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114話

 いきなりな言葉に驚いていると「ごめんごめん、あたしとあんたの魂を融合するんだよ。そうしたら、あたしは完全に受肉する事ができるんだよね」と悪魔が得意げに話すがアタシはこの悪魔が一体何を言っているのか理解できなかった。



「なんでアタシなんだよ。って言うかアタシの意思が全然ないじゃねーか」アタシはポケットから煙草を取り出し、火をつけ煙を吸う。タバコの煙を見た影の眼が少し、嫌がったように見えた。


「あたしこの魔法、気に入ったんだよね。 だってほかに存在しないじゃん」とアタシの話を無視してケラケラ笑う。


「でもさ、たいして威力も無いし、大型のトロールですら――」影から腕が伸びムギュっと両頬を掴まれ、アタシを喋れなくすると「あんたさ、この技術は存在しないんだよ。 

 そんな技術を見せられたらほしくなると思わない?」と力説する影に「自分で開発すればいいじゃねーか」とアタシは手を払い言った。

 経緯はどうであれ自分の魔法を他者に渡して助かりたいとは思わなかった。

 それはこの魔法はアタシが自分の対価と引き換えに手に入れた魔法だったからだ。



 魂同士の融合。

 それはこの出来損ないの悪魔が完全な姿になる方法。

 この悪魔によると、魔族とは違い、彼らは精神体であり、適合する対象物に取り付き肉体を得る。多くは強力な魔物となっているが自分には偶然知性があったと話していた。

 確かによく考えると言葉を話していること自体が不思議だった。



「私の意思は消えないのか?」とアタシは自分の意思が消滅しないか冷や汗をかきながら、恐怖と興奮が入り混じる声で尋ねた。

 すると悪魔はあっけらかんと「保証はできない。それこそが君自身を制約し続ける鎖。君は永遠に死ぬまでブロンディと名乗るチェスカ・キャラハンのままなんだよね」返答されアタシは深い迷いに沈む。



「でもさ、融合すれば君の魔力量は劇的に増大し、出力も管理でき、身体も強化される。君は、本当の意味で、新たな存在になることができる。前回の契約で妊娠できない身体になったから慎重になるのもしかたないよね」とアタシは悪魔の言葉を聞きながらタバコを吸うが味はしない。

 けどこれまでの事を思い出すと、どれもこれもクソッタレで最悪の人生だった。



「この世界には2種類の人がいる、避妊を信じて無防備に飛び込む人と、避妊の不確かさを知りつつ行動する賢者さ。君は後者のツケを払った賢者だ。で?今度は何を失うつもりなんだい?」



「じゃあその愚かな賢者から一つだけお願い。この際、意思はしょうがないとしてもアタシの記憶や思い出だけは忘れたくない」


「へぇ…… どうしてだい? クソッタレな思い出しかなかったんだろ?」


「そぉだな、確かにアタシのこれまでの人生なんてクソッタレな事ばかりさ。でも、アタシの人生はアタシの物でしかないんだ。意思は消えたとしてもこれだけは消させない」アタシは影に向けて啖呵を切った。

「ホントにバカな人間だよ――」その言葉を残して霧のような姿が全身が真っ黒な自身の姿になる。「アタシそっくりだな」と触れるとしっかりと感触や重みを感じる。

 アタシと違うのはその全身にたくさんの傷が付いている事だ。



「これを見て、この傷を見て君は何を思う?痛みの詩か?違うトラウマの数々だよ」と影が皮肉に問うが、その眼は何処か悲しそうに見えた。アタシはそっと影に手を伸ばし、傷のある場所を優しく撫でる。


 アタシの手を優しく握り「この世界には2種類の人しかいない。苦しみから逃れるためなら何でもする者と、それでも自分の道を選び続ける強い者だ。あなたは後者を選んだ。でもね、そんなに苦しみを抱え込んで何になるの? あたしと一つになれば、その痛みも、傷も、全部消せるのに……」と影のアタシが話す。


「仮に記憶をなくし、意思がなくなればアタシと言う存在自体がなくなり、貴女は欲しかったアタシの魔法を手に入れる。これじゃあ、フェアじゃない」アタシは煙を影の自分に吹きかける。


「でも、あたしはその勇気を尊敬けどお人よしすぎる。ただ……」


「ただなんだよ?」アタシの影はユラユラとまるで風が吹けば、かき消されそうなくらいに実体が揺れる。「記憶も何もかも忘れてその力、もっと好き勝手に楽しむ為に使ってほしいと思っている。だってそうでしょ?沢山、傷ついてあなたが得られたものって何なの?」影がアタシの顔を覗き込み、問い詰めるがアタシは上手く答える事が出来なかった。

 今まででいい事なんてほとんどなかった。これを機会にすべてを忘れてその力を存分に使って暴れるのもいいと思った。でも……



「アタシは野良犬だけど噛み付く相手ぐらいは自分で決める。誰でも噛み付くなんて狂犬じゃねぇか」アタシは自然と笑みがこぼれるが影は困惑していた。


「この世界には2種類のガンマンしかいない。常に自分を守る賢い者と、どんなに不運な手札でも他人を先に考えるお人好しで、あなたは後者ね。いつも貧乏くじを引いて、周りを助ける。でも、そんなに自分を犠牲にして、何を得るつもり? 少なくとも、幸運の女神はあなたのことを忘れているようね。だけど、そんなあなたの優しさが、どこかで誰かを救っていることを、あたしは知っている」とアタシの影が呆れたように言う。


「何だよ。アタシの事よくわかってんじゃねーか」とアタシはタバコを吸い、煙を吐き出しながら心の底から笑う。久しぶりに笑えた気がした。


「バカなんだから、当たり前じゃないだってずっと――」アタシはいきなり抱きつかれ、驚いたその瞬間、影はアタシの唇にゆっくりとかぶせ、影から柔らかな感触と甘美な息を感じさせながら、深く、貪欲にキスをした。そのキスは魂の交わりを思わせるように熱く、深淵を探求するかのように長く、証を刻み込む。「愛してる」と囁く声は、彼女の鼓動と同調する。そして影はそっとアタシの耳元で「我が名は――」と告げ――


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