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プロローグの閑話:魔王様を巻き込み召喚してしまった王様

 私の名前はリアハルド王国、第21代国王ベン・ドン・フォン・リアハルドである!

 ん?

 それだと、名前がリアハルドオウコクダイニジュウイチダイコクオウベンになる?

 流石にそんな阿呆はおるまい。


 ふむ……

 庶民など馬鹿ばかり?

 酷い事をいうなお主は。

 

 わしもそう思う。

 気が合うな。

 流石側近。


 改めて私はリアハルド王国第21代国王、名前はベン・ドン・フォン・リアハルドである!


 褒めるな照れるではないか。


 さてと、先日我が国最大の祭事が行われた。

 古より我が国に伝わる秘法中の秘法。

 勇者召喚である!


 召喚されるのは勇者とは限らない?

 いや、まあ代表としてだな。

 良いでは無いか、そのように細かいことは。


 誰だこいつをわしの側近に引き上げたのは。

 わしか。


 その由緒正しき召喚の儀において、困った事態が起こってしまったのだ。

 関係各所にはばれていないが、とんでもないことになった。

 少なくとも貴族共にばれたら、わしに対する反対勢力が勢いづくのは間違いないだろう。


 うむ……このことは、極秘だ。

 何が起こったかというとだな……

 思い出すのも、頭が痛くなる話なのだが……


***


「ふはは、ついにこの儀式の時が参ったのだな?」

「ええ、陛下。ついにですぞ! ついに!」

「楽しみですわね。オーッホッホッホッホ!」


 王家の地下にある秘密の部屋。

 床には大きな魔法陣が描かれており、周囲には十人の魔導士と四人の神官が取り囲むように立っている。

 そして魔法陣へと魔力と神力を注いでいく。


 徐々に光を帯び始める魔法陣。

 描かれた模様に沿って光が立ち上っていくさまは、本当に美しい。

 まるでわしの横に立つこの王妃のようではないか。


 行っているのは勇者召喚の儀というものだ。

 人外の力を持つ者を、他所の世界が呼び寄せるというものだ。

 この魔法陣の効果で、ここに来た時点で所謂上級職の上を行く

 そしてその時がやってくる。

 

 過去に二度ほど歴史の中でこの儀式を行ったことがあった。

 一つは魔王の率いる魔族の軍団を退けるため。

 もう一つは帝国の侵略に対抗するため。

 いずれも当代の勇者によって、防衛はなされた。

 その後、役割を果たした彼等を先代達は手厚く保護して、それはそれは大切に扱っていたらしい。

 一応、その子孫なるものがこの城にも居たが……わしのやることに生意気にもあれこれと口を挟んで来たので閑職に追い込んで事故に見せかけて殺すように大臣に指示しておいた。


 はてさて、儀式の結果はと……


 ふむふむ、なかなか利発そうで真面目な雰囲気の男の子か。

 女を使って煽れば、簡単に動いてくれそうじゃないか。

 どう見ても女性に対する免疫は無さそうじゃしのう。

 涙ながらに同情を誘いながら頼めば、コロリといきそうじゃのう。

 死地にでも喜んで突っ込んでいきそうだ。

 これは重畳。

 重畳の意味はよく知らんが、使いどころは間違っていないはず。

 だよな? 大臣?

 なになに? 満足されておりますか?

 勿論大満足だ!

 ならば問題無い?

 そうか。

 うむ。


 まあ、隷属の腕輪の前にはどんな性格でも関係無いか。


 それと、可愛らしいおなごか。

 出るとこも出ておらん貧相な身体をしておるが、将来に期待といったところか?

 好奇心旺盛そうな感じじゃのう。

 うっかりと余計な事に首を突っ込みそうな気配がするが……

 ただ阿呆そうな顔をしておる。

 これは先の男児以上に扱いやすそうだ。

 まあ、取りあえずは隷属しておけば問題あるまい。


 これは僥倖。


 大臣?

