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111話

それでも何とか打開しようと右肩を押さえる腕に噛み付く。

「グギャッ」という唸りと共に怯んだ隙をついて自由になった右手で相手の顔面に一撃。

続けてトロールの腹部を蹴り上げる。

腕力が無くても蹴るぐらいはまともなダメージぐらいは期待できた。

アタシは起き上がりながら魔法を発動させ、左腕でトロールの首を絞める。

トリガーを引きトロールの右の側頭部に穴をあけ、反対側から


「やめろこのぉ――」殴ろうとした右腕はトロールを当たることなく、力が抜けたように地面に倒れる。

目の前にある物がアタシの左腕と認識できた時には、流れ出る血の熱さと遅れてくる痛み。


「くぅぅかぁはっ」蹲るアタシの姿を見てか奴らはゲラゲラと笑うような声が聞こえる。

アタシの腕はすぐさま奴らが群がり、取り合うとやがて手に入れた一人がアタシの目の前に来て、それを貪り食う様を見せつけられる。


(あ、アタシの腕を食ってる……)その様子に対しての恐怖で何も声が出ない。

奴らの行為はあまりにも異質で、価値観の尺度がまるで違っていた。



「グゲゲゲゲェ」


「グギャギャ」


「な、何しやがる! は、放せよ! ひぃっ」奴らはアタシを押さえつけ傷口に舌を近づけ滴る血を嘗める。

蹴ろうとした右足も膝から上が切り落とされ、地面に落ちた足に群がり、奪い合う姿が見えたのを最後に後には何も残らない。

一瞬、あの盗賊の女が見えた。



(あ、の野郎ぉぉぉぉぉ)アタシを見ると何かを言っているかは分からなかったが歪んだように笑った顔が物語っていた。


「母さん、早く逃げよう!」風の勇者が母親を逃がす為に急かす。


「あぁわかってるわよ」その傍には風の勇者と共に一緒に去っていく姿を見る事しか出来なかった。

手を伸ばそうとも見送る事しか出来ず、


「アァァァァァアごhfdsfbsjづい」声にならない声が響く。

無力でしかなく、誰も助けには来ない。

おとぎ話の様に高ランクの冒険者や伝説のモンスターが助けに来ることは無い。

現実はそんな甘いものではなく、しくじればすぐに死に直結する事を甘く見ていた。

アタシは自分の行いを後悔しても今更遅い。

たかが人より少し違う魔法が使えるようになったからと言っても、所詮は低ランクの冒険者だった。

いや、冒険者だったのかもわからない


(敵討ち…… 出来なかったな)諦めが心を染め、従順になる事で、生き残れるのであればと思ってしまった。

トロールの子は産めずとも捌け口になる事で生きることを選ぶ。

それが出来るのは何処の世も変わらない。

昼夜問わずに相手の好きな様に使われ、そこに愛情なんてものは存在しない。

生きた道具としての役割を押し付けられるのではなく、そう選択するしかなかった。


アタシが諦めた事が分かったのか拘束が緩まり、一匹のトロールが目の前に立つと、わずかに巻かれた腰布を指さす。

服従の証として自らが捲り、奉仕しろという事なんだろう。

腰布に残った左手を伸ばす。

それをすれば少なくとも生きていられる。

生にすがる為に性に手を出すしか方法は無かった。





「グギャギャギャギャギャギャ」勝ち誇ったかのように笑い声が響きわたり、周りも同じように笑い始める様子にアタシはこれから起こりうるこ事に恐怖し、瞳を閉じる。



――ソレデイイノ?



――クヤシクナイノ? アナタノケツイハソンナモノ?と言う声が頭に響く。

辛い現実から逃れるための幻聴なのだろうかと思う事にする。今はそんなことをしている場合ではない。

残りの薬を飲み切り、銃を構え、撃ちだされた弾丸は吸い込まれる様にトロールの頭部に命中する。トロールの臭い体液が身体にかかるが構わず頭部に続けて2発打ち込んだ。

「はぁっ…… はぁ……」と魔力を使った疲労は思った以上に身体の負担を感じさせるが逃げる為に床を這って進むとアタシは床の一部が脆くなっていく事に気づかずに声を出す暇も無く落ちることとなった。


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