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エピローグ「Gunshot Requiem」

その夜、アタシが目を覚ますと隣から軽い寝息も聞こえない事に気が付く。暗い部屋には月明かりが僅かに差し込んでおり、隣で寝ているはずのアルエットがいなかった。


(アルエットの奴、散歩か?)分厚い掛布を跳ね除けて素足で床を踏む。

外から羽ばたく音が聞こえ、窓を覗くとアルエットが店に誰かを連れて来ていた。

(あれってあの時の女オークか。何の用なんだ?)音を立てない様にそっとグラウの部屋の扉の隙間からランプの光が漏れる。そっと近づき、聞き耳を立てる。


「あんたの事は噂では聞いている。女オークの中でも異端児らしいとは聞いていたが――」


「そう、御託はいいわ。何のようかしら?明日は早朝に出発する予定なんだけど」


「あぁ、俺の弟子を連れて行って欲しい。荒削りだが成長すれば面白い冒険者になる。それに••••••あいつは優しい奴だ。そして、こんな飲み屋で腐らしていい才能じゃない」


「そのつもりよ。でも彼女(ブロンディ))、は来るかしら?」


「無理やりでも行かせるさ」


「あ、あの!」


「何かしら?ハーピィーのお嬢さん」


「あなたが所属するギルドの事は良く知っています。そのうえで私からもお願いします。ブロンディはガサツで口も悪いし、弱いけど。すっごく優しくて人の為に戦える子です。私はメル達家族が殺された時、正直、関わる気はなかった。こんな事、日常茶飯事だし、ヴェント・ヴォラールが関わっていたなら尚更。でも、ブロンディは止まる事は無かった。きっとあなたのギルドでも力になってくれると思う」


「そうね。彼女の判断を期待するわ。」


しばらくして女オークが店を出た後、アタシは一人考えていた。


アタシはグラウには感謝している。出会いは最悪だったけど闘う術を教えてくれた。酒場での出会いや生活が楽しかった。でも、そんな日常も簡単に崩れてしまう。

メルさんの様な境遇の人達がこの世界には大勢いるという事だ。アタシは店を出る直前に手紙と店の備品を壊した弁償のお金を残しそっと家を出る。


アタシはミラさん達が眠る墓標へと向かう。

夜明けまだ時間があり、ミラさん、レミル、ダナンさんが眠る。墓標の前でタバコに火をつけ、煙を吐く。朝霧が墓石を濡らし、冷たい風が頬を撫でる。


(メルさん、レミル、ダナンさん。一応の決着は着いた。でもあんた達の事は忘れない。だからアタシはもっと強くなる)と墓標で眠る彼らに優しくこれまでの事を語りかける。

カカナがレミルを「穢れた血」と呼び、娼婦か産んだ風の勇者(ビエント)の娘だからと殺した。ビエントの隠し子だったレミルや殺されたミラさん、ダナンさんの真相なんて誰も気にしない。世間は風の勇者の不祥事やエッセンスの事で事件の事なんか見て見ぬふりだ。

手に握られた風の勇者の証(飼い犬の首輪)を見つめながら(こんな証でアタシは縛られ無い。アタシの事はアタシが決める。てめぇらの飼い犬にはならねぇ)


アタシは風の勇者の証を空高く投げ、魔法を発動させて弾丸を撃ちこむ。弾丸が風の勇者の証に向かって飛んでいく。6発の弾丸は外れる事無く命中。金属音が空に響く。それはまるで鎮魂の鐘の音のようだ。(アタシは戦う。あんたたちの悲しみを背負って……)と祈りと決意を込めて左手から出された弾丸を空中で再装填リロードさらに6発の弾丸が撃ち込まれ、バキンッと証が割れ、証に埋め込まれた風の魔石を粉々に砕く。

朝焼けに照らされ、魔石の破片がキラキラと輝き、墓標な降り注ぐ。メルさんがアタシを優しく抱きしめてくれた事、レミルのわんぱくな笑顔、ダナンさんが2人を見守る優しい顔。その全てが奪われ穢された事実。


(メルさん、レミル、ダナンさん……アタシは進むよ。だから見ていてほしい)

アタシは戦う。メルさん、レミル、ダナンさんの悲しみを背負って、闘う事を決意する。


アタシは待ち合わせの場所の風のギルドへ向かう。石畳に朝露が光り、濡れたブーツがカツンと鳴る。遠くで馬のいななき、霧が薄く漂う。タバコを小瓶にしまい、ポケットに突っ込む。

馬車に乗り込むと既に2人の先客がいた。1人は鎧を着たエルフのディアナ・アマゾナ。

向かいの席には女オークが座る。暗緑色の皮膚、黒髪のロングが背中で揺れ、眼鏡の銀フレーム、金色の結膜と黒い瞳孔がアタシを見つめる。薄紫の口紅から小さな牙が覗き、豚耳が微かに動く。まるで知性と野性が混在するような彼女を見て少し戸惑う。

厚手の革ベストに麻のシャツに広いベルトにはナイフとポーチ、腕には銀色の腕輪。丈夫な灰色のパンツの裾に刺繍。革ブーツ。授与式の時とは違う服装はまるで一人の戦士に見えた。


「その服装、ドレスを来てるよりかアンタにぴったりだ」


「褒めても何も出なわよ。でも、礼は言っておくわね。ありがとう。私の名前はガラハ・ダンヴァー」アタシは差し出された手を握り握手を交わす見た目はごついが心地よく柔らかい触感がアタシの手を優しく包み込む。


「アタシの名は…… ブロンディ・ザ・ヴァレット」


「ディア! わたしはディアナ・アマゾナ。あらためてよろしくね。ブロンディ!」とディアナに抱きつかれる様子を見て「まったく、ディアナ、少しは落ち着きなさい」と呆れるガラハ。


石畳の上を馬車は動き、目指すはこの二人が所属するギルドに向かう。

揺られながら左手を見ると口がニヤリと不気味に笑う。


これからどうなるかはアタシにも分からない。それでも弾丸の様に前に進む。



アタシの新たな冒険が始まった。

今回で一旦は完結します。

途中、更新が止まったこともありましたが無事に完結まで書き切ることができました。


読んでくれた方、コメントや感想を頂けた事も全て嬉しかったです。


ついでに続編は今書いていますのでよろしくお願いします。

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