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第13話:亮とルキアと魔王様 狩りに出かける

「大丈夫ですか?」

「ああ、こう見えて僕も結構強くなってるからね」

「それは頼もしいのう、ホッホ」


 最近ではおじいちゃんが大分板についてきたが、今日は亮とルキアを連れて屋敷の周辺で狩りをすることにした。

 別に、魔物を倒してレベル上げをするためではない。

 純粋に、食料としての動物を狩るためだ。


「動物居ないの? マジで?」

「田中さん、口調が……」


 亮に注意されてしまったが、思わず素になってしまうのも仕方ない。

 この辺りは魔物が強く、魔獣は居ても動物は居ないらしい。


「いや、だってあの鳥とか」


 どう見ても普通の鳥にしか見えない。

 というか、シジュウカラっぽい気がするけど。


「あれも、立派な魔物ですよ。気性は大人しいですが、風の魔法を操ります」


 そうなの?

 そうなのか……

 というか、魔物と普通の動物の違いって。


 大きな違いは魔力を持っているか、持っていないか。

 魔力があるから魔法が使えるわけじゃない。

 魔法が使えない代わりに魔力を身体能力に回している魔獣もいるとか。

 ただ、あの鳥は魔法が使えるらしい。


「食べられるのか?」

「食べられるのは食べられますが、殆ど骨ばかりで食べるところは少ないです」


 そうか……

 そうだよな。

 小鳥だもんな。


 ルキアの鼻を頼りに、動物を探す。

 この辺りで食べられる魔物ということだが、ジビエボアが有名と。

 なんだろう……食べられるためだけに産まれて来たような名前だけど。


「ふむ……猪じゃなくて熊みたいなのが居るのじゃが?」

「えっ?」


 俺の言葉に、ルキアが固まる。

 俺が指さした先にいるのは、4m近い大きな熊。


「タ……タイラントベア……」


 おお、聞くからに強そうな名前。


「でかい熊ですね」


 亮も少しだけ驚いている。


「す……すいません、まさかここまで接近に気付けなかったなんて」


 ルキアが驚いているが、仕方ないだろう。

 猪を探すのに一生懸命だったみたいだし。


 それにあの熊、なかなか巧妙に臭いを隠している。

 身体に周囲の植物の葉や木の幹を擦りつけたのか、この辺りの匂いと同化している。


 狼でも気付けないのはルキアが未熟なのか、はたまたこの熊が強いのか。


「グルルル」


 熊は大分前から俺達に気付いていたみたいだ、ずっと付かず離れずの距離を保って付いて来ていた。

 結構な距離を。

 だから俺は、ルキアが気付いてないと思わなかった。

 知ってて、無視してるのかと。

 だから、大したことないのかなと。


「あれ、強いの?」


 亮が呑気にルキアにそんなことを聞いている。

 いやいや、ルキアの表情を見たら分からないかな?


「里の男衆が総出で狩るような魔獣です。それでも毎回犠牲が出るような、化け物です」


 冷や汗を垂らし、真っ青な顔で何故か俺達の前に出るルキア。

 耳は垂れ下がっていて、尻尾は股の間に入り込んでしまいそうなほど内側に曲がっている。


「なら、なんで前に出る?」

「き……気付けなかったのは俺のせいです。だから、俺を食べている間に2人は逃げてください」


 ガタガタと震えながらカッコいいことをいう。


「その代わり……何があっても妹だけは、ルナだけは」


 こんな時にまで妹の心配をするなんて。

 俺はいま、猛烈に感動している。


「ガアアアア!」

「ひいっ!」


 熊の咆哮にルキアが反応して、前に飛び出しそうになったのを掴む。


「えっ? なっ! ちょっと、本当にまずいんですって!」


 俺に片手で持ち上げられたルキアが、手足をバタバタさせて喚いている。


「亮、おぬしがやってみるか?」

「うーん、あのサイズの熊とは戦ったことないので分からないですが、やれるかな?」


 亮も不安そうだが、そこまで悲観的ではない。

 強そうだな。

 勝てるかなといった感じの表情だ。


「いやいや、無理ですって! 人のレベルでいったら、600相当の化け物ですよ?」

「あっ、無理ですね」

「じゃな」

 

 ルキアの言葉を聞いて、亮がすぐに諦める。

 でも、そこに不安そうな表情は無い。

 まさか、魔王ともあろう俺が、こんな熊なんかに後れを取る訳などないといった信頼が、まだ余裕のある表情から透けて見える。

 うんうん……頼りにしてもらって嬉しい。


「だから、僕が囮になるので早く逃げてください」

「ふむ……」


 俺はルキアを自分の後ろに置く。


「なんで!」


 ルキアが慌てて前に回り込もうとするのを、身体を横に動かして阻む。

 熊は最初にルキアをチラリと見た後は、俺から視線をはずさない。

 どう考えても食べるところの少ない年寄り形態の俺をジッと見ているのは、俺が一番狩り易そうに見えたからか。

 それとも、一番の強者と気付いたからか。


「あれは、食べられるのか?」

「美味しいですけど、何を考えてるのですか?」

「美味しいのか」


 その情報だけで十分。

 俺が一歩足を前に踏み出すと、タイラントベアが立ち上がる。

 

