99話
アルの口から語られたのはアタシが嗅ぎ回っている事に気が付いたゲインがアタシを始末するように依頼した事だった。
「で、アタシに無残にやられましたってことか」 あれだけ格下と見ていた相手にやられたことが、よっぽど悔しかったのか、目に涙を浮かべ睨み付ける様子は見ていて悪い気はしなかった。
「もう話しただろ、早く話せよ人間の癖に!」
「おーおー、言うねぇ」 髪の毛を掴みあげ、銃口を側頭部に押し付け撃鉄を引く。
逃げられない様にローブを踏みつけると足に固い物が当たり、髪の毛から手を放し、ポケットを調べると魔石を見つけた。
「てめぇ、隠してやがったのか」
「そ、それに触れるな!」 よく見ると普通の魔石とは違い、単色ではなく虹色に輝く珍しい物。
慌てる本人の様子から大事な魔石なのがわかり、アルを突き飛ばし、目の前でその魔石に銃を押し付ける。
「返してほしかったら、質問には全部答えろ。 単刀直入に聞く、ギルドは何を隠している?」
その様子を見せられ、荒い呼吸に涙ぐむアルは「答える、答えるから!」 慌て返答する。
話を聞き、アタシは驚きを隠せなかったがこれですべてが繋がった。
もう用は無いと立ち上がると「ぜ、全部話したんだからその石を返してよ」アルが縋り付き懇願する。
殺気を感じ上を見上げるとアタシに切りかかろうとするマリカが見え、避けた拍子に石を落とし、剣によって石が砕かれた。
「あ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“ぁ“ い、石がぁぁぁぁ」 悲鳴と絶望が混濁した様な声。
必死に石を集めるがその砕かれた石は徐々にその虹色の輝きが消え初め、錯乱したアルはその石を抱え、アタシを押し退け、走り去っていった。
「チッ回復薬か」 動けるが完璧には治癒していない様で動くたびに苦悶の表情が見える。
聞くことは聞いたし、さっさと帰りたかったが許してはくれないらしい。
「ギルドの事なんてどうでもいいし、興味は無い。 アンタらが手を出して来なきゃアタシは何もしない。 これ以上は――」
「依頼はまだ失敗していない。 あなたを消せばいいだけ……」
目は見開き、説得など無駄と分かり、構える。
突く剣を左に避け、右の拳を頬にダメ押しに左腕をつかみ関節とは反対方向に肘を使って一気に力を籠めると鈍い音と振動と共に悲鳴が聞こえ、膝を崩したところで治癒しかけの傷を足で踏みつける。
「まだ続けるか?」
「こ、殺せ――」
銃はマリカの頭を捉え、望み通り命を奪う事が出来た。
こいつはアタシを騙し、侮辱し、さらに今、命を狙ってきた相手で、ここで始末する事を考えた時、仮初でも仲間で居た時の事を思い出してしまった。
アタシはマリカの胸倉を掴み、左頬を殴り、気絶させてから、担いでギルドに到着すると床に下す。
ここに置いておけばいずれ意識が戻って勝手に治療するだろうと思いアタシはその場を離れる。
「これは一体どういうことですか?」 ギルドから出てきたセシールがアタシを睨みつける。
相手をするにも疲れ、早くその場を離れたかったので「アンタらの方が良く知ってるんじゃないのか?」 とだけ答えた。
苦虫をかみつぶしたような顔をするセシールを置いてその場を後にする。
セシールに睨まれながらも「一応、お礼は言うわね。 ありがとう」と言われ、すれ違いざまに紙きれを渡された。
「何だよこれ」 アタシに近づき小声で「見ればわかります」 と言われ、さっさとセシールはギルドに戻る。
ギルドを後にしてアルエットの家に帰ると「遅かったねぇ」 と出迎えてくれた。
「今日は疲れた」 とベッドに倒れ込むと睡魔に身を任せる。
(渡された紙は明日確認することにしよう……)