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第15話:森の竜王 バハムスト

「うむ、わしは森の竜王バハムストじゃ!」

「馬鹿息子?」

「違うよ、バハムストさんだよ」


 夕方になって、この館の主が連れ帰ってきた童に馬鹿にされて…… 

 は居ないようだ。

 純粋に、聞き間違えただけっぽいな。


 さて……何故、ここに居るのかということだが。


 遡ること、6時間前。


「いい加減に、行ってください!」

「むう」


 信頼する側近である、ミアザールによってこの館の門をたたくこととなった。

 といっても、半分は開いているのだが。


 入る前に深呼吸。

 さっきチラリと見えた老齢の紳士がこの館の主か……

 いや、主が出歩くことはないか。

 ということは、執事とかかな?

 そういえば、目が合ったのもこやつのような。

 警護もしていると考えれば合点がいく。

 あれはこの館の警護兼執事。

 で主に言われて、わしを出迎えるための準備とおぜん立てをしてくれたのだろう。


 だったら、ついでに声を掛けて案内してしかるべきだろう。

 だが、それをしないのは主を下に見られたくないからか?

 迎えに行くよりも、わざわざ訪ねて来させることでアドバンテージを取らせないつもりか。


 猪口才な……とは、言わない。

 なんか、得体のしれない強さを感じた。

 まあ、わしよりは弱いだろうが。

 弱いよな?


 横に並……んでない。

 斜め後ろでいかにも部下ですって顔してるミアザールに視線を送る。

 プイッと目を逸らされた。

 それでも、手はいけとばかりにシッシと振られている。

 こいつ、こんなに無礼な奴だったっけ?


 もっとこう、忠義に厚いと思っていたのだが。

 ミアザールの評価を下方修正しつつ、門の中を覗いて声を掛ける。


「誰ぞおるか!」

「わっ!」

「ううぇ……うあーん」

 

 大声で屋敷の中に呼びかけたら、小さな男の子の驚いたような声と、女の子の泣き声が聞こえてくる。

 ほう……やはり、竜王だけのことはある。

 普通に呼びかけただけで、中は阿鼻叫喚だ。

 ドヤァ! とばかりに後ろを振り返ると、ミアザールに無言で首を横に振られた。

 なんでだ?


 もしかして、あまり良くないことだったか?


「竜の姿で叫べば、普通の人であれば心の臓が止まる思いでしょう。その大きさと、振動に」

「そうか……威厳的なものではなく、現実的な効果か」


 そのような軟弱な耳をしておる人が悪いのだと開き直りたいところだが、聞こえて来たのは童の泣き声。

 これは、悪い事をしたかもし……れ……ん?


「うちの可愛い孫を泣かせる蜥蜴はお主か? ん?」


 ……

 いつの間にか目の前に立っていた先ほどの老人が、手に持った杖をわしの喉元に突きつけて……あれ? 刺さってる! 刺さってるそれ!


「えっと、あー……はあ……こら、人間! この森を統べる偉大なる森の竜王であるバハムスト、竜王バハムスト、偉大なる竜王バハムスト様に杖を突きつけるとは無礼にもほどがあるぞ!」


 ミアザールが物凄くわしの名前を呼びながら、注意している。

 うむ、注意するならもう少し前に出ようか?

 せめて、わしの前に立つように。


「ほう? バハムストというのかお主?」


 名前覚えられたし。

 

「そうじゃ、わしはバハムストじゃ! そしてこい……うむ、痛いし喋りにくいからその杖を少し下ろしてくれんか? 何故、さらに力を籠める?」

「うちの孫を泣かせた詫びもすまぬうちに、頼み事か? 随分と礼儀知らずな蜥蜴もいたもんじゃ」

「痛い! 痛いから! というか、蜥蜴とかいうな、わしは偉大なあいたたたた! すまん! すまんかった!」


 思わず本気で謝ったら、ようやく杖を下げてくれた。

 顎から血がポタリポタリと垂れている。


「汚すなよ」


 汚いものでも見るかのようにその血を魔法で作り出した水で洗い流している。

 竜の血って貴重なんだぞ?

 色々と病気の治療薬にも使えたりするし。


 そうだな。

 こんな綺麗な屋敷をよごしちゃいかんな。


 見た目は普通の老人なのに、どこか逆らえない雰囲気がある。

 例えるなら、全ての竜を統べる大龍王様のようだ。

 

 それよりもだ!


「わしは偉大なる森の竜王バハムストである! そしてこやつが筆頭従者「あっ、私の紹介は結構です。名乗るのもおこがましい、ただの龍ですから」


 むう……

 お主、それはちとズルく無いか?


