15話
村の明主だけあってそこには大きな屋敷が立っていた。
経緯はどうであれ、アタシがメイドなんて務まるかと考えながら歩いていても仕方なかった。
「ここかぁ……」
村長の家の大きな門をくぐり中に入り、屋敷の扉をたたく。
「何の用でしょうか?」と疑いの目を向けられつつ、メイドが用件を聞いてきたので募集の事を話すと「少しお待ちください」と言われ、待っていると扉が開き、そこにはキリっとした目つきの鋭いメイドがアタシの目の前に現れた。そのメイドに連れられ、屋敷の中に入ることが出来た。
「ここが旦那様の書斎です」
「あ、はい」
扉を開けるとそこは、大量の書物と書類が散乱する部屋だった。
大きな机に座って書類を書いている太った男が居る。
アタシに気づくと口ひげを触りながら、驚いた顔をしていたので、改めて用件を伝えると快く採用された。
「君にはすまないことをしたからね。 せめてもの罪滅ぼしと思ってほしい」
「いえ、アタシは……」
正直なところ、怒りがこみあげてくるが、何とか我慢する事が出来た。
ここで魔法を使って脅すことも出来るけど、それをしたら、たとえ妹を助けることが出来ても今後の生活が成り立たなくなる。
「いつから来れるかな?」
「い、今からでも行けます」
「ご両親には……」
「大丈夫です」
「まぁ私から伝えておくよ。 しっかり働きなさい、チェスカちゃん」
「はい!」
あっさりと採用されたことに安堵するのもつかの間、そのままメイド長に連れられて仕事の内容と休憩所の場所を教えられ、メイド服を渡された。
スタンダートな黒いワンピースに、大きなヒラヒラが付いた服だ。
メイド服なんて初めてだし、第一、ヒラヒラとしたスカートなんて履いたことが無い。
いつもは飾り気のない地味なスカートで、本当はズボンを履きたかったが、父親が『お転婆なんだから、せめて服装ぐらいは女の子らしくしなさい』と言われて履くくらいだった。
「着替えは終わったの?」
「は、はい!」
着替えた後、アタシはさっそく仕事にとりかかる事となる。
きっちりとした、無駄なシワの無いパリッとした綺麗な服。
その姿からして、規律を重んじるタイプだろうか?
メイド長のキリッとした目が、アタシを鋭く見ている。
緊張しているのか、心臓の鼓動が少しだけ早くなり、落ち着かない。
「さて…… 貴女、魔法が使えないらしいわね」
「え、えぇまぁ」
「旦那様の慈悲のようだけど、私には関係ないからそのつもりで」
「は、はい!」
さっそく先制パンチを喰らわされたが、気にしない。
ここでの情報収集が今後の為。
(我慢、我慢)と心に言い聞かせ、笑顔で接する。
「早速だけど、倉庫の食材をリスト通り、厨房に運んでちょうだい」
「はい!」
勢いで言ったのはいいものの、その紙には膨大な量の肉と野菜がリストアップされていた。
リスト通りに食材を木箱に入れ、2箱抱えると確かに重いが、日々のトレーニングから考えればなんて事は無かった。
これなら2往復ぐらいで何とかなるだろう。
倉庫から厨房に向かう途中、大きな洗濯物の籠を抱えてヨタヨタとメイドが歩いてくる。
アタシはぶつからない様に避けたが、相手のメイドがふらつき、肩がぶつかった。
「きゃあぁ!」
「危ない!」
木箱を片手で持ち、メイドの手を掴み、引き寄せる。
服や下着が散乱し、洗濯物は床に落ちる結果となったが、相手が転ぶ事はなかった。