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10話



「いい? 心を落ち着かせなさい」



思わず頭に『?』が浮かぶも、言われた通りに深呼吸をし、平常心を保つ。

瞳を閉じ、深呼吸を繰り返す。

魔石を触媒として、まだ名前の分からないスキル魔法を発動させる。

身体全体から、魔力の流れを感じた。

それは血液に乗って全身を巡り、さっきと同じようなピリピリとした感覚が全身を流れ、右手に集中していく。

その瞬間、見たことの無い記憶が現れた。

それは字を読むように、または絵画を見るように理解していく。

ビリビリと全身を魔力が駆け巡り、それは痛みへと変わる。



「あっ、んっ……」


「痛みは一瞬よ」



淡い光と共に魔力が右手を包み、ズキズキと痛みが増してきた。

右手を強く握られ、皮膚が張る様な痛み。

やがて皮膚は裂け、血がにじみ、光が収束した。



「さぁ、貴女の魔法よ」


「こ、これは!?」



アタシが手にしているというか、右手と一体となった。

まったく見たこともないそれは、全体が半透明のフックのような形。

大きさは30cmくらいだろうか。

筒状の先端には穴、中央には指を引っ掛ける様な輪っかがあり、その中に三日月の

様な物が付いていた。



「これ、何?」


「さぁ、何かしら? でも貴女の記憶にはあるはずよ」


「記憶!?」



言われてみれば、確かに知っているような気がする。

この見た事の無いような物を知っている感覚は、自分自身の事ではあるけど、気味が悪かった。



「チェスカ、貴女の魔法よ。 受け入れなさい」


「受け入れるって……。 魔法?! アタシの?!」


「そうよ……。 貴女が使える、貴女だけの魔法よ」



アタシだけの魔法……。

魔法が使えるようになっただけじゃない。

それをさらに飛び越え、自分だけの魔法を手に入れたのだ。

嬉しいどころではなかった。

妹を救う事だけじゃない、今まで小バカにしてきた奴ら、そして父親や継母をも見返すことが出来る。

そう考えると痛みも違和感も、決して悪くは思えなかった。



「喜ぶのはそのへんにしなさい。 チェスカ、貴女はその魔法が何なのか、知ってるわよね」


「えっ!?」



悪魔が近づき、アタシの瞳を覗き込んだ瞬間、頭の中に1冊の本のような物が浮かび、ページが開かれる。

これは『銃』と呼ばれる物だ。

引き金を引き弾丸を飛ばし、相手を殺傷する能力のある代物。

アタシの手にしているのは、それを魔法で再現したものと言うことが分かった。

それも相当に古いものらしい……。



「こんな物、見た事も聞いた事もない」


「そうね。 でも今ここに存在する」


「存在するって言われても、理解できない」


「さっきも言ったわ、理解じゃなくて受け入れる事」


「でも!」


「いいから身体を委ねなさい!」



悪魔はアタシの右腕を持ち、壁に向かってそれを構えさせる。

重さは感じない。

初めての魔法に戸惑うが、自然と心が落ち着き、トリガーに指を掛ける。

「それとこれね」と悪魔が言い、球体をボディに、まるで水にコインを入れる様にトプンッと入れた。

銃全体が軽く波打つ。



「準備は整ったわ」



どんな言葉を言ったところで、現実は今そこにある。

アタシは悪魔の言葉に従う。

適当な木に狙いをつけ、トリガーを引くと、大きな音と共に目の前の木に穴をあける。

記憶には銃を撃つと反動が来るとあったが、そこは魔法、反動はない。

しいて言うなら、発射の瞬間、銃が軽く震える程度だった。



「初めてにしてはなかなかやるじゃない」


「そ、そうかな?」



予想外の評価に少し戸惑いながら、思わず照れてしまう。

これでアタシにも妹を救うことが出来るのだと、なんだか自信が湧いてきた。



「ところで、次撃つにはどうしたらいいんだ?」


「そうね。 弾さえできればまた撃つことが出来るわ」


「じゃあ、その弾はどうやって?」


「そんなの自分で考えなさい、私は貴女の――」



悪魔の言葉が急に止まり、『来るわ』と言うと地面より、大きな木が生え、中から新緑の髪をした小柄な女性が姿を現した。

姿は人間に近いが、下半身が木に埋め込まれていると言うより、木から生えている感じだ。



「そこの者、私の住処で何をしている?」


「あ、アタシは――」



答えようとした瞬間、木の根っこに吹き飛ばされ、身体が壁に打ち付けられた。

右手の銃は消え、根っこに縛られる。

殺される恐怖はあるが、声が出ない。

せっかく魔法も手に入れたのに、何もしないまま殺される。

そう思うと悔しくて仕方がなかった。



「まぁ、待ちなさい。 この子は生け贄になった妹を探しに来たのよ」


「余所者の悪魔がって、あ、あなたは!!」


「しぃぃぃ~」



アタシの命がかかっているのに平然と話が進んでいる。

どうやら、あの悪魔は相当、地位が高い様だ。

あの木のモンスターがうろたえ、アタシを開放し、まともに話せる状態になっているのだから……。

人は、いや悪魔は見かけによらない。



「では、そなたは、数日前に生け贄に差し出された妹を救いに、ここまで来たのだな」


「は、はい」


「残念ね。 あの生贄はとても美味しかったわ」


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