第7話:冒険者ギルドでのお約束魔王様
「やっぱり、冒険者になるんですね!」
「あんまり、やりたくは無いです」
ヨシュアと話してから3日。
ようやく準備も整ったので、冒険者ギルドに来ている。
冒険者になるために。
亮と未来で反応はそれぞれ、全く違う。
目を輝かせて、胸の前で両手を組んで片足を曲げてって……
いや、可愛いけどさ。
ちょっと、あざといというか?
可愛いとは思うけど、可愛いの種類もあれだ。
子供らしくて可愛い……けど、高校生なんだからもう少し落ち着いても。
流石に、その年齢でもそんなことをしてるなんてと思ったりしたり……しない。
歳の差1016歳ともなると、やっぱり可愛い。
高校1年生だから、見た目も本当に子供っぽい。
本人達は大人の仲間入りみたいな顔してるが、高校一年生なんて本当に中学生と変わらない。
成人した大人からすれば、本当に子供だからね?
これは歳を取らないと分からないよね?
だから、子供扱いされるとムッとするんだろうけど。
いつか分かる時が来るさ。
さてと、冒険者登録するにあたって。
取りあえず、右の受付に並ぶ。
今回は依頼者として来ている訳じゃないからな。
昨日にも増して、いやらしい視線が増えている。
これは楽しみだ。
いや、なんでもない。
今回、登録するのは亮と未来だけ。
ちなみに2人の職業が判明。
こっちの鑑定を見て、仕組みを理解。
脳がではなく、身体が。
勝手に理解してしまうのだ。
これが、天才肌ってやつか……ふっ。
ちなみに亮は賢者だった。
そして、未来が大魔導師。
あれっ?
勇者は?
うんうん……まさかねと思って自分を鑑定したら。
困惑。
勇者の適性があるんだけど?
困った……
なんで、勇者の適性が俺に。
そもそも、俺は魂も身体も再構築の手順を踏んでいない。
あれだろう。
たぶん神様の悪戯だろう。
天に向かって唾を吐きたい気分だ。
俺の力をもってすれば、大気圏を突破できるはず!
落ち着け。
そんなことしても、意味は無い。
深く息を吸い込む。
そして、ゆっくりと吐き出す。
うん、落ち着いた。
流石に子供達がいる目の前では、そんな下品なことはできない。
代わりに天に向かって呪いの波動を。
ちょっとすっきり。
神様に届いたらいいな。
あー、なんの話だっけ?
そうそう、子供達の職業適性が分かったけど。
亮はまだいい。
ただ、未来の方は……
爆裂魔法少女ミライ、華麗に惨状! とか言い出しそう。
うん、参上じゃなくて惨状。
ただ、職業欄には亮には剣士、未来には魔法使いと書かせておく。
本人にも、職業のことは話していない。
亮に関しては……まあ、強引に剣士にそだてあげるつもり。
前衛職が居ないのは、よろしくない。
賢者だから、色々とバッファー関連も捗るだろうし。
それで自身のステ上げをしまくって、あとは物理で。
いける!
確実に剣士いける。
さてと、書類審査は問題無さそう。
次は試験。
試験といっても、実地試験というか。
実技というか。
就職試験用のテスト依頼を達成するだけ。
簡単なもの。
スライムの核を取って来るとか。
初級ポーションの材料の薬草を取って来るとか。
迷子の猫を見つけるとか。
おばあちゃんの手紙を運ぶとか。
本当に簡単なのばっかり。
うん、きっと問題無くやってくれるはず。
そういえば、俺達の手続きが終わると同時にギルドから抜け出した連中が。
ずっとこっちをニヤニヤと見ていた4人組。
出がけもこっちをチラリと盗み見ていた。
気配探知と空間把握のお陰で、この建物内に居る人間共の行動なんか見なくても分かる。
怪しい行動をとっているのが、11人くらいいた。
そのうちの3人は本当に怪しかった。
正直出て行った4人よりも、よっぽど。
それでも2人はまだいい。
未来をチラチラと見ている程度だから。
だが、お前は駄目だ!
