109話
「驚いたな…… 女性の君がこれだけの数を倒すなんて」
「そんな事よりあんたも早く逃げろよな。 そんな丸腰で居られたら目のやり場に困る」
アタシは男に背を向け、タバコに火を着ける。
煙を吸い込む度に痛みを紛らわせることが出来た。
一気に吸い終わり、小瓶に吸殻を入れる。
口の中が煙の味で一杯になった頃には男も服を着替え逃げる準備を整えていた。
「君に借りが出来てしまったな。 無事に帰って来られたら一杯奢らせてくれないか?」
「あぁ、生きてここから帰れたらな」
男は出口に向かって走っていくのを尻目にタバコに火を着けアタシは奥に向かう。
襲われていた人達はトロールから解放され、さっきまでの自分の行動に泣き出す者や逃げ出す者、復讐に武器を取り反撃する者と様々だ。
アタシは気にすることなく進む。
そんな中で蹲る男を引っ張り上げ情報を聞き出すそうとするがよほどに恐ろしい目に遭ったのか手を払いのけ走り出しす。
「おいっ! 聞けって、ここに新しく女で、年増の盗賊来なかったか?」
アタシは逃げる男を捕まえ、事情を尋ねるが 「ひぃ、お俺は知らない、も、もう沢さ・・・ お、女! ひぃ お、お前、女か、ち、ちかよるなぁぁっぁぁぁぁぁ」
「チッ、待てよ! アタシは聞きたいことが――」
走り去る男は何かにぶつかり、見上げると盗賊の頭を連れ去った奴(大型のトロール)だった。
さっきまで相手をしていた小型とは違い、耐久力も違う。
(アタシが今の状態でどこまで出来るか……)
逃げる男は間もなく、その大きな手につかまれ 「な、何でこんな――」 ナイフの様歯に男の上半身は噛み千切られ、食べ終わると手に付いた果物の汁を意地汚く指を嘗めると次はとアタシを見定め、ニヤリと笑ったような気がした。
「グォォォォォン」
「次はアタシってわけか。 上等、後悔させてやる」
銃を構えトロールの胸へと散弾を三発打ち込む。
間違いなく散弾は撃ち込むが、まるで虫が刺されただけかの如く、びくともしない。
分厚い筋肉や脂肪によって弾の小さな散弾では致命傷となる事は無かった。
お返しとばかりに大きな棍棒が振り下ろされ、後ろに下がる。
地面は地響きと共に蜘蛛の巣状に砕け、当たった事を考えると背筋が寒くなる。
(泣けるぜ…… 当たったらミンチってわけか)
手早く、散弾から銃弾に変更する。
マグナム弾はトロールに当たり、一瞬動きが止まると、崩れ落ちた。
(今回はあの時よりもさらに強力な銃弾、倒せているはずだ)
その証拠にトロールの胸部から流れ出た血が地面を染める。
近づいて、倒したかを確認すると違和感が頭をよぎる。
確かにトロールに弾丸が撃ち込まれたけど、何かが変だ。
一応、弾丸を再装填しようとポケットに手を入れたその時、トロールの身体が動き、慌てて後ろに下がるが身体を掴まれる。
(し、しまった!?)
身体を掴まれ抵抗するがギリギリと締め付けられ、既に勝った気でいるのかアタシを見てニヤリと笑ったような顔の後、口が開かれる。
獣臭とは違う、腐敗した様な臭いと鋭い歯、滴り落ちる唾液。
些細な義憤が原因で力量を無視して、ここまでやった事を後悔していた。
あの時、トロールが食べている小さな足を見たから。
そもそも、メルさん達の敵を――
(ここで死にたくなんかない!)
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」