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118話

「て、てめぇオークだったのか!?」とゲインが吠え、すぐに剣を構え、振りかぶる。


「驚いたかしら? そうよ。これが私の本当の姿」彼女の拳と剣がぶつかり、ガキンッと響く音とともに、オークの女が振り上げた一撃は、鋼をへし折るほどの威力に剣は折れ、廊下に破片が散らばる。



振るわれた拳は、鋼を砕くほどの威力に折れた剣を握ったままのゲインが、「な、なにぃ!?」呆然と目を見開いた。

次の瞬間、彼女の左足がゲインの後頭部を捉える。次にゲインの後ろに回り、両手でがっちり捕まえ、巨体が宙を舞い弧を描きながら床に叩きつけられた。ドスンという重い音と共に、床がひび割れ、ゲインは呻き声を漏らして動かなくなる。


衛兵たちがポカンと立ち尽くす。すげえなんて言葉じゃ足りねえ。女オークの動きは、でかい身体をものともしない軽やかさと、華麗さだった。

「ふぅ」彼女が大きく息を吐く。「ギルドマスターがこの程度だったとはね」

静寂に響く声は、冷静で皮肉っぽい。ゲインは身動きできず、衛兵に担がれて広間から消えた。女オークが振り向く。「新しいマスターが来るまで、共犯者を洗う。動くなら今よ。このギルドを徹底的に調べなさい」



「あとは共犯者か――」と呟く女オークが衛兵に指示を出している隙に、アタシは居場所の検討がついていたのでポンチョと帽子を持って見つからないように外へ出る。

この辺でカカナが最後に行く場所は娘蝶館こちょうかんと考え、向かう。


(ここだったよな)


娘蝶館に到着したアタシは恐る恐る中に入る。

(誰もいないのか?)廊下は薄暗く、甘ったるい香水と汗の臭いが鼻をつく。壁には淫靡な絵画が並び、胸にメルとレミルの笑顔がチクリと刺さる。

コンッと音がして音がした部屋を扉を開ける。


「な、何だよこれ••••••」と思わず袖で鼻と口を塞ぐ。


サビナや娼婦たちは虚ろな目で壁を見つめ、唇が震えてる。薬の効能なのは明らかだった。

床に落ちていた小瓶を見つけ拾い上げる。そこには「ヴァルプス・エッセンス」と書かれていた。

ガタンと音がして振り向くと、カカナが立っていた。アタシは銃を構える。


「あ、あんた何で生きてるんだい!?」


「残念だったな。アタシはしぶといんでね」アタシは弾を込め銃を彼女に向ける。

「別にアンタが違法の魔法薬で何をしていたかはしらねぇ。でもここできっちりと決着をつける必要がある」


「一体何なんだよ。 たかが娼婦を始末したぐらいで何騒いでんだい」


アタシは小瓶を握り潰しそうになる。メルさんとレミルの笑顔、ダナンさんの叫びが脳裏に焼き付いて、胸が熱い。このクズが全てを壊した。

「自覚はねぇのかよ!」魔法の発動と同時に弾丸を装填し、撃つが一瞬のうちに金属音と共に弾丸はカカナに当ることなく散らばる。「来たか。マザコン野郎!」


「ここでお前を殺せば――」ビエントがナイフを構える。


「そのババァを渡せ。世の中には2種類のバカがいる。母親を庇うお前と、アタシに刃向かうお前だ。メルさんにレミル、ダナンさんを殺した真実を知っても尚、母親を庇う気なのか?」」


「僕は母さんのためなら汚れ仕事もやる」



「逃げる事なんて出来ねぇぜ?」腹部の痛みを感じる。時間はかける事が出来ない。

今の自分のすべてを掛けるだけ。


最悪自分が死んだとしても――


ビエントは右手にダガーを握り、左手には風の流れを思わせる淡い光が揺らめいて、不敵な笑みを浮かべた。


拳銃奏者ガンスリンガー


「風のウインド・クロー母さん、逃げて!」と弾丸を弾かれた。


「ビエント、しくじるんじゃないよ!」と彼女が走り出し、出て行くのが見えた。


「チィッ! てめぇ、わかってんだろうな?」初撃は見事に弾かれた。「ならこいつならどうだ?」アタシは散弾を装填。たなの〜を発射する。奴はダガーを振り上げ、同時に左手を振ると、鋭い風の刃が飛んできた。アタシは身を翻し、地面を転がってかわす。風の刃は背後の壁を切り裂き、砂塵を巻き上げた。

「あっぶねぇな!」アタシは距離を詰め、ビエントの懐に飛び込み銃弾を撃つがその瞬間、ダガーで弾丸の軌道を逸らす。アタシは左ひじを素早くビエントの胸の中央の窪みに押し込む。ビエントが後ろに後退し、風の刃を放つ。



身体を捻り避けるがそれでも何度か切られ、痛みが走る。血が滲み服が赤く染まる。「生理の痛みに加えて、傷から血が滲むなんて笑えるほど最悪だな」思わず自分のしている事に笑いそうになる。



「風の勇者の僕と戦っていて笑うなんて余裕なのかい?」


「そぉだな、アタシの最近の出来事からするとそこそこ余裕だな」放たれた散弾の雨は避ける事も弾くことも難しく、ビエントの腕や足に着弾する。

「くそっ変な魔法ばっかり!」相手は腐っても風の勇者。アタシは確実に仕留める為にマグナム弾を装填する。


ビエントに狙いを定めた瞬間一瞬消えた。(奴は!?)背後から冷たい殺気を感じ、掴む。「な、なに!口!?」アタシの左手の口がナイフに噛み付き動きを一瞬止め、左脇から背後に銃を撃つ。ビエントはナイフを離し、アタシと距離を取る。

