106話
「うわぁぁぁぁぁぁん」 安心したからか、アタシに抱きついて大粒の涙を流し、しがみ付く獣臭のする彼女を、邪険にすることは出来ないまま、落ち着くまで胸を貸す。
ひとしきり泣いた後、少しは落ち着いたようでポツポツと話し始めた。
ギルドを後にした彼らは森でモンスターの討伐を行っていた。
夜になり、野営の最中にトロールに襲われ、戦うも1匹2匹ではなく束で来た為に敗北。
2人の仲間が囮になって逃がしてくれたとの事だった。
「アタシよりランクが高いのになんでこんな事になってるんだよ」
「だってそれは! 戦闘はいつも仲間がやってくれて後方支援だけで戦闘はあまり…… それに学校は出たけど卒業してからは攻撃の魔法は――」
「大体事情は分かった。 でもアンタを助ける義務は無いし、自分の事で手一杯でそれどころじゃない」
「そんな、同じ女同士助け合いましょうよぉぉ」
手を握り、見つめる瞳に嘘くささを感じるがアタシはある条件を出した。
それはアタシがいましてほしい事で、背に腹は代えられなかった。
「はぁ…… 先に逃がしてやる。 そのかわりにお得意の回復魔法と痛み止めが欲しい」
「どうやって私を逃がして――」
「上から見てるって知ってるんだからなアルエットォォォォォ」
アタシが名前を呼ぶと、羽ばたく音と共に空中より舞い降りて来た。
その姿に彼女は驚きながら希望が見えたのか顔が明るくなっていた。
無事に帰路に着くことが出来ると確信できる材料があるのだから。
「何だ見てる事、知ってたの? 」
「ただの女の感だ。 で、アタシの条件を呑む? 呑んでくれたらこの娘が最速で送ってくれるけど」
「えぇ~ わたし聞いてないし、ケモノ臭くて羽に臭いが移るから――」
懐から銀貨を数枚握らせ、アルエットを納得させる事が出来き、彼女は喜んでアタシに回復魔法をかける。
傷はふさがり、心なしか身体が楽にはなったが下腹部の痛みは相合わらずだったが。
彼女は何かに気づいた様子でアタシに近づき、「下腹部、痛いんでしょ これあげるから飲んで」そっと耳元で囁くと、小瓶に入った液体を渡される。
「それを飲んだら少しは痛みが和らぐはずだから……」
アタシは受け取り、その薬を飲む。
甘い香りはするが味はやはり薬なので苦みが口いっぱいに広がり、洗い流そうと唾液が多く出る。
すぐにタバコを吸い苦みを紛らわした。
効果はすぐに表れ、下腹部の痛み、倦怠感など少しだけよくなった気がする。
「飲むのは初めて?」
「あぁ、こんなに苦いとは知らなかった。 毎回、飲んでるのか?」
「えぇ、まともに動けなくなって死ぬのは嫌だから……」
「ありがとう、助かった。 アルエット、その娘を頼んだ」
「ありがとう。 それとあなたの名前は?」
「ブロンディ!」
「ありがとう。ブロンディ、また会いましょうね」
アタシは飛び上がるアルエットを見送る。
ここからは又、孤独に戦う事となるけど薬のおかげで身体が少し楽になった事でアタシは走れるようになっていた。