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116話

「まったく、新しい身体にひで―事、しやがって。泣けるぜ」と悪態をつく。何事も楽にはいかない事に「これがアタシの運命なのか……」と小さく呟く。そして決意のこもった目を閉じた。心の中では、初めての詠唱が形作られ始めていた。それは、野良犬が荒野を走るイメージ。それはアタシがガンスリンガーとして歩むべき道を象徴するものだった。


 そう、血と硝煙に塗れたただの野良犬


(それがアタシ……)


 唇が動き、洞窟に静かに響く。「空を真赤な血の色に、染めて夕日が沈む時」アタシの言葉は、荒野の嵐に変わる様に力が渦を巻く。「荒野を流離う口笛に、死人の匂いをかぎつけた。片手が銃の迷い犬」


 深呼吸をし、最後の詠唱を力強く唱える。


拳銃奏者!(ガンスリンガー)

 

 その瞬間、周囲の空気が震え、右腕に光が収束しリボルバーを形作る。

 そこにはアタシの決意とその力が宿っていた。初めての詠唱は、自身の内なる力を呼び覚まし、真の意味で拳銃奏者(ガンスリンガー)としての道を歩むことを宣言するかのようだった。

 

「グォォォォォォ!?」相手は怯む事無く、棍棒が振り下ろす瞬間、少しだけ遅く視えた気がした。

「遅い!」撃ち出される弾丸はブレる事なく正確に棍棒が握られた手を撃ち抜く。

 指が吹き飛び、負傷した手はこん棒を手放す。アタシは拾ったナイフで切り付け、足に刺し、それを足で蹴り、ジャンプする。左手の口から吐き出された弾丸を直接銃に装填。スキル「鷹の眼」を発動。素早く眼球に打ち込むとトロールは叫び声をあげ、倒れる。アタシはそのまま膝をつくトロールに近づき、頭部に銃弾を浴びせる。弾丸は頭蓋骨を砕きトロールは動かなくなり、血が地面に広がる様子を見て絶命したと判断する。

 安堵と共にその場に座り込む。



 魔力の消費が激しく、呼吸を整える。タバコを吸って落ち着こうとしたが地響きと共に「チギャァァァァ」と唸り声にタバコを中断。声がする方を振り向くともう一匹のトロールが現れる。「泣けるぜ……」それもそのはずでさっきのトロールの番いなのか傷だらけの身体に片方しかない乳房がどれだけの存在かすぐに理解できた。「ここのボスってわけか……」 蓄積した疲労に逃げる事が出来ず、迫りくるトロールに魔導書の弾丸のページが追加される。「こんな時に!」アタシは一か八か新しい弾丸を作る為、弾倉に残った弾丸を左手に食べさせ、先のとがった大きな弾丸を生成する。今までのサイズとは違う弾丸を人差し指くらいの長さの弾頭を1発装填し、万が一を考え、銃を左手で支えて構える。

「いまだ!」爆裂する音と共に肩が強烈な力に引かれ、反動で身体は宙を浮き吹き飛ばされる。「ぐぎっ!」肩から激痛が走る。肩の関節が外れたようで上手く力が入らなかった。魔力もごっそりと持っていかれ、治癒が上手く働いていない。

 痛みを堪え、敵の方を見ると苦痛に歪み立ち上がる様子が見える。(泣けるぜ……)再装填しようにも肩は上がらない「痛みは……生きてる証!」アタシは自分に言い聞かせ立ち上がる。


 トロールは右手の半分が吹き飛んでいる。少し困惑している様子が見て取れるがすぐに戦闘態勢に移り向かってくる「痛みを感じてないのかよ!」と逃げようにも上手く走る事できない。

「しまった!?」大きな手がアタシを掴み持ち上げる。トロールがアタシを見つめる姿はこれからどう甚振ろうか考える子供の様に見えた。睨むトロールに「臭い息だな!」とアタシは顔面に唾を吐きかける。トロールが唸り声と共に怒り、アタシを握り潰そうと力が籠められた瞬間、これまでと思ったが、急に力が緩みアタシは下に落とされた。落下の振動で肩の負傷が痛む右腕を押さえる。



「見つけたわ。あなた、大丈夫かしら?」アタシはゆっくり、目を開ける。そこには、エルフの象徴である長い耳。ロングの髪は白く波打ち、純白の鎧の後ろ姿が見える。身長は高く、後ろ姿だけでも絵になる美しさだった。

「どうかしたの?」振り向くとその綺麗な金色の瞳に目を奪われそうになる。「だ、大丈夫、ちょっと右腕が痛いだけ」と言うと彼女はアタシの右腕を掴み触った後、衝撃と激痛が一点に集中する。「これで大丈夫よ。後は任せてここから逃げなさい」と彼女がにこやかに微笑み、小瓶を手渡される。アタシが疑問に思っていると「ギルドであなたを助けてほしいって頼まれたの。飲んだら動けるはずだから早く!」急かされ、急いで小瓶の液体を飲み干す。効果はすぐに現れ、腹部の痛みは軽減し、魔力も少し回復したように感じる。

 大型のトロールを守るように小型のトロールが群れを成す様子を見てアタシは彼女に加勢する事に決めた。

「冗談!今からあの野郎にブチかますとこだ」


「あなたすごく燃え上がってるのを感じるわ。いいわ、一緒に戦いましょう。ディア!」彼女は飛び上がり、トロールの足に切りかかる。アタシも合わせる様に弾丸を撃ちこんでいく。

驢踏爆(ドンキー・バースト)」ロバの幻影と共に彼女が足を地面に打ち付けると地面に衝撃波が走りトロール達が体勢を崩し、「鰐咬!(クラックスナップ)」と叫び、大型のトロールに飛び掛かる。剣の先から大きな顎を持つ魔物の幻影がトロールの身体に噛みつき頭部を左右に回転させる。噛み付かれた部分から血が滴り、叫び声をあげて痛みに苦しむ。「あなたも続いて!」と間髪入れずに攻撃促される。


「わかってるって!」アタシの左手の口から吐き出されたのはいつもより少し大きな弾丸を装填する。心で念じるのは今の自分なら大丈夫と言う事。(ここで終わらせる!)両手で構えて発射された弾丸は吸い込まれる様に頭部周辺とトロールの胸を貫通する。エルフの女性がとどめに首を切断する。他の小型のトロール達が逃げて行き、この戦いが終了した。


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