14話
次の日の朝、継母は一応、まだアタシには優しかった。
朝食も固いパンから柔らかいパンにスープも温かいまま出された。
横で父親と食事をするのも何年ぶりだろうか。
いつもは日が昇る前にはトレーニングと薪割りをしてたから、朝に一緒に食事をすることはなかった。
今は慣れないがこれからはきっと良くなっていく。
そう信じて手がかりを探し、絶対に妹をアタシは絶対に救う。
その為にもすぐさま行動を開始しよう。
「あ、ありがとう、ごちそう様」
「いいのよ。 今日もお出かけかしら?」
「今日は薪割りしてくる」
「もう身体は大丈夫なのか?」
「うん、いつまでも休んでられないし」
「チェスカちゃん、気を付けてね」
「はーい、行ってきます」
家を出たアタシは修練場に向かう事にした。
修練場に到着し、薪割をしようと斧を探すも見当たらず。
禁忌の森に置き忘れたことに気が付いた時には大きなため息が出た。
「へそくりが残ってたかなぁ」
薪割り用の斧なら50Jで手に入るはずと全財産を握り、情報収集を兼ねてアタシは村に出向くことにした。
村に着くといつもと変わらない、店の活気に無事に帰って来れたと安堵感を覚える。アタシは情報収集の為に村の掲示板を見ると一つの張り紙に目が奪われた。
『屋敷のメイド募集!』
どうやら、欠員が出たことによるメイドの募集だろう。
アタシにもようやく運が巡ってきたのか、これに乗らない手はなかった。
カギとなる村長の家に直接行って、さらに怪しまれることなく情報をゲットすることが出来る。
定員が埋まる前に行く必要がある為、アタシは急いでギャロンさんの家に向う為に振り向くとドンッと音と共に何かにぶつかった。
「いってぇ~」
「そこで何してんだよ」
上を見るとグェルが仁王立ちしてアタシを見ていた。
不味い予感がしてゆっくりと後ろに下がるがゴンッと頭に衝撃が走り、後襟を掴まれ、引きずられていく。
アタシは工房に連れていかれ、椅子に座らされる。
飲み物を聞かれたのでコーヒーのブラックを頼む。
「珍しいな」と言われ、「そんな気分なんだよ」と答える。
「女心とは嗜好も変わるのか?」と余計なことを言ってきたので黙っていた。
グエルが2つ分のコーヒーを持ってくると一つを受け取り、口を付ける。
香りに少し癒され、落ち着いた。
「女を殴るなんてサイテーだ!」
「うるさい! どれだけ心配したか分かってるのか?」
「分かってる」
「お前は分かってない! 2日間もどこに行ってたんだよ」
「関係ないだろ」
禁忌の森に行っていたなんて言うわけにはいかなかった。
1度言ってしまったら、契約をしたことや依頼の事まで話してしまうのは分かっていた。
グエルは頭を掻きながら少し苛立ち「禁忌の森か?」と言われ、幼馴染の恐ろしさを味わう事になった。
「黙ってるって事はそうなんだな」
「アタシは――」
「一体何があったんだ? お前は気づいてないみたいだが長年の腐れ縁だ。 ある程度は分かるんだぞ」
「何がわかるって言うんだよ」
「まず、嗜好が変わった事、それとお前、タバコか何かの臭いがするぞ」
「ストーカーで変態だったんだな」
「ちげーよ! 種族的に匂いには敏感なんだよ。 それに俺の親父も吸ってるからだ」
「そういう事にしといてやるよ。 で、言いたいのはそれだけだったらアタシは忙しいからこの辺で――」
カップの中のコーヒーを飲み干し、席を立つと腕を掴まれる。
グエルの眼は真剣そのもので、茶化してこの場を乗り切る事は出来そうになかった。
グエルとアタシは椅子に座り直し、どう切り抜けるか考えていると沈黙が続き、
「ちょっと待ってろ」とグエルが作業場で円形の平たい糸の塊りが入った板を回しながら糸を選んで何かを縫い合わせていく。
「出来た。 ブロンディちょっと来い」
「何なんだよ」
「これを持って行け」
薄い服の様な物を渡された。
手に取ると少し重く胸や腹部に何枚か薄い鉄板が仕込まれていた。
「何だよこれ」
「お前がどこに行ったか言わねぇならそれでもいい。 だけどいつかはちゃんと答えろよな。 何考えてるか分かんねぇけどそれがあればちょっとはマシだろ」
「ありがとう」
アタシは工房を出て屋敷に向かう。
危険を冒してでも情報を探し、依頼をこなして自分の幸せを取り戻す。
それが今一番のやるべきことだから……