「大丈夫だから」

「大丈夫なわけないでしょう! 亮さんも手伝ってください」


 ルキアが弓を構えながら、亮を怒鳴っている。

 が、亮は特に気にする様子もなく、むしろワクワクとした様子でこっちを見ている。

 これは、張り切っちゃうぞ!


「来るがよい」

「ガアッ……ア?」


 俺の挑発にタイラントベアが身体を下ろして、4本の足で一気に地面を蹴る。

 そして凄い速さで飛び掛かって来て、不思議そうに声をあげる。

 それもそうだろう。

 俺は突っ込んで来た熊をあっさりと片手で受け止めている状態だからな。


「なんだ、この程度か?」


 熊の額に左手を置いて、思わず欠伸が出た口を右手で覆う。


「グ……グゥ」


 熊が俺から離れようと後ずさりするが、そうは問屋が卸さんよ。

 俺は左手に力を込めて、熊の額を思いっきり掴む。

 それだけで、熊はその場から身動きが取れなくなる。


「何が起きてるんですか?」

「分からないけど、田中さんが片手で熊の頭を掴んでるように見えるよね?」

「いや、意味が分からないです」


 うーん、地味すぎたかな?

 反応がいまいち。

 

「よいしょっとぉ!」

「イヤアアアアアアアア!」

「嘘でしょう!」


 なので、そのまま左手の力だけで熊を上に放り投げる。

 おお……軽すぎるだろう。

 20m近く上空に飛んでいった熊を見て、思わずため息が出る。 

 でも、ルキアが物凄く驚いているので満足。

 

 そのまま降って来た熊が地面に落ちる前に、腹に軽く拳を当てて落下の衝撃を殺す。

 このまま地面に叩きつけられたら骨はグシャグシャ、内臓もグチャグチャで食べられるところが減ると思ったからだ。


 心臓目がけて放った一撃は、見事に熊を絶命させることが出来たらしい。

 

「猪は狩れなかったが、これはこれで美味いのじゃろ?」

「えっ? あっ、はい……えっ? はっ?」

 

 可哀想にルキアが混乱しているらしい。

 亮はというと。


「えっと……身体強化系のスキルですか?」

「いや、かなり手加減した通常攻撃じゃ」

「そうですか……やっぱり魔王って、色々とおかしいんですね」


 その反応はあんまりじゃろうて、おい。

 思わず心の声が老人になってしまうほどのショック。

 素ステで倒せるというか、素ステが人間と一緒とかそれはそれで魔王として駄目な気が。


 取りあえず、大物を狩ることが出来たので意気揚々と家へと帰ることに。

 狩りに出て、僅か30分での出来事。

 いくらなんでも早い気がしたけど、下処理とか必要だろうし。


「よし、帰るか」

「はい」


 俺が帰るように促すと、何もしてない亮は少し消化不良っぽい感じだったがすぐに同意してくれた。 

 ただ、ルキアからの反応が無い。


 ルキアの方を見ると、その場にへたりこんだまま動く様子が無い。


「どうした?」

「だ、大丈夫です! ちょっと、驚いただけで……すぐに立ちあが……あれ? ととっ」


 どうやら腰が抜けて、足に力が入らないらしい。

 膝がプルプルしていて、中腰になったかと思ったら後ろにストンとまた尻餅をついてしまった。


「仕方のない奴じゃのう」

「旦那様!」


 ルキアの前に背を向けてしゃがんで、乗るように促す。


「気にするな、子供を大人が背負うのは普通のことじゃろう」

「いやいや、それは主従間での行動じゃないですって」

「今日は孫たちと狩りに出かけただけじゃ。ここに従者はおらん。おるのはわしの孫の亮とルキアだけじゃからのう」

「だ……旦那様……」


 ルキアが何やら声を詰まらせているが、乗るなら早く乗って欲しい。

 中腰くらい1万年だって耐えられそうなスタミナがあるとはいえ、いつまでもこのままの姿勢というのは見た目的に。

 

「亮、ルキアを抱いて背中に乗せよ」

「はい」


 仕方なく亮にルキアを乗せるように頼む。

 亮がすぐに反応して、俺の背中にルキアを乗せる。


「本当に手のかかる弟だな」

「亮さん……」


 亮の言葉に、ルキアがちょっとだけはにかんだように照れている。

 

