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第6話:やっぱり結局冒険者ギルドははずさない魔王様

「ということでやってまいりました、冒険者ギルド」

「元気だなお前」

「田中さん……」

「元気じゃな、お主」


 普通に喋ったらだめらしい。

 すぐに亮から指摘される。

 見た目とのギャップを消化できないタイプと。


 とりあえずいまいるのは、情報収集で訪れたトアルの街にある冒険者ギルドの前。

 大通りに面していて、割と少なくない人が行き交っている。


「うん、邪魔だから横によけて」


 その正面入り口前に仁王立ちしている未来に、亮が注意する。

 のを無視して建物の扉を開けて中に入る。


「あーっ! 私が開けたかったのに!」


 子供みたいなことを言う。

 よくエレベーターで見かける光景。


「あーわたしがおしたかったのにー!」


 そんなことを言われても俺にどうしろと?

 察しろと?


 すまんが、入り口横に階層ボタンがあるのだから、乗って目的の階にランプが点いてなかったらすぐに押してしまうのは仕方ないだろう。

 条件反射だ。

 だから、そんな悲しそうな声を出されたら理不尽に申し訳ない気分になてしまうから、やめてもらいたい。


 ただ乗ってすぐに子供を見つけたら「5階押してくれるかな?」とかって言う奴いたら、その子の親御さんからなんだこいつって思われるだろうし。

 というか、俺なら思う。

 

 うん、未来は幼児なみ。

 未就学児レベル。


 そう思って置けば今後の扱いも変わるし、楽になるかも。


 中に入ると、いかにも冒険者ギルドですって感じだ。

 戦える恰好をした人達がちらほらと居る。

 日本じゃ絶対に見掛けない光景。

 俺はワンクッション置いているから、見慣れているが。


「うわっ! あの人槍を背中につけてる! あっちはローブ着て、腰に杖さしてるし! うわっ、あの人の斧でっかい」


 未来のテンションがヤバい事になっている。

 それとあれは斧じゃなくてハルバードだ。

 槍というか斧というか、でも鉤もついている万能武具だ。


 ギルドに入って正面には受付カウンターが見える。

 そして受付カウンターは、2箇所に分かれている。

 それぞれの受付に2人ずつ、人が立っている。


 左は依頼をするカウンターで、右が依頼を受けるカウンターだろう。

 並んでいる人を見れば分かる。

 左には戦え無さそうな一般人の人が、右にはいかにも冒険者ですって人が。

 そういうことだろう。


 カウンターの上の天井から下げられた看板に書いてあったし。


 依頼を発注するカウンターの受付には綺麗な女性と、仕事出来そうなお兄さん。

 仕事を受注するカウンターの受付にはきつい目をした気の強そうな女性と、強面のおっさん。


 仕事を発注する依頼人サイドのカウンターは、やはりお客様用って感じだな。

 逆に受注する冒険者サイドのカウンターは……物凄く殺伐としているというか。

 いや、整然としているともいえる。


 冒険者らしき人達が、列を正して順番を待っている。

 カウンターと離れたところでは、冒険者が数人ずつ集まってそこを見ている。

 リーダーが代表として、受付を受けているのかな?


 俺達が入って来たことで、冒険者達の視線が集まる。

 すぐに興味を失って、仲間との会話に戻るもの。

 逆に興味津々で好奇心の隠せない視線を送ってくるもの。

 下心がありそうな視線を送ってくるもの。


 色んな反応があって楽しい。


「じゃあ、さっそく登録を!」

「いや、待とうか? わしがまずは代表として、話を聞いて来るからの?」


 いざゆかんと歩き始めた未来を止めて、亮に渡す。

 俺が離れたら、何かしらの危害を加えられるかもと考えないことも無かった。


 が依頼者側のカウンターに並んだ途端、下心のありそうな視線の連中が目を背けた。


 流石にそこらへんの分別はあるのだろう。

 それと俺がそこに並ぶと同時に、立ち位置を変えた職員と冒険者が。

 素知らぬふりをしつつ、未来と亮に変なことをする連中が出ないように牽制してくれているらしい。


 素晴らしい!

