105話
「世の中には2種類の奴がいる。 弾を撃つ奴と撃たれる奴だ」
発砲音と共に発射された弾丸は、粗末な鎧では防ぐことが出来ずに、盗賊共は着地する事無く、そのまま倒れた。
敵は地面を赤く汚す仲間の血に臆する事無く、アタシに襲い掛かる。
ナイフを右半身にかわし、蹴りにより転倒させ、胸部に弾丸を撃ちこむ。
発射された弾丸は塊から散弾され、広範囲に広がる事が改めて理解できた。
複数の穴と言うよりは近距離だとまるでえぐり取られた様な印象。
襲い掛かる敵に対して拳で、蹴りで、そして銃を撃ち沈めていく。
「あんたは一体何なんだ!? たかが娼婦を始末したぐらいで何騒いでるんだい。 あの売女は、誑かしたのさ、アタシの息子をね! 金を貰って男の欲望を処理してる奴に息子を渡さない。 あたしの成果をあんな売女に邪魔されたくなかった。 せっかく風の勇者になったんだ。 どこか金持ちに嫁いであたしは楽をしたかったんだ。 それくらい当然だろ? 今まで育ててきてやったんだ」
「だからレミルも殺したのか。 まだ子供だったんだぞ! 何の罪もない、子供の未来を奪いやがって!」
「罪? 生まれたこと自体が罪さ。 あんな穢れた女の血の子供がいるだけで虫唾が走る。 それに、最後に母親と一緒になれたんだ幸せだろ」
その言葉がどういう意味か考える間もなく、怒りに任せ、アタシの手から放たれた45口径の弾丸は女の身体を吹き飛ばす。
「ひぃひぃぃぃっ」 右大腿部を押さえるが出血が止まる事は無い。
アタシは髪の毛を掴み、2度、3度と平手で顔面を打つ。
「油断したな、アンタの息子(風の勇者)から聞いていた話より3倍は早かっただろ? てめぇらの様な派手なスキルや魔法はアタシにはねぇからって油断したツケだ」
「こ、こんなことしてただで済むと思うなよ。 アタシのバックには――」
「バックがどうだって言うんだよ?」 振り向いた時には遅く、目の前が歪み、アタシの身体が飛ばされ、腰に痛みが走る。
「や、やめろ、あたしに触るんじゃない! ウルフバイツ」 スキル魔法で切り付けるが分厚い皮膚は文字通り歯が立たず。
人形の様に掴まれたまま、まるで自分の所有物に喜ぶようにベトついた舌でマーキングするかのように嘗め回していた。
盗賊の頭もこうなってはなすすべも無く、やがて抵抗する気力も無くなり、トロールとどこかに連れていかれ、暗闇に消える。
「泣けるぜ。 この野郎、一体、誰が!?」 目の前に僅かな獣臭に古傷と大きな身体、醜い顔に特徴的な鼻、それは間違いなく。
「トロールか!」 瞬間、撃鉄を3度叩くが弾丸は発射されずに不発が続いた。
慌てて、弾数を確認するとしっかりと装填されている事が確認する。
(な、なんで)疑問に思う暇も無く、アタシを捕まえようとする手を避け、何とか逃げる途中に盗賊の手下を囮にする。
木の後ろにポンチョで身を隠し、やり過ごす。
叫び声と共に連れていかれる盗賊達の悲鳴が森に響き、捕まった後、どうなるか想像したくなかった。
辺りはトロールの臭いに包まれ、嘔気し、ここに来て、魔力を使いすぎた疲労から、身体の怠さを感じる。
(に、逃げなきゃ) 動くたびにキシキシと痛むのは身体だけではなく、腰を打ち付けたからか、下腹部も痛み出す。
しばらく歩くと獣臭も無くなり、一安心したところで疲労感がピークに達し、アタシはその場に倒れ込んだ。
タバコを吸おうと火を着け、2本目を吸う頃には僅かではあるが痛みが和らぎ、歩くくらいなら、身体を動かす事が出来た。
(メルさん達の敵…… 打てたかな) 結末はどうであれ、元凶は始末された。
でもそれは自分の手を汚すことなく、他の誰かの手によって行われたことに心に引っ掛かりを感じていた。
3本目に手を掛けた時、向こうから何かが走ってくる音がして、アタシは慌てて銃を構えるとそこにはボロボロに汚れた女性が息を切らしていた。
肩から大きく服は裂け、歯型が見えていた。
傷を負った彼女はあの時、受付で出会った時よりも泥に汚れ、必死に逃げて来た事と想像がついた。