11話
さっきまでの恐怖が一瞬にして怒りに変わり、同時に魔力がアタシの怒りに鼓動する。
さっきの様に右手に神経を集中するとスキル魔法が発動し、銃を構える。
目の前に槍の様な尖った根を突き付けられているが構わない。
一矢報いるなら、死んだって――。
「それでどうするつもり? ただの戯れよ」
「証拠がない!」
「強情な人間ね。 早死にするわよ」
「構うもんか、アイツのドタマに風穴開けてやる!」
奴がアタシを刺すのが早いか、撃つのが早いか。
恐らく、相手の方が有利なのは明白だ。
でも一矢報いられるなら悔いは無い。
妹が居ない世界に未練はないから。
あのクソ野郎の眉間に一発ぶち込んでやる。
「そこまで、チェスカは魔法を解除しなさい! マティカも質の悪いジョークよ」
「ジョーク!?」
悪魔が止めに入り、落ち着いて話をするように言われた。
魔法を解除し、相手も矛を収める。
鏡がないから分からないがアタシは相当、不機嫌な顔をしていると思う。
悪魔がアタシに近づき、怒りに満ちた表情で「弾も無いのに何をしてる」と頭をはたかれる。
その姿を見てさっきまで殺そうとしていたモンスターがケラケラと笑った。
「本当に子供よねぇ」
「クソくらえ」
「で、解放の条件はなにかしら?」
「あなたに人探しをしてもらいたいわ」
「人探し?」
「そう、見つけてほしいのは、私の娘」
突然言われた条件にアタシは驚きを隠せなかった。
あのモンスターに娘がいるという事実に……。
「どうなの? 私は気が短いから早く答えを出してね」
「娘って言われても、心当たりが無い」
「それならヒントをやろう。 この村の村長がすべてを知っている」
「村長って、ギャロンさんの事か?」
「さぁ? それは調べる事ね」
あまりにも情報が少ないが、妹を助ける為には依頼をこなさなければならない。
せっかく手に入れたチャンスを無駄にするわけにはいかなかった。
多少の無茶は承知の上、貧弱な装備で乗り込んだ時から覚悟はできていたはずだ。
アタシは自分にそう聞かせた。
「わかった。 その依頼を受ける事にする」
「期限は満月の夜まで。 いい返事を待ってるわ」
マティカと呼ばれた彼女はそう言い。幹が蔓へと変わり地面に消えていった。
この大きなチャンスに一抹の不安を感じながらも、アタシは立ち尽くす。
「交渉は終わったみたいね」
退屈だったのか、タバコを吹かしながら悪魔が気怠そうに言った。
あの悪魔には聞きたいことが沢山ある。
考えることは山ほどあるが、先に自分の魔法について、教えを乞う必要があった。
「あのさ、あんたに聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
「あの弾丸はどうやって作ったんだ?」
「さっきも言ったけど、自分で考えなさい。 その頭は何の為に付いているのかしら?」
「わかるわけないじゃん」
「まぁいいわ。 ヒントはあなたの魔法の中にあるってことね」
「どぉ言う事だよ」
「そのままの意味よ。 これ以上情報が欲しければ貢物をよこしなさい」
何も無い今のアタシには、これ以上の情報を引き出すことは出来なかったけど、方針は決まった。
依頼の完遂、自身のスキル魔法の鍛錬。
これが当面の目標。
「目標が決まったみたいね」
「前向きなのがアタシの取り得だからな」
「若いっていいわね」
悪魔だから、寿命が長いのは確かだけど、その容姿で言ってもなんの説得力もないことに少し笑ってしまった。
不思議そうにした顔をしているが絶対に話すもんか。
これはアタシだけの秘密だ。
「何か失礼なことを考えている事はわかったわ」
「べ、別に何でもねぇよ」
「どうかしら…… いいわ、私も忙しいからそろそろ帰る事にするわ」
悪魔がそう言うと、黒い霧となって消えようとしていた。
恐らく転移魔法の一つだろうか?
「あ、あのさ…… ありがとな」
「お礼を言われる筋合いは無いけど」
「それでもさ、アタシなんかと取引してくれたじゃん」
「変わった娘ね。 対価の方が遥かに大きいのに」
「……それでもさ」
「それと一つ警告しとくわ」
「なんだよ」
「むやみにスキル魔法は使わない事ね。 昨日まで魔法が使えなかったのに、いきなり使えたとなったら、余計なことに巻き込まれかねないわ。 特に貴女の継母には知られないようしなさい」
「あ、あぁわかったよ。 知られたら不味いんだな?」
「貴女のそう言う素直なとこは好きよ。 だから忠告はしてあげる」
出会ってからそんなに時間も経ってないのに、いきなりこんなことを言う辺りは本の通り、人を惑わす天才と感じるが、実際に言われると少しうれしかった。
悪魔は微笑みを残して消え、あたし一人が残される。
ふと考えた。
「帰り道がわからない?!」
今更どうする事も出来ない。
ここまで無我夢中で来て、『帰り道がわかりません』なんてシャレにならなかった。
もしかしてあの悪魔の笑みって、この事だったのではと考える。
「あのクソ悪魔! 次に会ったら憶えとけよなぁー!」
悪魔はやっぱり悪魔だ。
大っ嫌い!!




