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第1話:魔王様状況を説明する

 改めて自己紹介すると俺の名は田中ひとし、こことは違う世界で魔人として転生し、魔王となった男だ。

 そっちの世界を平定して安穏と暮らしていたのだが、何の因果かこの世界に勇者として召喚されてしまったらしい。

 あれかな?

 日本に戻ってちょっとゆっくりしようと思って、異空間を渡っているさなかに変な吸引力を感じて好奇心でその流れに乗っちゃったのがまずかったのかな?

 とはいえそのお陰で日本人を救えるような場面に出くわしたのは、幸いだったともいえるし。


 ちなみに日本人としては30年くらいしか生きていないが、転生先の世界で魔王としては1000年近く生きてきているのでどこに行ってもそれなりに強いだろうと思う……思いたい。

 この世界の基準が分からないから何とも言えないけど。

 

 二人への説明はこんな感じで良いかな?

 胡散臭いかも。

 でも、まあ……信じようが信じまいが、助けるつもりだし。


 取り敢えず彼等を助けるためにも、情報が必要だ。

 元の世界に戻る方法も併せて。

 普通の人間の身体でも相当に強化すれば、次元の狭間を使った異世界渡りに耐えられるかな?

 でもうっかりはぐれたら、二度と回収できないかも。

 リスクを敢えて背負う必要はない。

 子供達にそんな危険なことはさせられない。


 だったら、この世界に生活の基盤を作る事が先決かな?

 えっと……まずは、ある程度二人と情報を交換したら、どこか手頃な街にでも移動した方が良いかな?

 適当に移動したとはいえ、ここは流石に……


 取りあえず人が居ないところで、まばらに生き物の気配を感じるところと思って転移してみたわけだが。

 辿り着いた先は森。


 それも明らかに未開の森。

 しかも適当に転移したから開けた場所でもなんでもなく、3人で茂みに埋もれている状態。

 これは良くない。

 刺す虫とか、ふれたら被れる植物とかあるかもしれない。


「どいてくれないか?」


 俺が軽く手を翳して言葉を発すると、周囲の草花が俺達の周りを離れるかのように地面ごと移動する。

 それにともなって、その範囲に居た虫や小さな動物も離れていくのが分かる。


 ようやくひと心地つけたので、横に目を向ける。

 唖然とした表情でこっちを見上げている少女。

 驚愕の表情でこっちを見上げている少年。

 微妙に反応が違うのが、面白い。


「あー、大丈夫か?」

「ひっ! 悪魔! というか、ここはどこなんだよ!」

「騒がないでリョウ! うるさいって理由で殺されちゃうかも」


 いや、そんな理由で殺しはしないけどさ……

 少女の方が少しだけ周囲の状況が見えている感じかな?

 でも、物凄く膝がガクガク震えてるのが分かる。


「取りあえず、自己紹介といこうか」

「自己紹介? えっ「待ってリョウ! もしかしたら、名前を握られたら僕にされて操りん人形にされちゃうかも」


 うんうん……

 少女の方は、物凄く思い込みが激しいことが分かった。

 操りん人形て……なんか可愛い。

 そうじゃなくて。


 いや、いきなり悪魔みたいな見た目の生き物にそんな提案をされたら、疑ってかかるものかな?

 

 いやいやいや、その悪魔に対して割とあんまりな対応だと思うけど。

 

 なんとなく少しだけワクワクとしたような感情が見え隠れしているのは気のせいかな?

 気のせいじゃなさそう。

 おそらく、そういうビョーキに掛かっていたんだろう。

 異世界にチートを持って行けたら良いな病とか?


 少年の方は、何がなんだか分かってないって感じだ。

 俺の言う言葉を素直に受け止めたりするあたり、混乱して思考がまったく働いていないのかも。

 それにしても、真面目そうな子だな。

 女の子が少しだけいい加減な雰囲気なだけに、対比すると余計に真面目そうに見える。


 ちょっと良い感じの言葉で言ってみたが、正直に言おう。

 とてもじゃないが異世界で勇者をやるような主人公キャラに全く見えない、普通の子だ!

 うん、普通って言葉が凄くあてはまる感じの普通の子。

 見ていてホッとする。


 取りあえず二人の警戒を解かないと。 


「あー、ミライちゃんだったかな? そんなことしないから、安心して良いよ」

「えっ? なんで、私の名前を?」


 うんうん、ここに来る直前でリョウが喋ってたからね。

 緊張をほぐすために名前で呼んだら、余計に警戒された。


「なんででしょう?」


 面白いから少し揶揄ってみよう。

 わざとらしく、リョウと呼ばれた少年に目を向ける。


「ごめん、僕が口走った」


 俺の視線の意味に気付いたリョウが、すぐに白状する。

 うんうん……誤魔化さないことに好感は持てるけど。

 本当に普通の反応だ。

 いやある意味、誤魔化さないことは普通じゃないかも?

 いや、普通だな。


「もー! 何してるのよ! 名前バレちゃってるじゃない」

「大変だね、リョウ君も」


 ミライという少女の方を見ながら、リョウに声を掛ける。

 わざとらしくミライに目を向ける。

 今度はミライが口ごもる。


 しょうがないよね?

