出ていく。

テーブルに座り(毒なんて入ってないよな……)とアタシはカップと中身の

コーヒーをまじまじと見る。



「安心しなさい、何かあったら助けてあげるわ」


「あ、あぁ頂きます……」



恐る恐る口を付ける。

コーヒーの香りや苦みを楽しむと少し落ち着くことが出来たが、なんでアタシがここに呼ばれたのかさっぱりわからない事には、どうも緊張する。



「で、アタシに何か用なのか?」


「メイドの口調をもう少し学ばれるべきですわね。 まぁいいわ……」


「ところで、さっき隠したのは何かしら?」


「いつから見てたんだよ」


「そうね。 木陰に向かう途中からかしら? 何をしようとしてらしたの」


「まぁ、息抜きみたいなもんだよ」



アタシはポケットに入れていたタバコを見せる。

手に取り、匂いを嗅ぐとタバコと理解したらしく、どこで手に入れたかを聞かれたので秘密とだけ答えておいた。



「吸いたい?」


「べ、別に今は特に……」


「吸ってもいいわよ。 お父様の匂いで慣れてるから、それに匂いくらい風の魔法で何とかなるわ」


「灰を捨てるところはどうすればいいんだ?」


「全く、世話の焼けるメイドね。 机の3番目の引き出しの中に小瓶が入っているから使いなさい」


アタシは言われた通りに3番目の引き出しを開ける。

引き出しの中は綺麗に整頓されており、その中に綺麗な模様が描かれた青色の小瓶が入っていた。



「これか? なんか、高そうな――」


「別にいいわよ。 そんな小瓶、学校で手紙と一緒に勝手に入れられてたんだから」


「ラブレターか何かか?」


「メイドが生意気」


「へ~い」



気のない返事に呆れながら、彼女が風の魔法を収束させ渦を上に発生させる。

これで煙と匂いが吸い込まれると言うわけだ。

感心しつつ、アタシはタバコに火をつけた。

煙は頭上の渦に吸いこまれ、雲の渦の様になる。





「貴女、いつから魔法が使えるようになったのかしら?」


(しまった!?)


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― 新着の感想 ―
Xの企画から参りました。第16話まで拝読しました。 描写の端々からマカロニウェスタンの香りが漂ってきて、とても楽しく読めました。個人的に魔法の存在するファンタジーとガンスリンガーの取り合わせは好きで…
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