亮のお尻をジッと見つめる女性。
ちょっと見た目が綺麗だったから、亮に嫉妬してるとかってわけじゃない。
ただ、子供達の保護者としてそういった輩からは守ってやらないと。
未来を見ていた野郎2人には、未来を見れば見るほど
あれ?
よく見たら思ったほど……
あっ、そうでもないかも……
と評価が下がっていく呪いを掛けておく。
亮を見ていた女性には、年上に魅力を感じる呪いを……
亮のためだからな?
あわよくばなんて思ってないからな?
そして2人を引き連れて、外に出るが。
物凄く、イベント発生の予感がプンプンしてくる。
どうやって相手してやろう。
ギルドから出てすぐに、4人組の荒くれものに行き先を塞がれる。
知ってる。
さっきギルドで見た顔。
冒険者だ。
やさぐれた。
「おいおい、先輩に挨拶もなしでどこに行くんだい?」
挨拶も無しにもなにも、お前ら先にギルドから出てただろう。
「おい、じいちゃん今から冒険者って正気かよ」
「ガキどもの世話は俺がしてやろうか? 授業料は10万カネルってとこかな?」
一人前になるまで、それできっちりと育て上げてくれるなら安いと思うが。
そんなつもりは無いだろうし。
それにしても、分かりやすい。
まさか、こんなに分かりやすい出来事があっていいのか?
最近では変化球で対処されることが多い、冒険者ギルドでのお約束イベント。
新人冒険者洗礼イベント。
チュートリアルクエストが発生しましたってナレーションが聞こえてきそうな、そんなイベント。
4人組は見た感じ戦士、戦士、戦士、剣士か?
バランス悪いな。
「お嬢ちゃんは夜の仕事も教えてやっても良いぜ」
「黙れ小僧が、うちの孫に変な事を言うんじゃない」
あまり会話を長引かせて、変な方向に向かうのは困る。
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて俺の通り過ぎて未来に触れようとした男の襟を、素早く掴んで手前に引き倒しながら腹に膝蹴りをぶちこむ。
「ぐっ」
そのまま顎を掌底で打ち抜いて地面に行動部から叩きつけると、続いてその斜め後ろに立っている男まで一気に距離を詰める。
身構えた男の手前でさらに速度を上げて身体を密着させ、脇に手を差し入れて腰に乗せる感じで身体を捻って地面に叩きつける。
「かはっ」
「お主らこそ、それが人生の先輩に対する態度か? ん?」
「じじい!」
3人目が剣を抜いたところで、こっちも気分が乗って来た。
振り下ろされた剣を、人差し指と中指で挟むと横に捻ってポッキリポッキー折ってやる。
心も一緒に。
「あっ!」
「酷い!」
何故か剣を振るった男だけじゃなく、その横の男から非難の言葉が。
いやいや、おかしいだろ?
剣を折っただけなのに。
「まだ買って一週間なのに」
そうかそれは災難だったな。
自業自得だと思うぞ?