 召喚しているから偶然というか必然というか……たまたま阿呆そうな子が来たということで。

 小難しい説明はいらんから、あってるかどうかだけ。

 うむ、概ね問題無いと。


 さらにもう1人か。

 3人も召喚出来るとは、なかなかうまくいったのではなかろうか。

 過去には33人も召喚して、大変なことになった記録も。

 

 いや、それよりも最後の1人はなかなかに強そうなオーラを放出しておるな。

 何故か靄のようなものを纏っているが。

 うむ、気分を高揚させるお香を炊いているからではないかのう?

 違う?

 そうか、違うのか。


 徐々に靄が晴れて来て、その全貌が明らかになる。

 うむ、いまとなっては全貌が明らかになるという言葉のチョイスはなかなか良かったと思うぞ。


 さて、問題の最後の1人じゃな。

 うむ……

 さきほど靄に浮かんだシルエットから、なんとなく嫌な予感はしておった。

 直視するまえに、少し心の準備を。


 逞しい体躯に、立派な角……角?

 力強い翼と……翼?

 竜を思わせる尾……尾?


 あれ?

 人じゃない?


 誰ぞ!

 誰ぞおらぬか!

 魔族が侵入しておるぞ!

 この神聖なる儀式に乱入するとは、なんと恥知らず!


 と思っていたら目の前の魔族から、何やら疲れを感じさせる大きなため息が。

 敵の陣地のど真ん中に1人で乗り込んできた割には余裕ではないか。


 そう思ったら目の前の魔族がこっちを見る。

 ひいっ!

 吸い込まれそうな漆黒の瞳は、まるでなんの感情も宿しておらぬというか。

 ひたすら深い闇を彷彿させるというか。

 

 あれ? 死んだ魚のような目?

 いやいや、まさかいきなり乗り込んで来て、そこまで呆れるようなことがあれの身に起こったのか?

 この間に?


 周囲を見渡す魔族の視線に従って、順番に小さな悲鳴と肩が跳ね上がっていくのが見える。

 視線に合わせて左から右へと順番に上がっては下りる肩の動きが、小さな津波みたいでちょっと面白いと思ったのは内緒だ。


「ま……魔族?」

「何故、魔族がここに!」


 どうやら我が身を護る精鋭たる近衛すらも、緊張と軽い混乱に陥っているらしい。

 神官たちの表情が酷く悪いのも気になる。

 そんなに?

 そんなにヤバいのあれ。


 だがそこは流石鍛え込まれた騎士達。

 すぐにわしと王妃の前に庇うように立ち塞がる。

 よし、任せたぞ!


「お! お前ら、そいつを殺せ!」


 わしの出した指示に、騎士と神官たちが信じられないような者を見る視線をこちらに向けてくる。

 いままで、そんな視線を向けられたことはない。

 ちょっとでも気に入らないとクビにしてやってたら、みな従順になったからな。

 そんな奴等が、怒りに近い感情を込めた視線をわしに向けて来たのだ。


 本気でヤバいらしい。

 騎士達の視線から、刺激するなこのバカ! といった思いが伝わってくる。

 神官達の眼が、無理に決まってるでしょうと物語っている。


 そうか……


「ひいっ、陛下! 早く逃げないと!」


 わしの裾を摘んで引っ張る王妃の姿に、少しだけほっこり。

 うん、落ち着いた。

 あと1人で逃げないでわしに縋りついて震えてる王妃可愛い。

 今夜は張り切っちゃうぞ!


 そうじゃない……

 あまりの恐怖に目の前の現実から、目を背けてしまった。


(あれ、そんなにヤバいの?)


 大臣に口パクで聞いたら……


(だまってはやく逃げろ)


 命令口調で帰って来た。

 普段なら不敬罪で百叩きくらいにしてしまうような行動だが、大臣が今までそんな行動をとったことはない。

 ということは、それほどまでにヤバい。


 あ、わし殺されちゃうかもしれないから、みんな焦ってるのか。

 納得。

 わしようやく納得。

 

 よし、王妃よ!

