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9話



「……おー……い。 生きて……るかしら?」



アタシは目を覚まし、目の前の金髪の悪魔を睨み付けるが『可愛いわね』と言う

一言で終わらされた。

いつの間にかベッドで寝かされていたらしく、端座位になり、思い出したように

下腹部をそっと触る。

あの、杭を引き抜くような感覚がまだ、ズキズキと痛みとして残っている。

アタシは子供を産むという鮮やかな未来は、悪魔との契約により幕を閉じ、力を得た。これがその代償の1つとなんとなく理解した。



「感傷かしら?」


「そうでもないと言えば嘘になる」


「そう…… それより、服を着たらどうかしら?」


「げぇっ!」



アタシは枕元に畳んである服を急いで着衣し、悪魔はクスクスと笑い『今更、思い出したの?』と馬鹿にした。



「変なことしてないよな」


「するわけないじゃない」


「信用ならない」


「まぁいいわ。 これでもどう?」



彼女はそう言うと、アタシに紙に包まれた細長い円柱状の物を渡された。

アタシはわけが分からず手に取る。

中に、乾燥した細かい葉っぱが詰まっており、薬かなにかと思い、紙を剥がす事にした。



「違う違う、それはタバコよ」


「たばこ!?」



タバコと言えば、パイプに入れて吸っているのを大将の家で見たことあるぐらいだ。

それに女性がタバコを吸うなんて娼婦か荒くれ物のイメージがあり、自分が吸うなんて考えられなかった。



「大丈夫よ。 痛み止めの薬草が入っているから吸っても問題ないわ。 もちろん嗜好品としても上等よ」



悪魔はアタシの口にタバコを咥えさせ、右手を掴み、人差し指を上にあげる。

急な事にドギマギし、彼女になされるがままだ。



「指先から燃える火を連想しなさい」



耳元で甘く、囁くそれは脳に直接、砂糖をぶちまけたような感覚が襲う。

同じ女性同士なのに、心臓がバクバクと鳴る。

限界まで鍛錬した時とは違う、別の何かを感じた。

手の柔らかさ、背中に当たる胸、身体全体から感じ、精神が混濁する。



「ボーっとしない! 初歩の魔法だけど気は抜かないで」


「は、はい!」



さっきの言葉で我に返り、集中した。

小さく燃える火をひたすら頭の中でイメージする。

魔力の流れがピリピリと全身から腕、指先へと伝わり、ろうそくの様な火が着く。

魔法が使える―― 小さな一歩だがアタシにしてみれば大きな一歩だ。

喜びが最高潮に達した時、それはまるでドラゴンのような炎が指先から燃え上がった。



「うぇ!?」


「驚いている場合!? 早く、コントロールしなさい」



慌てて、もう一度、小さな火をイメージすると火は小さくなった。

天井の木が少し焼け焦げただけで済んだのは幸いだった。

危うく、初めての魔法で焼け死ぬ―― なんて言う間抜けにならなくて、本当に良かったと安堵する。



「全く、これだから素人は! でも貴女の慌てふためく姿って」


「そんなに笑わなくってもいいじゃん」



アタシは彼女の笑う姿に怒りを感じ、彼女に向けろうそくの火を火炎に変えぶつけるがあっさりと魔法シールドに防がれた。



(クソくらえ!)



「あら、歯向かうなんて言い度胸ね」


彼女は笑いながら近づき、アタシの顎をそっと撫でる。


「タバコ、もったいないわよ」



アタシは口にタバコを咥えさせられ、思わず少し吸ってしまう。

口の中に煙と共に苦みが口の中いっぱいに広がる。

ゲホッゲホと煙を吐き出すが、吐き出された煙に目が入り、苦みと煙たい感じが口腔に残り、唾を吐いても治まることは無い。

こんなのを吸って美味しいと思う奴がいる事が、信じられなかった。



「まずいし、おいしくない……」



悪魔が『こうやって吸うのよ』とタバコ吸うと先が淡く小さく光り、煙が口から吐き出される。

信じられないとはいえ、少しの好奇心が、アタシがタバコを吸うという行為に拍車をかける。

アタシも真似をし、恐る恐るタバコをゆっくりと吸いこむ。

さっきと違い、少し慣れたのか苦みはあまり感じない。

煙がやがて身体に取り込まれ、口からゆっくりと吐き出される。

初めてのタバコを吸うという行為の罪悪感に酔うような感覚が心地よかった。



「気に入ってもらえたかしら?」


「悪くない」


「それ、あげるわ」



四角い緑の箱を投げ渡された。

受け取った箱には、よくわからない文字と、真ん中の赤い丸の中に羽が付いた頭の人間の絵が描かれている。

箱を開けるとさっきのタバコが入っていた。

悪魔の説明によると、460Jをこの箱に入れると新しいタバコが補充されるらしい。

吸う気はないが中身を売ればお金にはなるので貰っておくことにする。



「ところで、もう一ついいこと教えてあげるわ」


「なんなのさ、いい事って?」



正直、さっきの事もあって不安で仕方なかったが、気にはなるのでおとなしく聞くことにした。



「契約の影響で貴女にスキルが追加されたわ」



スキル―― ギルドや王宮の騎士などに所属している者や、採集、鑑定など特殊な職業を行う者なら必ず所持している能力。

父親もランクは低いが魔石鑑定士のスキルを所持している。



「そのスキルって何?」


「そうね…… この世界には馴染みがないわね」


「馴染みがない!?」


「そう、今まで見たこともないスキルよ。 近しいものはアーチャーかしら」



アーチャーなら、それはそれで存在するのになぜ、アタシのスキルは馴染みがないのか全く分からなかった。

それに、名前も分からないようなスキルに対して、嬉しさよりも戸惑ってしまう。



「う~ん…… じゃあ、一回発動してみようかしら?」



全く分からないが、アタシの魂を読んだこの悪魔は、何か知っている事は間違いない。

契約上嘘はないはずと思い、スキル魔法の発動をアタシは了承する。



「魔石が無いんだけど」



本来、魔法は魔石なしでもさっきの様に使えるが、魔石は魔法の出力の倍化や、魔法に足りない魔力の補助、制御として使われる。

一般的にはこの魔力補助が大きく占める。

魔石もランクがあり、高ランクは倍化と補填されている魔力の量が桁違いだ。

特にスキル魔法は、攻撃魔法なら最低でも2種類の魔法を必要とする。

その為、魔石の活用が必須となるのだ。



「そうだったわね。 これを使いなさい」



悪魔から小さな魔石を受け取る。

受け取った魔石の価値は分からないが、透きとおったその小さな深紅の石に、思わず目を奪われる。

まるで真っ赤な夕陽の空を凝縮した様な、こんな、とてもキレイな魔石は見たことが無かった。



「見とれてる場合じゃないわよ」



とアタシの右側に立ち、左肩に手をまわし、右腕をつかみ、ゆっくりと肩と平行になるまで上げる。

言葉とは裏腹に、やさしく手ほどきされる感覚が恥ずかしくなってくる。



「ボーっとしない!」


「わ、わかってるって」



開いた右手をグーにさせ、第2指と3指と親指を開かされた。

この時、2指3指をくっつけさせられ、これが何なのかはさっぱりわからないが、指示に従った。



「で、ここからどうするんだ?」


「せっかちはモテないわよ」



悪魔はニヤニヤしている。

アタシにとってはわからないが、おそらくこの人には楽しいことなんだろうか? 

段々と不安になってきた。


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