流れが怪しくなりそうだったので、側頭部に掌底を叩きつけて意識を奪う。
膝から地面に崩れ落ちる。
よしっ。
あと1人。
「じじい、調子に乗るのも大概に「誰がじじいじゃ!」
最後の1人は剣士。
他の連中よりも立派な剣を持っていたので、懐に潜り込みながら柄頭を裏拳で弾いて……流石剣士。
この程度では手を離さないか。
ならば強引に。
剣は弾けなかったが、拳は弾いた。
そのまま手を掴んで男の背中に向かって捻る。
むっ、まだしっかりと剣を握っている。
「くっ、調子に乗る……な?」
面倒臭くなったので、手首の骨を握り潰す。
ちょっと力を入れるだけで、軽石を潰すような子気味良い感触が手に伝わってくる。
「ぎゃーーー」
「五月蠅いぞ!」
手首を押さえて叫びながら蹲る男の顎に膝を叩き込む。
「うぉぉぉぉぉ!」
「うそぉ!」
「凄いぞじいさん!」
あっ……
気が付けば、周囲にかなりのギャラリーが。
亮と未来は……
ああ、ちょっと離れた場所でヨシュアさんに捕獲されていた。
ていうか、見ていたなら助けてくれても。
いや、それじゃあ折角のイベントがうやむやに。
「驚きました。本当に、何をやられていた方なのですか?」
「うむ、昔の話なんぞなんの自慢にもならんが、ちょっとな?」
ヨシュアさんが近付いて来て、驚いたような表情で話かけてくる。
何でも無いふうに答えを返すが、言えない。
サラリーマンでしたとも、魔王でしたとも。
「こいつらいたいけな冒険者でも無いギルドに依頼経験のある一般人のわしに、いきなり絡んで来たのじゃが何か罰はあるのか?」
「そうですね、暫くは依頼を受けさせない謹慎処分が下るでしょう。それと冒険者ランクの降格ですね。ただ、貴方も衛兵さんに捕まる可能性も……先に手を出しちゃってたので。あっ、でも安心してください。危害を加えられそうだったという証言はここに居る人達してくれるはずなので」
ああ、明確な危害を加えられる前に手を出しちゃ駄目なのね。
明らかな害意を感じたが。
それだけで懲らしめちゃ駄目?
そっか……
なんだろう。
そこらへんは常識的なのね。
だったら、絡まれた時点で助けに来てくれても?
ああ、職員が騒ぎを聞きつけた時点で、既に2人倒れてた?
ごめんなさい。
周囲の人の話で、明らかに絡まれていたのは分かったから任せてくれ?
すいません、ご迷惑をお掛けします。
ということで、楽しいイベントは終了。
終了だけど、あれ?
これって、こいつら倒したところで得たものが無い?
ちょっと待てよ。
今まで見て来た中で、お約束の話の展開を思い出す。
このイベントってあまり旨味なくね?
慰謝料的なもの……は、こっちに何も被害がない。
しいていうならば、俺がちょっと気持ち良くなったくらい。
いままでの話を思い返してみても、主人公が気持ちよくなるか……自分の力を認識するきっかけになるとか。
こう実利的なものは、発生してないことが多いか……
その後逆恨みされて、さらに面倒臭い展開になることの方が多い気が。
うーむ、こんなはずでは。
ただ、俺を見る他の冒険者や通行人、ヨシュアの視線は気持ち良い。
「きっと、昔はそれなり以上の冒険者か、どこかの軍にでも所属していのかもな」
「しかし、素手であれか……武器を持たせたらどれほど」
ごめん、基本は魔法がメインだから。
あんまり武器を持って、戦った記憶は無い。
だが、そんなことをここで言うのは流石にイヤらしいか……
「ほっほ、魔法職じゃから、武器を持って戦ったことは数えるほどしか無いのう」
すまんな。
欲しがりで。
「マジか!」
「あれで、魔法使い?」
「でも、魔法を使用した形跡は一切ないぞ?」
「ステータス向上系の魔法も使って無い?」
「うわっ、絶対あれヤバい」
物凄く盛り上がった。
超気持ちいい!
***
「なんか、田中さんばっかり楽しんでてズルい! ステータス鑑定も受けさせてもらえないし」
「良いじゃん、お陰で僕たちの安全が確保されるんだから」
未来がぶー垂れているが、亮はニコニコと楽しそうだ。
明確な危険が無くなりそうだからな。
俺の連れということで、この2人にちょっかいを出そうと思う人間はもうあの街には居ないだろう。
それが、唯一のメリットかな?
「でもさ……結局、僕たちの実地試験終わってないよね?」
うん、そうだね。
「すまん、職員や冒険者の相手をしてたらすっかり日が落ちちゃって」
そう、冒険者や職員から質問攻めにあい、手合わせというか組手というか、訓練を挑まれて対応していたら日が暮れてしまって。
そのまま街に繰り出して、大所帯で飲み会。
顔繋ぎが出来たことも、収穫だけど。
お陰で2人の冒険者登録が完了しなかった。
明日こそ、手伝うから。
お約束をお約束通り消化しました(*´▽`*)
定番(* ´艸`)