 二人とも混乱しちゃってたわけだし。


 いつまでもわちゃわちゃしてても仕方ないので、まずは今後の方針とこの子達をどうするか考えないと。


「まあ、飲み物でも飲みながらゆっくりと今後の計画を立てようか」


 そう言いながら地面を綺麗にならすと、壁と天井を作り出す。

 土魔法で急遽作り出したものだから、無機質な土壁でしかないけど。

 流石に見たまんま土ってのもちょっと気になったので、魔法で真っ白な壁紙を作り出して取りあえず貼っておく。

 そこに幻影魔法を使って、適当な模様を浮かび上がらせてと。


 ちょっと楽しくなってきた。


 でも天井は、作りは適当で良いか。

 幻影魔法で天井には少し奥行きを持たせつつ、シャンデリアの立体的な絵を映しておいた。

 茶目っ気だ。

 見た目には豪華なシャンデリアがぶら下がって、光を放っているように見える。

 正解は普通に天井が光ってるだけだけど。

 光る天井が俺の魔力を吸い上げていくけど……物凄く低コスト。

 1分でMPを1消費する感じ。

 ちなみに俺の魔力総量からすると、1000年以上は光らせ続けられる。

 嘘だ。

 計算が面倒臭くて、かなり少なく見積もってみた。


 ちなみに1分でMPが1割回復するから、ほぼ無限機関。


 目まぐるしく周囲の景色が変化するのを、二人が呆然と眺めている。

 口開けてると、虫が入って来るぞ?

 

「なんか……なんかだよ」


 そして、ミライがその場にヘナヘナと崩れ落ちる。

 なんか、なんかの意味が分からない。

 分からないけど言いたいことは分かる。


 テーブルセットを作り出したのになかなか座ろうとしない二人に、どうにか腰かけて貰い話を始める。

 途中でリョウが取り乱したり、ようやく現実に引き戻されたミライが泣き出したりしたが、どうにか落ち着いて話を出来るまでになった。


「田中さんが、物凄くおじいさんだった件」

「受け入れが早いな、さっきまで帰りたいって泣き叫んでいたとは思えないほどに」

「それは、言わないでください」


 俺がこことは違う異世界に転生して魔王になってその世界を統一したこと、それから1000年くらい魔帝としてその世界のバランスを保つ悪役をやらされていたことを話す。


「だから、1031歳くらいかな?」


 と笑いながら言ったら、ミライに閣下よりは若いねと言われた。

 良く知ってるなと思ったが、そういえば最近はコメンテーターとしても露出があるんだったっけ?

 まあ良いや、それよりも……


 呆然と俯いたまま何も言わなくなってしまったリョウに目を向ける。

 こっちは完全に立ち直るには、まだまだ時間が掛かりそうだ。


 二人の名前は男の子の方が金沢(かなざわ) (りょう)、女の子の方が渋沢(しぶさわ) 未来(みらい)というらしく、共に同じ高校に通う幼馴染らしい。

 本人達が名前で呼んでくれということだったので、ミライとリョウと呼んでいる。

 俺のことは、タナカさんで良いらしい。


 元の年齢も、現在の年齢も年上だからということだったが。

 

「それにしても、角と翼と尻尾を生やしたいかにもな悪魔なのに、田中ってどうなんですか?」

「いや、そんなことを言ってもだな、元々はただの日本人だからな?」


 ファンタジー満載な見た目で、田中という名前が未来にはお気に召さない様子。

 しかし、ここでルシファーです! とか、サタンです! とかってとってつけたように言うのもね。

 ただのイタイ人でしかない。

 正直に言うべきところは、正直に言っておかないと。


「取りあえず俺一人ならなんとかここから脱出出来るけど、流石に君たちを置いていくわけにもいかないしね」

「私達を連れてってのは難しいのですか?」

「いやいや、宇宙に行ってみて転移したりとか、時空の狭間に飛び込んでみたりだから、流石に結界を張ってても生身の人間にどんな影響が起きるか分からないし、何よりもはぐれた回収が面倒臭いし

「面倒臭いって……」

「ほらっ、人間ってすぐ死ぬから」

「……その言い方、流石人間やめてますね」


 本当のことだから仕方ないけど、言い方!

 人間やめてるとか言われると、流石に少し傷つく。

 子供相手にムキになっても仕方ない。

 ここは俺が大人になろう!

 1000歳差以上あるしね。


「だったら、この世界に居る状態で、確実な方法を探すべきかなと」

「あるんですか?」

「知らん。無ければ、意地でも作ってやるよ」

「わー! 頼もしすぎて、なんかもう……なんかです」


 はしゃいでるようなセリフを棒読みで吐きつつ、ちょっとがっかりした様子の未来。

 もしかして、異世界でテンション上がるタイプなのかな?


 という訳で三人の奇妙な異世界生活が始まった。

 ちなみに、亮はまだ戻ってこない。

 大丈夫かな?

 そんなメンタルで。


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