「まあよい、でお主らは何をしに来たのじゃ?」

「えーっと、何をしに来たんじゃったっけ?」

「ほら、若い竜が挨拶にも来ないこの無礼者を放っておくのかと、だいぶ不満が溜まっていたからこちらから挨拶に来たんでしょう?」

「おや? この森は魔女が作った森と聞いたが、何故蜥蜴風情に挨拶をせねばならぬのだ?」


 あまりの言いざまに言葉も出ない。

 流石にここまでコケにされて黙っているのは竜の沽券にかかわる。

 得体がしれない不気味な相手だから、様子見をと思ったが。

 その増長した……痛い! 痛い!


「質問に答えぬか!」

「調子にのるガッ!」

「バハムスト様!」


 また顎を杖で刺されたので、目の前でブレスを吐いて消し炭にしようと思ったら杖が伸びて上顎まで貫かれた。

 魔法の杖だったんですね……


「ん? ただの小枝じゃぞ? 魔法で強化して、ついでに成長させて伸ばしただけじゃが?」


 ハッタリだと思いたい。


***

「最初から普通に声を掛けてくれれば、客としてもてなそうと思うておったのじゃが。まあ、わしもルナを泣かされて冷静じゃ無かった。すまぬ」

「いや、なに気にするでない。確かに竜の姿で来たうえに、あんな大きな声を出したら童ならば泣き出しもしよう。こちらの配慮不足であった」


 結局、今現在わしの尻尾にじゃれついているルナという獣人の子のお陰で、ことなきを得た。


 老人……タナカという男が「さて、こんどはこの小枝にさらに成長促進をかけて、樹齢数千年の大樹のような幹の太さにしたらどうなるかのう」という、とても恐ろしい呟きを聞いたルナが必死で止めてくれた。


「だいじょうぶだから! だいじょうぶだから、とかげさんをいじめないで」


 うむ、トカゲでもなければ、こんな幼子に苛められてる体で庇われるのも自尊心が。

 後ろに視線を送れば、いつの間にやらミアザールも居なくなっていたし。


 そんなミアザールだが……


「へえ、タナカ殿も1000歳を少し越えたところなのですね。私は今年で1011歳になりました」

「ふむ、わしの方がほんの少し年上じゃが、ほぼ同世代じゃな。敬語は不要じゃ」


 和やかにタナカと話していた。

 うん……人間って、そんなに長寿だったっけ?


 ハイエルフとかかな?

 没落したハイエルフの王族とかなら、その実力もやや納得。

 ただ、余裕で世界中のエルフを配下に出来そうなくらいに、強いけど。


 あとはルキアという少年か。

 彼等はタナカに拾われた子らしいが、心底懐いているというか。

 こうしてみると、本当の祖父と孫にしか見えないな。


「おいおい、照れるではないか。おぬし、良い奴じゃのう? 今日は、食事を馳走しよう」

「良いのか?」

「ああ、怪我をさせてしもうた詫びじゃ」


 物凄く上機嫌になったタナカに食事を馳走してもらえることになった。

 とはいえ、わしもミアザールも竜だ。

 一応、人化の術も使えるが。

 それでも食べる量は変わらない。

 身体を維持するのに、必要だからだ。


 他にも2人ほど、居候がいるとのことで彼等を待ってからの食事会となった。

 そして自己紹介したところ、馬鹿息子呼ばわり。

 まあ、タナカ殿の縁のあるもの相手に、いきなり殴りかかったりはしないが。


「どうなっておるのだろうか?」

「分かりませんが……次から次へ見た事も無い料理が……」


 厨房にタナカ殿が向かって数秒で、料理の乗った皿が大量に宙をプカプカと揺れながらこっちに向かって来る。

 いや、タナカ殿自身が料理をするということも驚いたのだが。

 従者が少なく、魔法で料理を提供するというのもなかなか。

 ただ、料理の量と種類が尋常じゃない。


 本殿でも狭いということで、中庭にテーブルを用意して貰ったが。

 このテーブルもどこから取り出したものやら。

 そして、そのテーブルにところせましと置かれた料理。


「うますぎませんか?」

「うむ……この茶色いカリカリとしたものが付いた鶏肉とか絶品じゃのう」

「バハムストさんも気に入りました? 私も、これ大好物なんですよ! ケンチキ」

「ケンチキか、うむこれが気に入った!」


 ケンチキ美味いと思っていたら、家チキやら、LLチキとか、ハチチキとかいろいろな種類の同じような鶏肉料理が出て来た。

 どれも特徴があって美味しい。

 個人的にはLLチキが一番、カリカリしてて好きかも。

 

 しかしそれ以外の料理も、恐ろしく美味い。

 何故かある海の幸も素晴らしい。


「そんなに気に入ったのであれば、気が向いたらいつでも飯を食いに来てもいいぞ? 留守にすることもあるが、おればもてなそう」


 我、ここに楽園を見た。

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