 

 興味津々にこっちを見ていた連中は、より注意深くこっちを見ている。

 なるほど、あいつらは仕事を求めているのか。


 うん、まああいつらに頼む依頼は無いけどな。


「依頼ですか?」

「うむ、欲しいのは情報。この国の常識じゃ」

「ふむ、珍しいご依頼ですね」


 せっかくだから、冒険者ギルドで色々なルールを調べたいと思う。

 おそらくこんな依頼は受けたことがないのだろう。

 少しだけこちらに警戒するような視線を向けてくるのは、見るからに仕事が出来そうな男。


「この街にしばらく滞在することにしたからのう。流浪の身ゆえに土地のルールに疎いものでな」

「なるほど……本当に常識的なことのみを知りたいというのなら、お受けすることはできますが?」

「では、指名依頼で頼もうか? 今日の終業後にお主に依頼したい」


 俺が目の前の受付の人を指名したことで、警戒レベルが少し上がるのが分かる。

 まさか、職員に指名依頼を頼むような人は居ないだろうからな。

 当然か。


「私ですか?」

「その方が、安心じゃろう? 報酬もきちんと用意してあるぞ?」

 

 警戒心を隠そうともせずに、顔を顰めて聞き返す男に対して報酬を提示する。


「お話だけですので、もう少し安くても大丈夫ですよ」

「その辺りの相場すらも分からんのじゃよ」


 提示した報酬は3万カネル。

 時間制で報酬を決めた方が良いとのことで、1時間につき5000カネルで話はついた。

 一応冒険者ギルドで受けるので、5割はギルドに収めると。 

 半分もピンハネしてるのかここは。


 その辺りも確認しないと。


「今日の要件はもう済んだぞ」

「えっ? まだ冒険者登録してないんだけど」


 未来がなにやらブーブー言っているが、無視して外に出る。

 下調べもせずにいきなり冒険者ギルドに登録するような、迂闊なことはしない。


「なんでもう帰るの?」

「いや、まずは冒険者ギルドについて詳しく調べる方が先じゃろう」

「たな……おじいさまの言う事に、一理ありますね」


 亮が田中さんと言いかけて、すぐに言い直す。

 スムーズにやり取りするには、もう少し時間が掛かりそうだ。

 

「ええ、分かんない! そんなの登録したら、教えて貰えるんじゃないの?」


 未来がうるさい。

 無理矢理手を引いて、外に連れ出す。

 ちょっと騒いでしまって、周囲の目を引いてしまったがまあ良いか。 

 時間が経てば忘れて貰えるだろう。


***

 夕方に先ほどの冒険者ギルドの受付の男性と落ち合う。

 ヨシュアさんというらしい。


 待ち合わせ場所は、地図で教えて貰っていたので問題無い。

 嘘だ……

 気配探知でヨシュアさんの動きを予想して先回りして、途中でたまたま会った形で合流。

 向かう先は一緒だから、そういうこともあるだろう。


「貴女は?」

「私は、エミリーです。ヨシュアの横に居ましたけど?」


 ああ、もう1人の受付の子か。


「なるほど……どうしてここに?」

「すいません」

「ああ、みなまで言わんでも良い。信用出来ぬのは分かるが仮にその手の手合いだった場合、そのようなか弱いおなごを巻き込むのはいかがかな?」

「これでも、私は現役冒険者でもあります!」


 俺の言葉に、エミリーが頬を膨らましているが。

 ヨシュアは苦笑いしている。


「気分を害されたなら謝ります」

「いや、構わぬ」


 ちなみに亮と未来は森に連れて帰って、家に放り込んでおいた。

 勝手に外に出られないように、窓は高い位置に。

 外に出るドアは消しておいた。

 まあ、ドアの上に幻影魔法を掛けただけだけど。


 ちなみに亮には普通に見えるようにしてある。

 何かあった時に外に出られないのはね。

 まあ何かあったら、すぐに分かるけど。


 それからヨシュアとエミリーに案内されて、食事所に。

 酒で唇を湿らせたら、俺がポロリと情報を漏らすと思っているのかもしれない。

 残念ながら、完全状態異常無効はパッシブスキルだ。

 自分の意思でオフにしないと、酒に酔うこともない。


「まるで蟒蛇(うわばみ)ですね」 

「もう少し酒精が強くても良いが……何を飲んでも変わらんから、水でも良いのじゃが。それよりもそちらは大丈夫か?」

「……まあ、放っておきましょう」


 俺を酔わせる担当だったのだろう。

 酌をしてくるエミリーに返杯を繰り返していたら、女性としてどうなのという体勢で机に突っ伏している。

 口から涎も。

 目も半開きで白目だし。

 イビキをかいているから、本人はさぞや気持ち良いのかもしれないが。

 見ている方からしたら、百年の恋も冷めるような気持ち悪い顔してる。


 ヨシュアは流石に、そんな失態を起こすようなことは無かったが。


 ヨシュアから得た情報。

 主に冒険者のことを聞いてみた。

 ここに住むから、お金を稼ぐ手段として検討していると。


 申請に必要なのは身分証のみ。

 あとは、自己申告で書類を埋めるだけ。

 身分証を使って、犯罪歴を調べたら簡単な試験を受けて終了。


 冒険者をやるデメリットは殆ど無い。

 自分から言わなければ、冒険者に登録しているかどうかは他から分からないから。


 ああ、全く無い事は無い。

 強制依頼が発生したときに、その街に居たら回避不能。

 いや厳密には大金を積めば回避できるが、そんな金があったらとっくに冒険者なんか引退している?