 逃げるぞ!

 そう思って王妃の手を握って逃げ出そうと思ったら、魔族が軽く手を振るう。

 おおおおおおおう!

 これ不味い、ヤバい、死ぬ!

 これきっと死ぬ!


 凄い勢いで吹き飛ばされて床をころころと転がると、壁にぶつかる。

 痛い。

 あと、無理な体勢が辛い。

 わしの上に王妃が乗っているから、動けない。

 お尻柔らかい。


 おおう?

 なんぞ、魔族から恐ろしい程のオーラが。

 可視出来るほどの魔力って、宮廷魔術師長が呟いてる。

 それってヤバいんじゃない?


 次の瞬間、床に描かれた儀式の魔法陣が消え去る。

 何してくれとんじゃい!

 先祖代々守って来た、秘伝の秘法が!


「なっ! 王家に伝わる儀式の魔法陣が!」


 思わず大きな声が出る。

 すぐに魔族に睨まれて、後悔。


「そんなっ!」


 横で神官長がありえないものを見るような眼をしてる。

 神官長でもあんな風に焦ることあるんだ。


 そう思っていたら、魔族が新しい魔法陣を。

 ちょっと待て、こんなところで魔法陣の書きかえって不穏な気配が。


 そう思ったけど、魔法陣は魔法が発動する前に木っ端微塵に砕け散った。

 不思議そうに首を傾げる魔族に人間っぽさを感じ、ちょっと親近感が。

 ホッと一安心。


 王妃が一生懸命、裾を引っ張ている。

 ちょっとまて、今少しだけ面白かったから。


 しかし、魔法の発動に失敗したということは……フハハ!

 もしかして、ここでは魔法が使えないとか?


 これいけちゃう?


 いけちゃわないから、早く逃げろ?


 そうか……

 そうだよね。


 さあ逃げようと思った矢先に、魔族が光を放ち……

 目の前から消え去った。


 逃げた?

 逃げたの?

 

 周囲を見るが、まだ警戒を怠っていない様子。

 もしかして、姿を消しての不意打ち狙い?


 ……しばらく周囲の気配を探っていた騎士団長と、神官長と、宮廷魔術師長がお互い顔を見合わせて頷く。


「どうやら脅威は去ったようです」

「ただ、勇者様方を連れ去られてしまいましたが」


 それヤバくね?

 こっちの最強戦力、奪われちゃったってこと?


「えっ? あれ、召喚の儀で召喚されたの? この世界の魔族じゃないの?」

「おそらく、現魔王と同等の力を持つかと……」


 勇者召喚したら、魔王級の魔族を巻き込んで召喚しちゃったらしい。

 これ他の国にバレたら、国際問題まったなしだよね?

 確実に、周辺国家から国交断絶まったなしだよね?


 よし、内緒にしとこう。


「皆の衆、今日起こったことは忘れろ! 良いな!」


 威厳を持って、厳命!

 逆らったら、打ち首獄門、一族郎党連座だからな!


「これは、忘れるにしても大問題です」

「言うな、忘れろ。そしてこの部屋は未来永劫封印しろ」


 きれいさっぱり消えてしまった魔法陣があった場所を眺めて漏らす神官長の肩を叩いて、退室するように促す。

 さてと、忘れた。

 ご飯食べて、風呂入って、寝よう。

 明日になったら、きっと何事も無かったかのように日常が始まるはず。


「陛下! 魔法国マーリンの国王陛下から、昨日この地から放たれた巨大な魔力の詳細について、質問状が届いております」


 ……うん、宮廷魔術師長が実験失敗して、宮廷魔術師団全員の魔力が暴発したって伝えといて。

 ちょっと、保養地に妻と行って来るから。

 あと宜しく。

小生の作品の1つ、左手右手が書籍化決定いたしました(*´▽`*)

次回投稿は、明日の12時を予定しております。

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