第2話:魔王様、子供達とこれからの予定を話し合う
「街に行ってみようか?」
「そうですね」
取り敢えず初日はゆっくりと休んで落ち着こうということで、話し合いをするために作った建物を拡張。
そしてそれぞれの寝室を用意した。
それとお風呂も。
シャワー完備だ。
ちょっとだけ、未来のテンションが上がってた。
「覗かないでくださいね」
「流石に1000年も生きるとそういった事に興奮を覚えることも無いと思っていたが、久しぶりに良いかもしれないな」
「絶対にダメだ!」
冗談で言っただけなのに、何故か亮に凄い剣幕で止められた。
まあ、何故かとは言ってみたものの、理由なんか一つしか無いよな。
青春だね。
「なんで亮がそこまで怒るの?」
未来ちゃんが、不思議そうに首をかしげている。
いやいや、その反応はどうなの?
亮の方に目を向けると、複雑そうな表情を浮かべていた。
そこははっきりと、言葉で示した方が……
あっ、目を逸らした。
根性無しめ。
「分かった分かった、覗くなら一緒にだな?」
「違う!」
「二人ともサイテー!」
「なんで、俺まで?」
亮を揶揄うように肩を組んで耳打ちすると必死で否定したにも関わらず、未来に二人揃って最低呼ばわりされた。
可哀想に。
ちなみに目を瞑っていても、世界中どこのお風呂でも覗けるというのは黙っておこう。
言う必要もないし、自慢にもならない。
「冗談だよ。それにしても、亮も元気が出たみたいだな」
「いや、あの……はい。えっと、良く状況が分からないのですが?」
いやいや、さっき未来に説明してるあいだ、ずっと横に居たよね?
なんで聞いてないの?
まあ良いや。
「亮に色々と説明している間に未来は風呂を済ませておいで。それなら覗かれる心配も無いだろう?」
「まあ、最初から信じてますけど」
「悪魔を信じるもんじゃないよ」
「魔王ですよね?」
「元ね。今は、魔帝を名乗ってるよ」
「……ちょっと、イタイですよね?」
「言うな……俺の居た世界じゃ、大真面目に俺の称号なんだ。良いから、とっとと風呂を済ませて来い!」
俺が魔王だと言っても怯えることなく向き合ってくれる未来に感心しつつ、お風呂へと追いやる。
「着替えを渡しておこう。異世界産の本物のフリーサイズだ! それからタオルはこれを使うと良い。下着は……まあ、風呂で洗ってこの魔石で乾かすと良い。ドライの効果を込めてある。カボチャパンツでも無い限り2~3分で乾くだろう」
「この寝間着、かなり大きく見えるんですけど?」
「着たら、身体にピッタリフィットするから大丈夫だ」
「下着は無いんですか?」
「あるけど、出したらそれはそれで問題だろう」
出すというか、魔法で作り出すというか。
「あるんだ……」
若干引かれてしまった。
質問に答えただけなのに、解せぬ。
「なら、下着も出して貰えると嬉しいかも。流石に洗ったとはいえ、ずっと同じってのは」
「あー……デザインに文句言うなよ」
そう言って、下着を数枚作り出す。
「どこから……」
「記憶を頼りに作ったんだよ」
「記憶……」
腹が立ったから、全てのパンツのお尻に熊のワッペンをつけておいた。
デフォルメの可愛い熊さんじゃなくて、リアルな北海道で見かける熊出没注意的な。
「凄い特殊な趣味の下着の記憶ばかりですね」
「嫌がらせだ、察せ!」
「うーん、まあ下着としての機能は果たしてるから良いか」
良いのか。
色々と残念な子供だ。
「タオルも渡しておこう、それからシャンプーとトリートメント、ボディソープは浴室の中にあるのを使ってくれ。乳液と化粧水は使うか分からんけど、脱衣所の洗面台に置いておこう。髪はそこにある風と火の魔石を組み合わせて作ったドライヤーで乾かすと良い。俺が作ったから、使い方は日本のと一緒だ」
「なんか、本当になんかだよ」
何故か釈然としない表情を浮かべながらも、タオルを抱きしめてお風呂場に向かっていく未来を見送る。
それから亮に色々と説明をする。
聞いてるのか?
先ほど下着を手に持っていく未来をチラッとみてから、なんかずっと微妙な表情を浮かべていたが。
照れているのもあるだろうが、逆に堂々と下着を手に持って行くってことは、未来に男として意識されていないことに気付かないのだろうか?
それにお尻に熊出没注意って書かれた下着だぞ?
そんなのでも良いのか?
いや気付いてないかもしれないから、ここは言わぬが花か。
これから、共同生活を送っていったら、もしかしたらそういう流れになる未来も。
あるかな?