しかし、その脇は赤く染まり、苦悶の表情を浮かべている。鉄の鎧を付けているならまだしも、軽装で避けたとはいえ、マグナム弾を食らえば出血だけで済んでるのは間一髪で避けたからだろう。



「チッ!泣けるぜ」


「腕を上げたようだね。でも僕には仲間がいる。ヴェルマ、アンデ出番だよ!」


「クソッタレ、仲間がいたんだった!?」

壁を背にして相手の増援に備える。

しかし、何の反応も無く、「ヴェルマ、アンデどうして来ないんだ! 僕に加勢してあの女を殺せ!」と怒鳴る。

ゆっくりとした足音と共に現れる人物を警戒する。

「あら、また会ったわね、ブロンディ。ねぇ聞いてよ。この世にはさ、仲間を呼べば助けに来てくれる人と、呼んでも誰も来ない寂しい人っているよね。この彼、すっごく大声で叫んでたのに、誰も来なかったの! あれ、なんでかな~? あ、そうだ! ブロンディ、なんか彼の仲間、私に縛られて、少し可哀想かしら。ブロンディはどう思う?」と女性二人を抱え悪い顔(ギザ歯の暗黒スマイル)で現れたディアナが縛られた女性二人を抱えていた。」



「せっかくの戦いに水を差すのはいけないと思うわ。ブロンディ頑張ってね」


「おまえ、僕の仲間を――」


「ディアナ、危ない!」



ディアナの背後から風の斬撃が襲い掛かるが一瞬にしてかき消された。

そこには大きな半月型の小さなハサミが付いた腕の幻影がディアナをビエントの攻撃から守っている様に見えた。


「あなたの相手をするのは私じゃなくてブロンディよ。もし彼女を倒せたら相手になってあげるわ」


アタシが銃を撃ちビエントが後ろに下がる。当たればよかったがそう上手くはいかない。「てめぇ、アタシを無視する余裕があるんだな」



「ブロンディ、自信を持って。メルたちのためにも、撃ち抜きなさい」と二人を抱えて彼女が走り去る。なんにせよ助かったのは間違いなかった。



「クソッ!」パチンッと鳴らされた瞬間。突風がアタシを襲い服と身体を切り裂く。避けようと身体を低くして横に飛び、撃鉄を叩く。3発の銃弾が響き、相手の肩と足の肉を削る。

「厄介な魔法!」とビエントは膝をついた。アタシはすかさず、相手の懐に入り、顔面に蹴りを入れるが右足の痛みを感じ、よく見るとナイフが突き刺さっていた。痛みを堪えて、ナイフを抜き取り相手に投げるが避けられ、テーブルに刺さる。そのままビエントに掴みかかる。

「ウインドハンマー!」透明な何かがアタシの身体を吹き飛ばし、壁に打ち付けらえる。



「やってくれるじゃねーか」と口元を拭い。血が混じった唾液を吐き出す。

おそらく魔力の残りからあと数発と覚悟する。

「ウィンドスラッシュ」ビエントは素早い動きから、風の刃の斬撃が身体を切り付け、痛みに膝をつく。痛みに耐え、マグナム弾を素早く装填する。

ビエントがとどめを刺そうとアタシに向かってきた瞬間、銃口を向けると同時に撃鉄をおろし引き金を引く。

放たれた弾丸。ビエントは慌てて防御するが間に合わずに弾丸は風の防御を突き抜け

ナイフを砕き、身体に命中する。ビエントの身体は後方に飛ばされる。


「どうだ…… アタシの…… 一撃……生身でマグナム弾を受けたんだ。立ち上がる事なんて出来ねぇだろ?」アタシはよろめきながらビエントに近づき銃口を向ける。ビエントの死んではいなかったが左の肩には大きくえぐれた傷による出血で地面を赤く染めていた。



「このままてめぇをエサにしてあのババァをおびき寄せる」


「僕をエサにしても無駄だよ。だって僕がその事を一番…… 知ってる」どこか勝ち誇ったような顔をするビエント。アタシは逃げない様に足を撃つ。「うぐぅぅあぁぁ!?」声が響き血が流れ床に広がる。アタシはその足で傷口を踏みつけようとした時、「やめてぇ!」と叫び、何かがビエントに覆いかぶさすのが見えた。



それはカカナだった。彼女が覆いかぶさり、無言で息子を抱く姿に、アタシの腹が煮えくり返る。このクズが、身内だけは守るなんて、あまりにも身勝手で、母娘とダナンさんの命を奪った癖に自分の身内対しての行動に腹が立ち銃を向ける。



「あぁそうかい! 手間が省けた。死にたいならアタシが殺してやる。」撃鉄をおろし、トリガーに指を掛けた時、右腕を上に上げられ、弾丸が天井に放たれる。アタシは腕と身体を拘束され、その相手はさっき、ギルドでゲインを叩き潰した女のオークだった。



「てめぇには関係ねぇだろ。邪魔すんな。クソオーク!」


「関係はあるわ。こいつらの証言が必要なの。こんな所で殺されたら今までの苦労も水の泡。そうはさせないわ」



「放さねぇならどうなっても知らねぇぞ!」


「あら、じゃあ、躾けがなってない野良犬にはお仕置きが必要ね」


「あぁ!?」 拘束が説かれた瞬間、アタシの頭が彼女の腕に挟み込まれ、そのまま体が浮き、身体全体を地面に叩きつけられ、全身に痛みがはしる。女性オークがアタシを押さえつけ、囁く。「落ち着け、ブロンディ。証言が必要だ。」



「く、クソぉ」アタシは痛みで立つ事も出来ず、目の前が揺れ、視界が真っ暗になった。

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