108話
薬のせいだったのかもしれない。
引き金は最初のころよりも軽く、引く度に命を刈り取っていく。
ちぎれ飛ぶ足、血液のアーチがアタシを更なる高みに連れて行く。
頭部には大穴が開き、血と中身が地面に広がる。
肩にあたった場所は腕が文字通り吹き飛ぶ様子は、どれもこれもその断面は切ると言うよりかは、肉をちぎり、骨を砕くと言った方がいいのかもしれない。
手に当たろうものならその手に持った棍棒ごと吹き飛ばし、五指だけでなく手そのものが肉の破片となって辺りに散らばる。
こんな小さな鉛と銅で出来た物が、これほどの威力を持っている事に身震いする。
人の形をした生物に対して、命を奪うごとに、自分の中の倫理観が音を立てて崩れていく。
(面白い) 強い者が弱い物に対して、一方的に嬲り殺す度にどす黒い何か。
それと共にある種の快楽が沸きあがってくる。
「ハァ…… ハァ……」 と大腿部の付け根には僅かながら湿り気に熱を帯びた吐息漏れる。
下腹部の痛みは相変わらずだが動けないほどではなかった。
薬が効いているうちに終わらせる為にアタシはさらに奥へと進んで行く。
「も、もうやめてくれ……」 懇願する男に容赦なく己の性欲を発散させ、後のアタシに気づくことは無く、銃口をトロールの後頭部に突き勃て、引き金を引く。
血で汚れた男の身体に放心状態の男を余所に、動かなくなったトロールを男の上から退かす。
「よっこいしょっと おら! しっかりしろよ」
顔中に頭の中身がこびり付いていた放心状態の男の頬を叩く。
3度目で目の焦点が此方へと向けられる。
「あ、ありがとう、まさか助けが来るなんて…… ぼ、僕は一体ここで何を――」
「知らねぇ方がいいって事もあるんだぜ?」
「ひ、ひぃ こ、こんな ヴぉえぇぇぇ」
吐しゃ物が地面に広がり、どうやら自分がされた事を理解したらしい。
気持ちは理解できるが今はそんな事を言っている場合ではない
「今のうち早く逃げろ、それともこのまま化け物と一緒に汚ねんねしとくか?」
「あ、危な――」
一瞬、左脇後ろからの発砲は見事に相手の頭部に命中し、血と中身が地面に散乱する。
両胸の膨らみからメスのトロールに間違いなかった。
一瞬の事だったが刺さるような気配を感じた事に変な違和感。
例えるなら(後ろが視えた様な……)
「少しは落ち着いたか?」
「た、助かった。 あ、ありがとう――」
「それよりもそこら辺の布でも巻いてくれない?」
「あ、あぁすまない。 僕としたことが――」
よく見ると裸のその肉体は引き締まり、さぞかし異性に好かれていた事は想像に難しくない。
幸か不幸かそれのおかげで生き残った。
「君も早く、逃げた方がいい。 女性なら尚更、サポート無しでは――」
「ご忠告どうも、でもね。 アタシにもやらなきゃいけない事だってあるんだ。 あんたを助けたのはそのついでだ。 何なら、今すぐ武器を持ってアタシに手を貸してくれるのか?」
「す、すまない。 今のこの状態じゃあ君の足手まといに――」
「じゃあ、他の捕まっている人達も一緒に連れてってくんない?」
「あぁ、それなら…… 君も無茶は――」
「チィッ!」 男の後ろに忍び寄るトロールの眉間に風穴が空く。
倒れた仲間に怯む事無く襲い掛かる奴らに弾丸をプレゼントする。
「アタシの弾丸。 間違いなく天に昇る気分だろ?」