 その金が無いから、冒険者で頑張っている?

 そうだね。

 その通り。


 あっ、デメリットとなるかは別として犯罪を犯したら、街の決めた刑罰以外に冒険者ギルドからの制裁が入るらしい。

 そっちは、割とえぐいらしい。

 けど、犯罪を犯す気が無ければ、特に気にする必要はないと。


 メリットは割と多い。

 冒険者ランクによっては、色々と優遇が。

 身分証を見せた際にランクを見て、相手の対応が変わることも。

 ちなみに、低ランクは身分証に冒険者ランクを載せないとか。

 そこは任意らしい。

 

 協賛の武具店や、鍛冶屋、薬局などで割引が受けられたり。

 つけ払いが利くところもあるらしい。

 

 他には、素材やドロップ品の買い取り。

 基本的に市場価格より少し安い金額で買い取ってくれると。

 差額はギルドの積み立てに当てられているらしいが、信じるか信じないかはどうでも良いらしい。


 販売の差額でギルドは儲けが出るので、積み立て金額が色々と冒険者に還元される。

 殉職というか死亡した場合は、パーティメンバーや、家族に実績に応じたお金が支払われたり。


 素材の販売に関しては冒険者側はぼろ儲けはできなくても損はほぼ無いので、基本的には冒険者ギルドに持ち込んで売るらしい。

 一般からの買い取りもしているらしいが、2割手数料を取るとか。

 素材の解体も、格安で頼めるとか。

 

 それだけでも取りあえず登録する価値はあるか。

 取った素材が依頼の中にあれば、その分ボーナスが出ることもあるらしいし。


 レベル、スキル鑑定は任意で受けられる。

 職業鑑定は基本的に受ける人が居ないから出来ないと。

 困ったような、困らないような。


 俺は誤魔化せるけど、亮達の職業がバレたらひと悶着ありそうだ。


 ただ職業鑑定は色々なところで子供達に対して、親がやらせているらしい。

 教会や専門機関で。

 なら、こんどこっそりと見学に行って盗み見るか。


 あとは周辺地理や、基本的な物価などを聞いて世間話をして終了。


「依頼料だけじゃなく、食事まで奢って頂いてすいません。割り勘のつもりだったのですが」

「はは、流石に若いもんに出させる訳にはいかんじゃろう」


 伝票は……無い。

 木札に炭で書かれているか、店主の頭の中か、注文時の支払いが原則。

 このお店は、その場で支払うタイプ。

 先に給仕に金を渡して、適当に見繕って貰った。

 誤魔化す心配もないので、ここを勧めてくれたのだろう。

 今後食事をする上でも助かる。

 

 料理の質はまあまあ……

 自分で作った方が美味いのは仕方ないか。

 

 エミリーを背負ったらヨシュアの両手が塞がるので、流石に危険だと言ってエミリーの家の近くまでは一緒に向かう。


「いざとなったら地面に放り投げて対応しますし、この辺りはギルド職員の家が多いので治安は良いのですよ」

「そうか、ならわしも住むならこの近くが良いかものう」


 住むというか、別荘くらいは用意しておかないと。

 この街に住居が無いのは、流石に怪しまれるかなと。

 まあ、この辺りには住まないけど。

 だって、常に留守なのがバレるし。


***

「ほらっ、お土産だぞ!」

「田中さん! この家、出口がない!」


 帰ったら、未来に文句を言われた。

 出口がないことを知っているということは、外に出ようとしたのか?

 そう思って亮に目を向けると、凄く疲れた顔で首を横に振っていた。


 あっ、家に帰って来たので本来の年齢の姿の角と翼と尻尾が無いバージョンだ。

 1000歳の方じゃない。

 前世地球での姿。

 だから、口調が普通でも亮に不満はなさそう。


「あっ! お肉!」

「美味しそうですね」


 未来が俺が許可を出す前に勝手にお土産を手に取って、葉っぱにくるまれたステーキ肉を取り出す。

 まだ湯気が上がっている。


「一応お前らでも腹を壊さない程度に、衛生管理されたこの世界の料理だ」


 買って来たのは肉を焼いただけのもの。

 味付けは少しの塩のみ。

 

「味薄い……」

「固い……」


 不評だった。

 いや、そうだろうなと思って。

 早々と料理に対する希望を打ち砕いておいて、買い食いをさせないための予防線。


「飯は食ったんだろ?」

「ええ、美味しかったです」

「あれ、ゲストのチーズインハンバーグだよね?」


 美味しかったらしい。


「ねえ? ゲストのチーズインハンバーグだよね?」


 満足して頂けたみたいでなにより。

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