今の亮と未来を見ていると、あまり想像できないけど。
まあ、頑張れ。
それから亮に先ほど未来と話した内容も含めて、今後のことを話しておく。
「じゃあ、戻れるかどうかは分からないんですか?」
「そもそも時間軸が一緒かも分からないからな。こっちでの1秒があっちでは1年だったりするかもしれないし、その逆もまたしかりだ。そもそも色々と調査してみないと、情報が足りなさすぎる」
「なんでこんな……」
「さあな。運が悪かったんだろうな……ちなみに、一番運が悪いのは俺だからな?」
「えっ?」
「最初は日本で殺されて転生した先が魔人、しかも魔王になったせいで気持ち悪い配下を養っていく羽目になって、大魔王と戦ったり神と喧嘩したり物凄く苦労してその世界にようやく秩序を取り戻させて、さあ久しぶりに長期休暇が取れそうだから日本に帰れる目途が立ったと思ったらお前らの巻き込まれ召喚されたんだぞ?」
「それだけ聞くと、壮絶な人生ですね」
壮大な人生をワンブレスで言い切ったが、返ってきたのは簡単な感想だった。
もっと、同情してくれてもええんやで?
ただリョウが少しだけ笑ってくれたから、良いか。
このまま、多少は元気になってくれると嬉しいのだが。
「お前はまだ知り合いと一緒だから良いけど、俺は一人で山羊の悪魔やら、ムカデの魔族やら、はてはチチカカミズガエルの魔族が居るような城に放り込まれたんだからな? しかも転生して最初にジャバザ〇ットみたいな魔王に、求愛されたんだからな? 分かるか? あの時の俺の恐怖が!」
「ごめんなさい……なんとなく、自分がまだ恵まれているような気がしてきました」
ただそれだけだとなんか俺が癪全としないので、俺の置かれた状況を詳しく説明してやる。
同情されて……いや、そういうつもりだけど、そうじゃなというか。
まあ良いか。
お陰で亮もようやく、自分の置かれた状況を見つめることが出来たようだ。
で、一応亮の能力を図ってみたけど、魔法の適正もそこそこありそうだ。
元々あったわけじゃないので、やはりこっちに渡って来た時に備わったのかな?
適性がそこそこあることしか分からなかったから、鑑定の仕組みが少しだけこの世界に適応しきれていないのかも。
この世界のスキルの仕組みとかは分からないけど、魔力を操れるようになったら俺の知っている魔法を教えても良いし。
手っ取り早く、肉体改造を……
物理的にというか、魔法的に……
やめとこうか。
取りあえず二人には内緒で、魂を縛っておく。
魔王の能力。
配下の復活に必要な、いわゆるマーキング的な。
これで二人が万が一死んだとしても、魂は俺の中に戻って来る。
そうすれば、蘇生も可能だから保険としてはこれ以上ないだろう。
リアルに「おおリョウよ! 死んでしまうとは情けない」が出来る状況だ。
言って彼等の命の重みが軽くなるのも困るので、取り敢えず死ぬまで黙っておくが。
あと、死んだあとに俺の前で復活したときの顔が楽しみだったり。
もっともこんな若い子が、そんな目に合わないために奔走しているわけだけど。
不慮の事故にも備えておかないと。
そしてこれからの行動を話し合った結果、未来は街に行きたいと言い出した。
どうやら彼女は異世界転生転移に憧れていたらしく、どうせなら折角の異世界なんだから楽しもうというスタンスらしい。
逆に亮は保守的な考えらしく帰る為の情報収集をしつつ、この世界で生きるための基盤を作る方法を考えようとしている。
だったら街に行くのも悪くないと思ったのだろう、彼もその意見自体は反対では無いらしい。
ただ、いきなり街に行ってはぐれたらどうしようという不安もあるらしい。
街に行くにしてもなんにしても、基本的には俺頼みになるのだが。
亮は俺の様子を伺っているが、未来はそんな事は全く考えても居ない様子だ。
これで最低でも二対一だから、街に行くのは決定だと思っているらしい。
残念ながら、決定権は俺にあるのだが……俺も街に行ってみたい!
だから、三対零で街に行くのは決定だ。
色々と情報を知りたいってのもあるし。
「で、街ってどこにあるんだ?」
「えっ? それは田中さんが魔法でパーッと調べてくれるんでしょ?」
うーん、なんだろう。
この全幅の信頼感が嬉しいような、モヤっとするような。
あっ、でも魔王やってた時も結構こんな扱いだった気がする。
困ったことがあったら、魔王様に言えばなんとかしてくれるみたいな感じで皆考えていたよな。
戦争で破壊された街の復興作業とかもやらされてたし。
魔王って……
「まあ、それ以外に方法がないからな」
仕方ないので、気配探知で人が集まっている場所を探す。
そんなに近くは無いが、森を抜けた先に人が大勢集まっている場所がある。
景色を覗くと、そこまで小さくない街があるのが分かる。
「街見つけたぞ」
「えっ? もう?」
「魔王って、ズルくない?」
「いやいや、ズルくないと思うぞ?」
暫くはこの世界と物語の設定の説明回ですね。
それが終わったら、オムニバス形式のドタバタ劇に移行します。
少しだけ気長にお付き合い頂けたらと思いますm(__)m
そこまでいったら、のんびりストレスフリーの物語が展開されていく……はず(`・ω・´)b