「で、気付いたんですけど田中さんがルキアを背負うってことは、熊はどうやって運ぶんですか?」

「手ぶらのやつが、そこにおるじゃろう?」

「ええ?」


 その事は考えてなかった。

 ルキアをおんぶするということしか。

 だから、熊の事は忘れてた。

 記憶スキルをもっていても、使わないと意味が無いと何度も部下に言われたのは。

 こういうところだろうな。


「家からそんなに離れてないのじゃから、良い訓練になるじゃろう」

「はい……」

「俺が降りて手伝います」

「良いから」


 いまだ小刻みに震えているルキアが、亮を手伝うと言っていたが。

 いやいや、そんな事はしなくても良い。

 心地よい軽さと、温かさに少しだけほっこりとしているところだし。


 亮なら、なんとかする……まあ、そうか。

 そうだよな。


 亮が持ち上げたところで、4m級の熊だ。

 身体の半分以上が地面に引っ付いている。

 このままじゃ家につくまでに、だいぶすりおろされてしまいそうだ。


「これを使え」

「これは……ソリ? というか大きすぎませんか? なんでこんなものが?」


 空間収納から子供が5~6人乗れるサイズのソリを取り出す。

 なんでこんなものがあるんだっけ?


 確かスキーがしたいとかって、俺が前の世界で保護した日本人の女の子が言い出して。

 それで、確か城で養っていた孤児も連れて行ったんだっけ。

 その時にテンションが上がって、こんなのを作ったような。

 まあ、良いか。

 

「それなら、熊ものるじゃろう」

「まあ……」


 亮がソリに熊を乗せて引っ張る。

 家に向かって。

 その後ろを俺がルキアを背負って歩く。


「思ったけど、そのソリじゃったらわしとルキアが乗るくらいの余裕はあるな?」

「駄目ですよ?」


 熊と一緒にソリに乗って運んでもらおうかと思ったら、亮に断れた。


「はっ! はやいいいいいい!」

「アババババババ!」


 だから代わりに亮とルキアをソリに乗せて、俺が全力疾走。

 

「何やってるんですか!」

「ルキア、大丈夫?」

「おにいちゃん、おみずもってきたよ」


 余りの速さに、ルキアが泡を吹いて気絶していた。

 ついでにいうと、下も汚していた。

 それについては、誰も突っ込まないのは優しさからか。

 

 そして、亮と未来に物凄く怒られた。

 あれ?

 子供って、ああいうの好きだと思ったのに。

 

***

「見ましたか?」

「うむ、見たぞ!」


 森の山の上にある竜の巣で、巨大な竜が2頭ほどその光景を見て首を傾げていた。

 どうやれば、人型の生物があの大きなタイラントベアをここから肉眼で見える高さまで打ち上げられるのか。


「あれ、やばいですよね?」

「うむ……わしもそう思う」


 その現象を起こした者に、いつまでたってもわしが手を出さないことで、若い衆の間にどんどんと不満が溜まっていってるのは分かる。 

 分かるけど……あれに?

 礼儀を教える?

 誰が?

 わしが?


 一緒にいる、側近ともいえる老齢の竜だけは、わしの考えに同意してくれているようじゃが。


「勝てそうですか?」

「もしあれがあやつの全力ならば……でも、あれ軽く遊んでただけだよな?」

「私にもそう見えました」


 片手でタイラントベアを上空に放り投げる男。

 それも遊び半分で。

 本気出したら、わしも空に放り投げられそう。


「こうなったら俺らだけで行くか?」

「ああ、竜王様にはガッカリだ」

「あんな小さいのに、何を遠慮する必要が」

「歯牙にもかけてないだけじゃないのか?」

「あれは、どう考えてもビビってるって言うんだよ」


 若い衆が好き放題言ってる。

 頼むから刺激しないでもらいたい。


 わしはこの森の竜王だけど、世界の竜王じゃない。

 そして、あの男は全ての竜王を統べる大竜王様くらいしか相手に出来ないんじゃないかな?

 お前らじゃ、絶対に無理だと思うぞ?

 だから、少し落ち着こうか。


「これ、先にこちらから挨拶に行った方が良くないですか?」

「あっ、お前もそう思うか?」


 若い衆が暴走する前に、手を打った方が良いという側近の竜。

 うん、わしもそう思った。

 


ストック放出終了(;'∀')

暫くブクマしてお待ち頂けると、嬉しいです♪

更新をいち早く知りたいならば、ブクマを是非されるべきかと。

ブクマをされると、更新がすぐに分かりますよ?

なおブクマが今日一日で1万件増えたら、更新速度が10倍になるかも(`・ω・´)b


評価感想も、ドシドシ受け付けております(*´▽`*)

というか、お待ちしておりますm(__)m


一応、取りあえず次の投稿予定は一週間以内で未定です。

その後は、投稿した曜日でしばらく続けようかと……

何曜日が良いんだろう?

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